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エイダ
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一階にもどると、マリアが立ち止まった。
「どうしたの?」
サンディが声をかけた。
「あの思考機械が呼んでいます」
マリアは答えた。
「エイダが?」
マリアはうなずき、エイダの部屋へ歩いていく。
パックたちも続いた。
ざあああ……ざあああ……。
壁の装置が波の音のようなざわめきをたてている。
エイダが思考しているのだ。
「マリア……」
エイダは目を開いた。
「わたしとあなたは、おなじ〝魔素〟によって思考し、外界を感知します。いま、わたしたちには見えない絆が生まれました。判りますね?」
「はい……」
マリアの返事に、パックは驚いた。
エイダは続けた。
「わたしはここから一歩も動くことは出来ません。しかしあなたを通して、外界を感知することができるようになりました。あなたが見るものをわたしも見、あなたが聞くことをわたしも聞くのです。わたしは外界の〝魔素〟の異常な集中を感知することが出来ます。それをあなたに伝えましょう。それにより、あなたがたの探す相手がどこにいるか、逐一伝えることができるでしょう」
「ミリィの行方が判る、というのかい?」
「そのミリィと言う娘が、異常な〝魔素〟の集中する存在と一緒に行動しているかぎり、その近くにいる可能性は高いでしょう」
そうか……パックの胸に希望がともった。
いままではあまりの距離に絶望的になっていたが、こうなるとマリアを通じてエイダの判断を知ることが出来る。
パックは無性に旅立ちを欲していた。
その時、わあ! という大声が外から聞こえた。
さっとニコラ博士は顔をあげた。
「やりおった!」
どたばたと大股で外へのドアを開く。
バベジの家の側に停まっているムカデに数人の子供が群がり、そのうちのひとりが目を丸くして地面にぺたんと腰をおろしていた。驚きに、すっかり腰がぬけているようだ。
「どうしたんだい?」
少年はすっかり怯え、震える指先でムカデを指さしている。
ニコラは笑った。
「盗難防止に、ちょっと仕掛けをしておったのじゃ。わし以外の人間が操縦装置に触れると、電流が流れるようになっておる。なに、ちくっと刺すような痛みがはしるだけだから大事ない」
博士は少年の頭をなでた。
「もう、悪戯するでないぞ」
少年は立ち上がり、逃げ出した。ちらっ、ちらっと何度も振り返っている。
ニコラ博士はバベジ教授を見た。
「あんたの思考機械、すばらしい発明じゃ。わしはあの発明が、人類の未来を切り開くものだと思う」
有難う、というようにバベジは頭をさげた。
「どうしたの?」
サンディが声をかけた。
「あの思考機械が呼んでいます」
マリアは答えた。
「エイダが?」
マリアはうなずき、エイダの部屋へ歩いていく。
パックたちも続いた。
ざあああ……ざあああ……。
壁の装置が波の音のようなざわめきをたてている。
エイダが思考しているのだ。
「マリア……」
エイダは目を開いた。
「わたしとあなたは、おなじ〝魔素〟によって思考し、外界を感知します。いま、わたしたちには見えない絆が生まれました。判りますね?」
「はい……」
マリアの返事に、パックは驚いた。
エイダは続けた。
「わたしはここから一歩も動くことは出来ません。しかしあなたを通して、外界を感知することができるようになりました。あなたが見るものをわたしも見、あなたが聞くことをわたしも聞くのです。わたしは外界の〝魔素〟の異常な集中を感知することが出来ます。それをあなたに伝えましょう。それにより、あなたがたの探す相手がどこにいるか、逐一伝えることができるでしょう」
「ミリィの行方が判る、というのかい?」
「そのミリィと言う娘が、異常な〝魔素〟の集中する存在と一緒に行動しているかぎり、その近くにいる可能性は高いでしょう」
そうか……パックの胸に希望がともった。
いままではあまりの距離に絶望的になっていたが、こうなるとマリアを通じてエイダの判断を知ることが出来る。
パックは無性に旅立ちを欲していた。
その時、わあ! という大声が外から聞こえた。
さっとニコラ博士は顔をあげた。
「やりおった!」
どたばたと大股で外へのドアを開く。
バベジの家の側に停まっているムカデに数人の子供が群がり、そのうちのひとりが目を丸くして地面にぺたんと腰をおろしていた。驚きに、すっかり腰がぬけているようだ。
「どうしたんだい?」
少年はすっかり怯え、震える指先でムカデを指さしている。
ニコラは笑った。
「盗難防止に、ちょっと仕掛けをしておったのじゃ。わし以外の人間が操縦装置に触れると、電流が流れるようになっておる。なに、ちくっと刺すような痛みがはしるだけだから大事ない」
博士は少年の頭をなでた。
「もう、悪戯するでないぞ」
少年は立ち上がり、逃げ出した。ちらっ、ちらっと何度も振り返っている。
ニコラ博士はバベジ教授を見た。
「あんたの思考機械、すばらしい発明じゃ。わしはあの発明が、人類の未来を切り開くものだと思う」
有難う、というようにバベジは頭をさげた。
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