蒸汽帝国~真鍮の乙女~

万卜人

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少尉ギャン

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 ギャンは本部の壁に架けられている帝国軍の系統図を見上げた。
 これには帝国軍のさまざまな部署が、ひとめでわかるように図で示されている。
 そのうち、どの軍の部署にも属さない、兵器開発局という部署に目をつけた。
 これは面白そうだ。どうやら、研究開発をしている部門らしい。
 二階にある軍令部に出かけ、この兵器開発局への任官をとりつける。あっという間にギャンは軍令部のお墨付きを手に、外に待たせてあった蒸気車に乗り込んだ。
 研究所はボーラン市のはずれにあった。
 軍の建物がそびえ、その隣りに巨大な倉庫のような研究所の建物が見える。
 扉を開け、中に入り込むと、ひとりの老人がなにやら研究ノートにぶつぶつつぶやきながら書き込んでいる。
 老人は顔を上げ、眼鏡を指で押し上げた。
「だれじゃね、お前さんは。あまり見かけない顔だが」
 ギャンは大声をあげた。
「ニコラ博士!」
 老人は苦い顔になった。
「また兄に間違えられた。わしは弟のテスラじゃ!」
「テスラ……博士?」
「そうじゃ。兄のことを知っているということは、お前さんはロロ村の人間じゃな?」
 眼鏡のおくから、テスラ博士はじろりとギャンを睨んだ。
 ギャンはうなずいた。
「また、と仰いましたね。それはどういうことです?」
「昨日のことじゃ。ロロ村から兄が来ておって、パックという妙な小僧とサンディという小娘をここに連れてきたのじゃ。わしは兄と喧嘩して、二度と会わんということになった……」
 怒りのため、テスラ博士の話しは性急で、ギャンは苦労してそのつじつまを探った。ようやく話しの筋道をたどり、ギャンはロボットの存在に興味を示した。
「鉄人兵団ですか?」
 問いかけると、テスラ博士はにやりと笑った。手許のノートに描かれているスケッチをギャンは覗き込んだ。
 荒っぽくあるが、どっしりとした鉄の鎧をまとった人のような機械が描かれている。スケッチにはテスラ博士の字だろうか、さまざまな書き込みがあった。
 その中の、〝魔素〟という字にギャンは引き付けられた。
「その〝魔素〟とは?」
「ああ、兄のニコラが発見した要素じゃ。この〝魔素〟が魔法の源なのじゃそうだが、わしはまだ確認しとらん。これを研究すれば、鉄人兵団はおろか、さまざまな兵器を開発できるようになるじゃろう」
 ギャンはうなずいた。あきらかに、自分のこの能力は〝魔素〟によるものだ。
 どんぴしゃりだ!
 ギャンは自分が望むものを手に入れたのを感じていた。
「博士! ぜひ、その鉄人兵団を完成させてください! この研究は、帝国にとってきわめて有用なものになります」
「言うまでもないわい。しかし予算が限られておるからな……」
「それはなんとかなります。資金は、軍令部に要求してください。ぼくがうまくやりますから」
 テスラ博士は疑わしそうにギャンの階級を眺めた。
 少尉と言えば士官候補生にすぎない。それにギャンは見るからに若造で、そんなかれに予算を要求させる権限などあるはずもない。
 ギャンは肩をすくめた。
「まあ、見ていてくださいよ。それまで、この鉄人兵団と〝魔素〟の研究を続けてください。じき、予算がつきますから」
 その場でギャンはテスラ博士に軍令部への予算請求の書類を用意させた。それを書類入れにいれると、ギャンはふたたび帝国軍本部へと取って返した。
 本部へ向かう蒸気車の中で、ギャンはいまの出会いを興奮してふりかえっていた。
 あのテスラ博士は掘り出し物だ……なんとかしてかれにもっと多くの、そして世界を征服するにたりる兵器を発明させる必要がある。
 ギャンの空想はひろがった。
 ぞくぞくと生産される鉄人兵団、空を飛ぶ戦車、巨大な戦艦。それらをしたがえ、世界を征服する自分の勇姿……。
 ギャンはそのイメージに酔っていた。
 
 そのころ、研究所でテスラ博士は鉄人兵のスケッチを前にあることをつぶやいていた。
「この鉄人兵に知能を付与するためには……うむ!」
 博士の目がおおきく見開かれた。
「あやつじゃ! たしか二、三年前空想的な論文を提出した若いやつがおったな。なんといったか名前は……そうじゃ! バベジ! バベジ教授じゃ!」
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