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サンディ
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「どうしたのかな、父さん。なんだか慌てていたみたいだ」
「あの娘、サンディといったな。いったいどこで出会ったんじゃ?」
ホルストがにやにやしながら問いかけた。
パックはサンディの出会いの顛末を語った。
「妙な娘だな」
話を聞き終わったニコラ博士はぽつりとつぶやいた。
足音が近づき、ドアが開いてホルンが姿を現した。
全員が注目すると、ホルンは額の汗をぬぐってしょっぱい笑顔を見せた。
「いや、まいった。冷や汗をかいたよ」
やれやれとつぶやいて、ホルンは椅子に座り込んだ。
「ホルンさん。あの娘に部屋をとってやったのか?」
ホルストが問いかけると、ホルンはうんとうなずいた。
「ああ、ここでへたに追い払うと、どこでどんな目にあうか、わかったもんじゃないからな」
ニコラが口を開いた。
「またなんで、そんな親切をしてやる気になったのかね?」
ホルンはため息をついた。
「あの娘はかなりの家柄の娘だ。おそらく貴族の出だろう」
みな、疑問を顔に出したのだろう。ホルンは説明し始めた。
「あの娘がわたしに差し出した革袋の中身は、宝石だった。それも、きわめて高価なものであることは一目でわかった。あんなものを持つのは貴族しかいない。そしてそれを持ち出せるということは、彼女がそういった家柄の出であることは間違いない、と思う。そこでひとつ疑問がわく」
ホルンは眉をひそめた。
「なぜそんな高価な宝石を持ち歩いているのか。そんなものを持ち歩いているより、現金を持っていたほうが便利じゃないか。あの娘の服装を見ると、そうとう裕福な暮らしをしていることがよくわかる。裕福であるが現金を持ち歩く習慣がない……しかし高価な宝石を持ち出せることのできる家柄となると、貴族しか思い当たらない。それもそうとう高位の貴族だ。すくなくとも伯爵以上の家柄だろう」
ニコラが皮肉な口調で言った。
「それで親切にしてやる気になったのかね? 彼女の家がお礼をすることを期待して」
それを聞いたホルンは肩をすくめた。
「馬鹿な! おれはあの娘がもしかしたら家出をしたのではないかと思っているのだよ。あの世間知らずの様子から、おそらくボーラン市をひとりで歩くのは今回が初めてなのかもしれない。あのまま目を離したら、どんな連中に捕まるか判ったものじゃない。だから、おれの目の届くところにおいておこうと思ったのだ。おそらく、家のものは彼女を必死で探しているだろう。その間、家族が見つかるまで、部屋をとってやったのだ」
ニコラはうなずいた。
「判ったよ。あんたの考えが。おそらくあの娘はあんたの言うとおり、かなりの貴族の家柄の娘なんだろうな。しかし面倒なことになるぞ。そういう貴族の家というものは奇妙な論理をもつことがあるからな」
「まあな。しかし勝手な行動をさせておくより、ましだ。とにかくあの娘の正体を知らんことにはどうしようもない。そこでパック!」
いきなり自分に話題をふられ、パックはびっくりした。
「な、なんだよ」
「お前、あの娘と行動をともにして、なんとか彼女の家を聞き出すんだ。もしおれの思ったとおり、家出をしたのなら、なかなか話さないとは思うが、とにかくどこの家の出か判らんと、どうしようもない」
おれに? と、パックは自分の鼻を指さした。ホルンが重々しく頷くのを見て、パックは天を仰いだ。
「あの娘、サンディといったな。いったいどこで出会ったんじゃ?」
ホルストがにやにやしながら問いかけた。
パックはサンディの出会いの顛末を語った。
「妙な娘だな」
話を聞き終わったニコラ博士はぽつりとつぶやいた。
足音が近づき、ドアが開いてホルンが姿を現した。
全員が注目すると、ホルンは額の汗をぬぐってしょっぱい笑顔を見せた。
「いや、まいった。冷や汗をかいたよ」
やれやれとつぶやいて、ホルンは椅子に座り込んだ。
「ホルンさん。あの娘に部屋をとってやったのか?」
ホルストが問いかけると、ホルンはうんとうなずいた。
「ああ、ここでへたに追い払うと、どこでどんな目にあうか、わかったもんじゃないからな」
ニコラが口を開いた。
「またなんで、そんな親切をしてやる気になったのかね?」
ホルンはため息をついた。
「あの娘はかなりの家柄の娘だ。おそらく貴族の出だろう」
みな、疑問を顔に出したのだろう。ホルンは説明し始めた。
「あの娘がわたしに差し出した革袋の中身は、宝石だった。それも、きわめて高価なものであることは一目でわかった。あんなものを持つのは貴族しかいない。そしてそれを持ち出せるということは、彼女がそういった家柄の出であることは間違いない、と思う。そこでひとつ疑問がわく」
ホルンは眉をひそめた。
「なぜそんな高価な宝石を持ち歩いているのか。そんなものを持ち歩いているより、現金を持っていたほうが便利じゃないか。あの娘の服装を見ると、そうとう裕福な暮らしをしていることがよくわかる。裕福であるが現金を持ち歩く習慣がない……しかし高価な宝石を持ち出せることのできる家柄となると、貴族しか思い当たらない。それもそうとう高位の貴族だ。すくなくとも伯爵以上の家柄だろう」
ニコラが皮肉な口調で言った。
「それで親切にしてやる気になったのかね? 彼女の家がお礼をすることを期待して」
それを聞いたホルンは肩をすくめた。
「馬鹿な! おれはあの娘がもしかしたら家出をしたのではないかと思っているのだよ。あの世間知らずの様子から、おそらくボーラン市をひとりで歩くのは今回が初めてなのかもしれない。あのまま目を離したら、どんな連中に捕まるか判ったものじゃない。だから、おれの目の届くところにおいておこうと思ったのだ。おそらく、家のものは彼女を必死で探しているだろう。その間、家族が見つかるまで、部屋をとってやったのだ」
ニコラはうなずいた。
「判ったよ。あんたの考えが。おそらくあの娘はあんたの言うとおり、かなりの貴族の家柄の娘なんだろうな。しかし面倒なことになるぞ。そういう貴族の家というものは奇妙な論理をもつことがあるからな」
「まあな。しかし勝手な行動をさせておくより、ましだ。とにかくあの娘の正体を知らんことにはどうしようもない。そこでパック!」
いきなり自分に話題をふられ、パックはびっくりした。
「な、なんだよ」
「お前、あの娘と行動をともにして、なんとか彼女の家を聞き出すんだ。もしおれの思ったとおり、家出をしたのなら、なかなか話さないとは思うが、とにかくどこの家の出か判らんと、どうしようもない」
おれに? と、パックは自分の鼻を指さした。ホルンが重々しく頷くのを見て、パックは天を仰いだ。
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