114 / 279
伯爵
1
しおりを挟む
館は荒れ果てていた。
かつては美しい庭園が目を楽しませていたであろう庭は一面に枯れ草が重なり、枯れ木が死人の指のような枝をひろげている。池は涸れ、かさかさの砂埃が幾重にも重なっていた。
見上げるような塀をたどり、正門前で三人は立ち止まった。正門の鉄扉は倒れ、両脇の石の柱には奇妙な紋章と怪物の彫像が刻まれている。怪物はかっと口を開き、おおきく見開いた目で見知らぬ侵入者を睨みつけている。
「入るべき……よね?」
ミリィはケイに尋ねた。
ケイはうなずいた。
「そうね、〝案内棒〟が示した方角をたどった結果ですもん。いまは棒を信じるしかないわ」
三人はゆっくりと館の敷地に入っていった。
ミリィはちらりとヘロヘロを見た。
無表情だが、ヘロヘロはぴりぴりと緊張しているようだった。ぴんとたった耳の先端がぴくぴく動いている。
ミリィはささやきかけた。
「どうしたの?」
「ここにはなにかいる……おれには感じるんだ……!」
ヘロヘロは呻くように答えた。
ミリィはちょっと驚いた。いままでヘロヘロがこんな反応を見せることはなかった。そしてこわごわと彼女は館を見た。
館はすべて石組みで出来ていて、長年の放置で崩壊が始まっていた。蔦がからまり、根を張って石組みを壊し、それから枯れたのだろう。一面に茶色い蔦がからまっていた。
両脇に翼をひろげたような形に館は建てられており、正面の馬車道はカーブを描いて両腕をのばしたようなふたつの階段につながっている。その階段のさきには半円形のバルコニーが続いていた。
玄関のドアは開け放たれ、観音開きのドアは片方の蝶番が折れたのか、ななめに倒れている。
三人は館の中に入っていく。どうやらここは客を迎え入れる広間だったようだ。
たっぷりとした採光を取り入れた設計で、窓からの光で中は充分明るい。
窓にかけられたぼろぼろのカーテンが、かすかな風にふわりとなびく。空気にはかすかなかび臭い匂いがまじっていた。
広間の壁という壁には無数の絵が飾られている。絵の主題はたいてい風景画か室内で、どうやらこの館の生活を描いたもののようだ。ほとんどの絵には数人の男女が登場し、楽しげに歓談したり、なにかの遊戯にふけっていたりする。絵の背景に描かれた風景は、みなかつての館の在りし日らしい。庭の緑は生き生きとして、池の水面には水草が生え、庭の緑を映していた。
ミリィは天井を見上げた。
細かな模様が精緻な浮き彫りでほどこされ、一面に蜘蛛の巣が張ってはいたが、かつての豪華さはいまも健在だった。
広間には放置されたさまざまな調度が、ほこりをかぶっている。まるである日、ふいに館の住人がここを大慌てで立ち去り、そのままにしたようで、その後誰も訪れていないかのようだった。
ケイは広間の壁にかけられた肖像画に気づいた。そっとミリィの肩にふれ、そちらを指さす。
ミリィもケイの見つけた肖像画を見た。
かつては美しい庭園が目を楽しませていたであろう庭は一面に枯れ草が重なり、枯れ木が死人の指のような枝をひろげている。池は涸れ、かさかさの砂埃が幾重にも重なっていた。
見上げるような塀をたどり、正門前で三人は立ち止まった。正門の鉄扉は倒れ、両脇の石の柱には奇妙な紋章と怪物の彫像が刻まれている。怪物はかっと口を開き、おおきく見開いた目で見知らぬ侵入者を睨みつけている。
「入るべき……よね?」
ミリィはケイに尋ねた。
ケイはうなずいた。
「そうね、〝案内棒〟が示した方角をたどった結果ですもん。いまは棒を信じるしかないわ」
三人はゆっくりと館の敷地に入っていった。
ミリィはちらりとヘロヘロを見た。
無表情だが、ヘロヘロはぴりぴりと緊張しているようだった。ぴんとたった耳の先端がぴくぴく動いている。
ミリィはささやきかけた。
「どうしたの?」
「ここにはなにかいる……おれには感じるんだ……!」
ヘロヘロは呻くように答えた。
ミリィはちょっと驚いた。いままでヘロヘロがこんな反応を見せることはなかった。そしてこわごわと彼女は館を見た。
館はすべて石組みで出来ていて、長年の放置で崩壊が始まっていた。蔦がからまり、根を張って石組みを壊し、それから枯れたのだろう。一面に茶色い蔦がからまっていた。
両脇に翼をひろげたような形に館は建てられており、正面の馬車道はカーブを描いて両腕をのばしたようなふたつの階段につながっている。その階段のさきには半円形のバルコニーが続いていた。
玄関のドアは開け放たれ、観音開きのドアは片方の蝶番が折れたのか、ななめに倒れている。
三人は館の中に入っていく。どうやらここは客を迎え入れる広間だったようだ。
たっぷりとした採光を取り入れた設計で、窓からの光で中は充分明るい。
窓にかけられたぼろぼろのカーテンが、かすかな風にふわりとなびく。空気にはかすかなかび臭い匂いがまじっていた。
広間の壁という壁には無数の絵が飾られている。絵の主題はたいてい風景画か室内で、どうやらこの館の生活を描いたもののようだ。ほとんどの絵には数人の男女が登場し、楽しげに歓談したり、なにかの遊戯にふけっていたりする。絵の背景に描かれた風景は、みなかつての館の在りし日らしい。庭の緑は生き生きとして、池の水面には水草が生え、庭の緑を映していた。
ミリィは天井を見上げた。
細かな模様が精緻な浮き彫りでほどこされ、一面に蜘蛛の巣が張ってはいたが、かつての豪華さはいまも健在だった。
広間には放置されたさまざまな調度が、ほこりをかぶっている。まるである日、ふいに館の住人がここを大慌てで立ち去り、そのままにしたようで、その後誰も訪れていないかのようだった。
ケイは広間の壁にかけられた肖像画に気づいた。そっとミリィの肩にふれ、そちらを指さす。
ミリィもケイの見つけた肖像画を見た。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

婚約者が隣国の王子殿下に夢中なので潔く身を引いたら病弱王女の婚約者に選ばれました。
ユウ
ファンタジー
辺境伯爵家の次男シオンは八歳の頃から伯爵令嬢のサンドラと婚約していた。
我儘で少し夢見がちのサンドラは隣国の皇太子殿下に憧れていた。
その為事あるごとに…
「ライルハルト様だったらもっと美しいのに」
「どうして貴方はライルハルト様じゃないの」
隣国の皇太子殿下と比べて罵倒した。
そんな中隣国からライルハルトが留学に来たことで関係は悪化した。
そして社交界では二人が恋仲で悲恋だと噂をされ爪はじきに合うシオンは二人を思って身を引き、騎士団を辞めて国を出ようとするが王命により病弱な第二王女殿下の婚約を望まれる。
生まれつき体が弱く他国に嫁ぐこともできないハズレ姫と呼ばれるリディア王女を献身的に支え続ける中王はシオンを婿養子に望む。
一方サンドラは皇太子殿下に近づくも既に婚約者がいる事に気づき、シオンと復縁を望むのだが…
HOT一位となりました!
皆様ありがとうございます!

【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです
yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~
旧タイトルに、もどしました。
日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。
まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。
劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。
日々の衣食住にも困る。
幸せ?生まれてこのかた一度もない。
ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・
目覚めると、真っ白な世界。
目の前には神々しい人。
地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・
短編→長編に変更しました。
R4.6.20 完結しました。
長らくお読みいただき、ありがとうございました。

ぽっちゃり女子の異世界人生
猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。
最強主人公はイケメンでハーレム。
脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。
落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。
=主人公は男でも女でも顔が良い。
そして、ハンパなく強い。
そんな常識いりませんっ。
私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。
【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】
拝啓、愛しの侯爵様~行き遅れ令嬢ですが、運命の人は案外近くにいたようです~
藤原ライラ
ファンタジー
心を奪われた手紙の先には、運命の人が待っていた――
子爵令嬢のキャロラインは、両親を早くに亡くし、年の離れた弟の面倒を見ているうちにすっかり婚期を逃しつつあった。夜会でも誰からも相手にされない彼女は、新しい出会いを求めて文通を始めることに。届いた美しい字で洗練された内容の手紙に、相手はきっとうんと年上の素敵なおじ様のはずだとキャロラインは予想する。
彼とのやり取りにときめく毎日だがそれに難癖をつける者がいた。幼馴染で侯爵家の嫡男、クリストファーである。
「理想の相手なんかに巡り合えるわけないだろう。現実を見た方がいい」
四つ年下の彼はいつも辛辣で彼女には冷たい。
そんな時キャロラインは、夜会で想像した文通相手とそっくりな人物に出会ってしまう……。
文通相手の正体は一体誰なのか。そしてキャロラインの恋の行方は!?
じれじれ両片思いです。
※他サイトでも掲載しています。
イラスト:ひろ様(https://xfolio.jp/portfolio/hiro_foxtail)

異世界に召喚されたけど、聖女じゃないから用はない? それじゃあ、好き勝手させてもらいます!
明衣令央
ファンタジー
糸井織絵は、ある日、オブルリヒト王国が行った聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界ルリアルークへと飛ばされてしまう。
一緒に召喚された、若く美しい女が聖女――織絵は召喚の儀に巻き込まれた年増の豚女として不遇な扱いを受けたが、元スマホケースのハリネズミのぬいぐるみであるサーチートと共に、オブルリヒト王女ユリアナに保護され、聖女の力を開花させる。
だが、オブルリヒト王国の王子ジュニアスは、追い出した織絵にも聖女の可能性があるとして、織絵を連れ戻しに来た。
そして、異世界転移状態から正式に異世界転生した織絵は、若く美しい姿へと生まれ変わる。
この物語は、聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界転移後、新たに転生した一人の元おばさんの聖女が、相棒の元スマホケースのハリネズミと楽しく無双していく、恋と冒険の物語。
2022.9.7 話が少し進みましたので、内容紹介を変更しました。その都度変更していきます。

〈完結〉前世と今世、合わせて2度目の白い結婚ですもの。場馴れしておりますわ。
ごろごろみかん。
ファンタジー
「これは白い結婚だ」
夫となったばかりの彼がそう言った瞬間、私は前世の記憶を取り戻した──。
元華族の令嬢、高階花恋は前世で白い結婚を言い渡され、失意のうちに死んでしまった。それを、思い出したのだ。前世の記憶を持つ今のカレンは、強かだ。
"カーター家の出戻り娘カレンは、貴族でありながら離婚歴がある。よっぽど性格に難がある、厄介な女に違いない"
「……なーんて言われているのは知っているけど、もういいわ!だって、私のこれからの人生には関係ないもの」
白魔術師カレンとして、お仕事頑張って、愛猫とハッピーライフを楽しみます!
☆恋愛→ファンタジーに変更しました

他人の寿命が視える俺は理を捻じ曲げる。学園一の美令嬢を助けたら凄く優遇されることに
千石
ファンタジー
【第17回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞】
魔法学園4年生のグレイ・ズーは平凡な平民であるが、『他人の寿命が視える』という他の人にはない特殊な能力を持っていた。
ある日、学園一の美令嬢とすれ違った時、グレイは彼女の余命が本日までということを知ってしまう。
グレイは自分の特殊能力によって過去に周りから気味悪がられ、迫害されるということを経験していたためひたすら隠してきたのだが、
「・・・知ったからには黙っていられないよな」
と何とかしようと行動を開始する。
そのことが切っ掛けでグレイの生活が一変していくのであった。
他の投稿サイトでも掲載してます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる