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裁定
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そうしている間にも、広間にはつぎつぎと目覚めたエルフたちが寝床からおり、ラングのもとへ挨拶にやってくる。
ラングはいちいち頷き、挨拶をかえす。
まるで王様のようだ、とミリィは思った。
「みなの者! ながき眠りから目覚めたエルフの選ばれ者たち! ようやく、魔法がこの世界に戻ってきたようだ……」
ラングの言葉に、エルフたちは顔を輝かせた。が、ラングは重々しい口調で続けた。
「が、単純に喜べることではないのだ。その魔法のみなもとについて、あらたな疑問が生じたのだ。みな、そこの魔物を見よ!」
エルフたちはラングの言葉に、ミリィの側で身動きもとれないでいるヘロヘロを見た。
かれらの顔に驚きの表情が浮かんだ。
「魔物だ……」
「邪悪な気配を感じるぞ!」
「しかしまだ、その邪悪さは完全に表に出ていないようだ」
「そのとおりだ!」
ラングは声を張り上げた。
「ここにいる人間の娘、ミリィによると、世界に蘇った魔法のちからは、そこの魔物がもたらしたものらしい。われらが眠りに着く前、世界を支配していた魔王がいたことは諸君も知っていよう?」
うなずくエルフたち。
「その魔王のなれのはてが、その魔物なのだ。世界から魔法が失われたとき、その魔王が封印されたと言う。そして封印が解けたとき、世界に魔法が蘇った。その関連はあきらかである!」
エルフたちに動揺がはしる。
「お館さま。それではわれらの魔法のみなもとは、そこの邪悪な魔物によってもたされている、と申されるのですか?」
「魔王がわれらの救い主、ということですか? そんな馬鹿な……」
ラングはゆっくりと首をふった。
「そうなのだ……まことに驚くべきことだが、疑いはない。これからどうしたらいいものかな?」
「その魔物はいますぐ殺してしまうべきです! いまなら殺せるはずだ! なにしろ、いまだ魔王として本性をあらわしていないようですからな」
別のエルフが疑問を呈した。
「しかし魔法はどうなる。魔王を倒せば、ふたたびわれらは眠りにつかなくてはならなくなるぞ」
「とばかりとも限りますまい。その魔物を殺してから、ゆっくりと魔法のみなもとの秘密を解き明かしてもよい。その身体に魔法のみなもとが隠されていれば、それを取り出せばふたたび世界に魔法を蘇らせることが出来るかもしれん」
それを聞いていたヘロヘロは震え上がった。
ラングの瞳が光った。
「魔法を取り戻すことができるかどうか、それは判らんが、魔王を未然に殺す、ということは賛成できる。魔王がこの世界に君臨していたころ、世界には絶望しか存在しなかった。あの苦痛をふたたびもたらしてはならん! われらは魔法なしでは生きられないが、ほかの生き物にはそうでもない。が、魔王の脅威は他の生き物、そしてわれらに明らかである!」
そう言うと、ラングは手に持った杖を構え、ヘロヘロに向き直った。
ラングはいちいち頷き、挨拶をかえす。
まるで王様のようだ、とミリィは思った。
「みなの者! ながき眠りから目覚めたエルフの選ばれ者たち! ようやく、魔法がこの世界に戻ってきたようだ……」
ラングの言葉に、エルフたちは顔を輝かせた。が、ラングは重々しい口調で続けた。
「が、単純に喜べることではないのだ。その魔法のみなもとについて、あらたな疑問が生じたのだ。みな、そこの魔物を見よ!」
エルフたちはラングの言葉に、ミリィの側で身動きもとれないでいるヘロヘロを見た。
かれらの顔に驚きの表情が浮かんだ。
「魔物だ……」
「邪悪な気配を感じるぞ!」
「しかしまだ、その邪悪さは完全に表に出ていないようだ」
「そのとおりだ!」
ラングは声を張り上げた。
「ここにいる人間の娘、ミリィによると、世界に蘇った魔法のちからは、そこの魔物がもたらしたものらしい。われらが眠りに着く前、世界を支配していた魔王がいたことは諸君も知っていよう?」
うなずくエルフたち。
「その魔王のなれのはてが、その魔物なのだ。世界から魔法が失われたとき、その魔王が封印されたと言う。そして封印が解けたとき、世界に魔法が蘇った。その関連はあきらかである!」
エルフたちに動揺がはしる。
「お館さま。それではわれらの魔法のみなもとは、そこの邪悪な魔物によってもたされている、と申されるのですか?」
「魔王がわれらの救い主、ということですか? そんな馬鹿な……」
ラングはゆっくりと首をふった。
「そうなのだ……まことに驚くべきことだが、疑いはない。これからどうしたらいいものかな?」
「その魔物はいますぐ殺してしまうべきです! いまなら殺せるはずだ! なにしろ、いまだ魔王として本性をあらわしていないようですからな」
別のエルフが疑問を呈した。
「しかし魔法はどうなる。魔王を倒せば、ふたたびわれらは眠りにつかなくてはならなくなるぞ」
「とばかりとも限りますまい。その魔物を殺してから、ゆっくりと魔法のみなもとの秘密を解き明かしてもよい。その身体に魔法のみなもとが隠されていれば、それを取り出せばふたたび世界に魔法を蘇らせることが出来るかもしれん」
それを聞いていたヘロヘロは震え上がった。
ラングの瞳が光った。
「魔法を取り戻すことができるかどうか、それは判らんが、魔王を未然に殺す、ということは賛成できる。魔王がこの世界に君臨していたころ、世界には絶望しか存在しなかった。あの苦痛をふたたびもたらしてはならん! われらは魔法なしでは生きられないが、ほかの生き物にはそうでもない。が、魔王の脅威は他の生き物、そしてわれらに明らかである!」
そう言うと、ラングは手に持った杖を構え、ヘロヘロに向き直った。
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