蒸汽帝国~真鍮の乙女~

万卜人

文字の大きさ
上 下
85 / 279
エルフの館

しおりを挟む
 鍵はかかっていない。
 そのことにミリィはちょっと驚いた。なんとなく、鍵がかかっているものと決め込んでいたからである。
 入ってすぐにミリィは立ちすくんだ。
 そこは広間になっていた。
 その広間のすみからすみまで、ひとひとりがようやく寝そべられるほどのベッドが無数に置かれ、そのベッドひとつひとつに人があおむけに寝かされていたからである。
 みなぴくりとも動かない。
 こわごわとミリィは人物に近づいた。
 指先を人物の肌に押し当て、びくっと引いた。
「これ人間じゃないわ……まるで木像のよう……」
 そう、ミリィの触れた人物の肌はまるで木像のように固く、ひやりとした感触をつたえてきたのだ。
 ミリィは顔を近づけてつぶやいた。
「でもまるで生きているみたい……もし木像となると、なんでこんなに精巧なものを? これ、生きていたころの写しかなにか?」
「いいや、これらは本物だ。ただし人間じゃない」
 ヘロヘロがうめいた。
「人間じゃない?」
「そうだ。よく見てみろ。人間がこんな耳をしているか?」
 ヘロヘロに言われ、ミリィはそっとその耳に視線をうつした。
 なるほど、人間とは違った、ぴん、と尖った耳が生えている。
「エルフだよ。人間よりもっと古い種族でな。信じられないほど長生きだ。おそらく、その最長老は一万年は生きているだろう」
 エルフ……。
 その名前はミリィにも聞き覚えがあった。
 が、おとぎ話の登場人物としてだ。
 ふとあることに気づき、ミリィはヘロヘロの耳をちらりと見た。
 ヘロヘロの耳もおなじように尖っている。
 そしてヘロヘロが言った言葉。
 ここには覚えがある……。
 ヘロヘロはこのエルフとなにか関係があるのか? まさか、魔王とよばれるヘロヘロと、気高い種族のエルフが?
「エルフのことは聞いているわ。でもなんでこんな木像みたいになっているの? 生きているのか死んでいるのか……」
「生きておる……」
 ふいに響いた声にミリィは顔をあげた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

【完結】7年待った婚約者に「年増とは結婚できない」と婚約破棄されましたが、結果的に若いツバメと縁が結ばれたので平気です

岡崎 剛柔
恋愛
「伯爵令嬢マリアンヌ・ランドルフ。今日この場にて、この僕――グルドン・シルフィードは君との婚約を破棄する。理由は君が25歳の年増になったからだ」  私は7年間も諸外国の旅行に行っていたグルドンにそう言われて婚約破棄された。  しかも貴族たちを大勢集めたパーティーの中で。  しかも私を年増呼ばわり。  はあ?  あなたが勝手に旅行に出て帰って来なかったから、私はこの年までずっと結婚できずにいたんですけど!  などと私の怒りが爆発しようだったとき、グルドンは新たな人間と婚約すると言い出した。  その新たな婚約者は何とタキシードを着た、6、7歳ぐらいの貴族子息で……。

孕ませねばならん ~イケメン執事の監禁セックス~

あさとよる
恋愛
傷モノになれば、この婚約は無くなるはずだ。 最愛のお嬢様が嫁ぐのを阻止? 過保護イケメン執事の執着H♡

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

旦那様、愛人を作ってもいいですか?

ひろか
恋愛
私には前世の記憶があります。ニホンでの四六年という。 「君の役目は魔力を多く持つ子供を産むこと。その後で君も自由にすればいい」 これ、旦那様から、初夜での言葉です。 んん?美筋肉イケオジな愛人を持っても良いと? ’18/10/21…おまけ小話追加

処理中です...