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エルフの館
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どれほどの巨大さなのだろう。
その館はことごとく太い木の柱で組み上げられ、何層にも重なった屋根が見上げる限り連なっている。
おそろしく古い。
それだけは確かだ。
だが奇妙な印象を館からミリィは受けていた。
古いのだが新しい。
まるでつい昨日出来たばかりなのに、そのまま千年間保存されている。そんな印象を受けるのだ。
木で組みあがった壁、屋根、そして尖塔。いったいどれほどの規模なのだろう。おそらくこの館には一度に千名ほどの人間を収容することができるに違いない。
屋根は急角度で鋭く立ち上がり、その前面には複雑な文様を刻んだ柱が組み込んでいる。
窓はすくなく、ちいさい。どこからどう見ても寒い地方のための住宅である。
口をあんぐりと開け、見上げているヘロヘロのそばで、ミリィはぶるっ、と身を震わせた。
「どうして、こんな大きな館がここにくるまで気づかなかったのかしら? まるで、いきなり現れたみたい……」
そうつぶやくと、全体の大きさを確かめるためか二、三歩下がった。
と、ミリィの姿がふっと掻き消えた。
「ミリィ!」
ヘロヘロは叫んだ。
ぱっ、とミリィの姿がまた現れた。
驚愕の表情である。
「見た? あの館が消えたの!」
「消えたのは、ミリィ、お前だぞ」
え? と、ミリィは首をかしげた。
ヘロヘロはあることを思いついた。
「もう一度、下がってみろ」
言われてミリィは後ろにさがる。
その姿が消える。
また現れた。
「やっぱり消えたわ!」
ヘロヘロは彼女の側を通り過ぎ、ミリィが消えた辺りまで歩いた。
ふりむく。
館は消えていた。
ただ、巨木が茂っているだけである。
もう一度戻る。
「こんどはあんたが消えたわ!」
ヘロヘロは頭をふった。
「それだけじゃない、消えたあたりに立つと、館が消えてしまう。どうやら、特別な魔法が働いているようだ」
ミリィはヘロヘロに言われてまた確かめてみた。
「本当、離れると消える。ここまで戻るとまた見えるようになる……魔法だわ。でも、なんでこんな魔法がかかっているのかしら」
「おそらく、この館を人目にさらしたくないのかもしれないな」
「どこかに入り口はないのかしら」
「こっちだ」
ヘロヘロは鋭い爪の指先をあげた。
指さした方向を見たミリィはうなずいた。
どうやらヘロヘロの言うとおり、入り口があるようである。
どっしりとした木の扉が閉まっている前に、ミリィとヘロヘロは立っていた。
丁度、手の届くあたりに取っ手があった。
ミリィはヘロヘロに顎をしゃくった。
開けてみて、といっている。
ヘロヘロはやれやれと取っ手に手をかけた。
そのまま押す。
ぎいーっ、と音を立て、扉は観音開きに開いていった。
その館はことごとく太い木の柱で組み上げられ、何層にも重なった屋根が見上げる限り連なっている。
おそろしく古い。
それだけは確かだ。
だが奇妙な印象を館からミリィは受けていた。
古いのだが新しい。
まるでつい昨日出来たばかりなのに、そのまま千年間保存されている。そんな印象を受けるのだ。
木で組みあがった壁、屋根、そして尖塔。いったいどれほどの規模なのだろう。おそらくこの館には一度に千名ほどの人間を収容することができるに違いない。
屋根は急角度で鋭く立ち上がり、その前面には複雑な文様を刻んだ柱が組み込んでいる。
窓はすくなく、ちいさい。どこからどう見ても寒い地方のための住宅である。
口をあんぐりと開け、見上げているヘロヘロのそばで、ミリィはぶるっ、と身を震わせた。
「どうして、こんな大きな館がここにくるまで気づかなかったのかしら? まるで、いきなり現れたみたい……」
そうつぶやくと、全体の大きさを確かめるためか二、三歩下がった。
と、ミリィの姿がふっと掻き消えた。
「ミリィ!」
ヘロヘロは叫んだ。
ぱっ、とミリィの姿がまた現れた。
驚愕の表情である。
「見た? あの館が消えたの!」
「消えたのは、ミリィ、お前だぞ」
え? と、ミリィは首をかしげた。
ヘロヘロはあることを思いついた。
「もう一度、下がってみろ」
言われてミリィは後ろにさがる。
その姿が消える。
また現れた。
「やっぱり消えたわ!」
ヘロヘロは彼女の側を通り過ぎ、ミリィが消えた辺りまで歩いた。
ふりむく。
館は消えていた。
ただ、巨木が茂っているだけである。
もう一度戻る。
「こんどはあんたが消えたわ!」
ヘロヘロは頭をふった。
「それだけじゃない、消えたあたりに立つと、館が消えてしまう。どうやら、特別な魔法が働いているようだ」
ミリィはヘロヘロに言われてまた確かめてみた。
「本当、離れると消える。ここまで戻るとまた見えるようになる……魔法だわ。でも、なんでこんな魔法がかかっているのかしら」
「おそらく、この館を人目にさらしたくないのかもしれないな」
「どこかに入り口はないのかしら」
「こっちだ」
ヘロヘロは鋭い爪の指先をあげた。
指さした方向を見たミリィはうなずいた。
どうやらヘロヘロの言うとおり、入り口があるようである。
どっしりとした木の扉が閉まっている前に、ミリィとヘロヘロは立っていた。
丁度、手の届くあたりに取っ手があった。
ミリィはヘロヘロに顎をしゃくった。
開けてみて、といっている。
ヘロヘロはやれやれと取っ手に手をかけた。
そのまま押す。
ぎいーっ、と音を立て、扉は観音開きに開いていった。
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