57 / 279
駐屯地
3
しおりを挟む
背中に銃口を押し付けられたまま、総督府の建物に連れて行かれる。
「怪しいものじゃないですよ! とにかくロロ村で大変なことが……」
だが兵士たちはパックの言うことなど耳を貸す様子もなく、建物の奥へと引っ張っていく。
「なんだ、その小僧は?」
連れてこられた部屋の向こう側で、なにか書類仕事をしていた軍服の男が、顔をあげ叫んだ。
まるで数日間絶食していたと思われるほどげっそりと頬がこけ、目の下には黒々とした隈ができている。その割りに身動きは機敏で、パックはこの軍人はもとからこういう顔つきなんだと思った。
肩には中佐の徽章があった。
「はあ、ロロ村の住民だと申しておりますが、なにやら妙なことを口走っております」
ロロ村……?
と、中佐は首をかしげた。
「ああ、この近くの村だな。で、何があったというんだね?」
これはパックに向けての問いかけだった。
パックは勢い込んで、いままでのことを事細かに説明した。
ふむふむ、と一応親身になってパックの説明を聞いていた中佐だったが、説明が終わるや否や首をふった。
「魔王だの、魔法だの、昼間からこの子供は酒でも呑んでいるのか?」
はっ、とパックを連れてきた兵士はかしこまった。
「いいえ、その様子はありません。ただ妙な乗り物で近づいてきたので、怪しいと思い停止させたのであります」
「妙な乗り物?」
「はあ、ムカデのような足が六対ついておりまして……」
「見せてくれ」
中佐は立ち上がった。
パックを連れてふたたび表へ出る。
建物の前に停止しているムカデに気づき、呆然となった。
「これは……どこの兵器だ?」
「ニコラ博士の発明だよ!」
「ニコラ博士?」
そこでパックはニコラ博士のことも説明するはめとなった。
中佐はうなずいた。
「科学省長官のテスラ博士に兄がいるとは聞いていたが、そうかロロ村にいたのか……」
「科学省長官?」
「そうだ、わがコラル帝国が誇る科学省の長官をなさっておられる。いままで様々な兵器を開発、発明なさった偉大な科学者だ」
そう言うと中佐は胸を張った。
ぽん、とパックの肩に手をやる。
「ともかくお前の村でなにか事件が起きたと言うなら、調査官を派遣するから、調書はその後でとろう。ミリィという女の子が行方不明となれば、わがほうで捜索人として手配するからな」
駄目だこりゃ、とパックは肩を落とした。
まるで信じてくれない。
中佐は腰に両手をあて、にやにやしながら続けた。
「とにかく、魔法だの魔王だの夢のようなことを言うのはよしなさい。まあ、テスラ博士の兄の知り合いだと言うなら怪しいものではなさそうだが、頭がおかしいと思われるのがいやだったら、あまり法螺は吹かないほうが利口だぞ」
パックはムカデに乗り込み、アクセルを踏み込んだ。そっぽをむき、唇を噛みしめた。
こうなったら、誰にも頼むもんか!
しゅっ、しゅっと蒸気を吹き上げ、動き出したムカデに中佐は目を丸くした。
「さよならっ!」
叫ぶと、パックはミリィの連れ去られた北の方角へ向けて、ムカデを走らせていった。
「怪しいものじゃないですよ! とにかくロロ村で大変なことが……」
だが兵士たちはパックの言うことなど耳を貸す様子もなく、建物の奥へと引っ張っていく。
「なんだ、その小僧は?」
連れてこられた部屋の向こう側で、なにか書類仕事をしていた軍服の男が、顔をあげ叫んだ。
まるで数日間絶食していたと思われるほどげっそりと頬がこけ、目の下には黒々とした隈ができている。その割りに身動きは機敏で、パックはこの軍人はもとからこういう顔つきなんだと思った。
肩には中佐の徽章があった。
「はあ、ロロ村の住民だと申しておりますが、なにやら妙なことを口走っております」
ロロ村……?
と、中佐は首をかしげた。
「ああ、この近くの村だな。で、何があったというんだね?」
これはパックに向けての問いかけだった。
パックは勢い込んで、いままでのことを事細かに説明した。
ふむふむ、と一応親身になってパックの説明を聞いていた中佐だったが、説明が終わるや否や首をふった。
「魔王だの、魔法だの、昼間からこの子供は酒でも呑んでいるのか?」
はっ、とパックを連れてきた兵士はかしこまった。
「いいえ、その様子はありません。ただ妙な乗り物で近づいてきたので、怪しいと思い停止させたのであります」
「妙な乗り物?」
「はあ、ムカデのような足が六対ついておりまして……」
「見せてくれ」
中佐は立ち上がった。
パックを連れてふたたび表へ出る。
建物の前に停止しているムカデに気づき、呆然となった。
「これは……どこの兵器だ?」
「ニコラ博士の発明だよ!」
「ニコラ博士?」
そこでパックはニコラ博士のことも説明するはめとなった。
中佐はうなずいた。
「科学省長官のテスラ博士に兄がいるとは聞いていたが、そうかロロ村にいたのか……」
「科学省長官?」
「そうだ、わがコラル帝国が誇る科学省の長官をなさっておられる。いままで様々な兵器を開発、発明なさった偉大な科学者だ」
そう言うと中佐は胸を張った。
ぽん、とパックの肩に手をやる。
「ともかくお前の村でなにか事件が起きたと言うなら、調査官を派遣するから、調書はその後でとろう。ミリィという女の子が行方不明となれば、わがほうで捜索人として手配するからな」
駄目だこりゃ、とパックは肩を落とした。
まるで信じてくれない。
中佐は腰に両手をあて、にやにやしながら続けた。
「とにかく、魔法だの魔王だの夢のようなことを言うのはよしなさい。まあ、テスラ博士の兄の知り合いだと言うなら怪しいものではなさそうだが、頭がおかしいと思われるのがいやだったら、あまり法螺は吹かないほうが利口だぞ」
パックはムカデに乗り込み、アクセルを踏み込んだ。そっぽをむき、唇を噛みしめた。
こうなったら、誰にも頼むもんか!
しゅっ、しゅっと蒸気を吹き上げ、動き出したムカデに中佐は目を丸くした。
「さよならっ!」
叫ぶと、パックはミリィの連れ去られた北の方角へ向けて、ムカデを走らせていった。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

異世界に召喚されたけど、聖女じゃないから用はない? それじゃあ、好き勝手させてもらいます!
明衣令央
ファンタジー
糸井織絵は、ある日、オブルリヒト王国が行った聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界ルリアルークへと飛ばされてしまう。
一緒に召喚された、若く美しい女が聖女――織絵は召喚の儀に巻き込まれた年増の豚女として不遇な扱いを受けたが、元スマホケースのハリネズミのぬいぐるみであるサーチートと共に、オブルリヒト王女ユリアナに保護され、聖女の力を開花させる。
だが、オブルリヒト王国の王子ジュニアスは、追い出した織絵にも聖女の可能性があるとして、織絵を連れ戻しに来た。
そして、異世界転移状態から正式に異世界転生した織絵は、若く美しい姿へと生まれ変わる。
この物語は、聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界転移後、新たに転生した一人の元おばさんの聖女が、相棒の元スマホケースのハリネズミと楽しく無双していく、恋と冒険の物語。
2022.9.7 話が少し進みましたので、内容紹介を変更しました。その都度変更していきます。
異世界召喚に巻き込まれたおばあちゃん
夏本ゆのす(香柚)
ファンタジー
高校生たちの異世界召喚にまきこまれましたが、関係ないので森に引きこもります。
のんびり余生をすごすつもりでしたが、何故か魔法が使えるようなので少しだけ頑張って生きてみようと思います。

【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです
yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~
旧タイトルに、もどしました。
日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。
まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。
劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。
日々の衣食住にも困る。
幸せ?生まれてこのかた一度もない。
ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・
目覚めると、真っ白な世界。
目の前には神々しい人。
地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・
短編→長編に変更しました。
R4.6.20 完結しました。
長らくお読みいただき、ありがとうございました。

巻き込まれたおばちゃん、召喚聖女ちゃんのお母さんになる
戌葉
ファンタジー
子育てが終わりこれからは自分の時間を楽しもうと思っていたある日、目の前で地面へと吸い込まれていく女子高生を助けようとして、自分も吸い込まれてしまった。
え?異世界?この子が聖女?
ちょっと、聖女ちゃんは普通の女の子なのよ?四六時中監視してたら聖女ちゃんの気が休まらないでしょう。部屋から出なさい!この国、いまいち信用できないわね。
でも、せっかく異世界に来たなら、新しいことに挑戦したい。まずは冒険者ね!
聖女召喚に巻き込まれたおばちゃんが、聖女ちゃんの世話を焼いたり、冒険者になってみたりする話。
理不尽に振り回される騎士様の話も。
「悪役令嬢と私の婚約破棄」と同じ世界です。

ぽっちゃり女子の異世界人生
猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。
最強主人公はイケメンでハーレム。
脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。
落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。
=主人公は男でも女でも顔が良い。
そして、ハンパなく強い。
そんな常識いりませんっ。
私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。
【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】
拝啓、愛しの侯爵様~行き遅れ令嬢ですが、運命の人は案外近くにいたようです~
藤原ライラ
ファンタジー
心を奪われた手紙の先には、運命の人が待っていた――
子爵令嬢のキャロラインは、両親を早くに亡くし、年の離れた弟の面倒を見ているうちにすっかり婚期を逃しつつあった。夜会でも誰からも相手にされない彼女は、新しい出会いを求めて文通を始めることに。届いた美しい字で洗練された内容の手紙に、相手はきっとうんと年上の素敵なおじ様のはずだとキャロラインは予想する。
彼とのやり取りにときめく毎日だがそれに難癖をつける者がいた。幼馴染で侯爵家の嫡男、クリストファーである。
「理想の相手なんかに巡り合えるわけないだろう。現実を見た方がいい」
四つ年下の彼はいつも辛辣で彼女には冷たい。
そんな時キャロラインは、夜会で想像した文通相手とそっくりな人物に出会ってしまう……。
文通相手の正体は一体誰なのか。そしてキャロラインの恋の行方は!?
じれじれ両片思いです。
※他サイトでも掲載しています。
イラスト:ひろ様(https://xfolio.jp/portfolio/hiro_foxtail)

聖女の娘に転生したのに、色々とハードな人生です。
みちこ
ファンタジー
乙女ゲームのヒロインの娘に転生した主人公、ヒロインの娘なら幸せな暮らしが待ってると思ったけど、実際は親から放置されて孤独な生活が待っていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる