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ヘロヘロの覚醒
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ヘロヘロの登場は、教室にセンセーションをまきおこした。
ミリィがヘロヘロを紹介すると、わっとばかりに教室の生徒たちはふたりを取り囲んだ。
「すっごーい!」
「ね、その肌色、本物なの?」
「触っていい?」
突然に集まった生徒たちに囲まれ、ヘロヘロは目を白黒させていた。
それをパックはやや離れたところから見ていた。
ミリィは顔をあからめ、他の生徒たちの質問にこたえている。なんだかとても嬉しそうである。
「おい、ミリィちゃん、あの野郎にすっかり夢中じゃないか?」
ふりむくとギャンだった。
唇の端にうすく笑いを貼りつかせ、目には奇妙なひかりをたたえている。
「それがどうした。関係ないだろ」
「そうかい、このごろお前、ミリィとあまり会ってないんじゃないか? ヘロヘロとかいうやつにすっかり取られた格好だろ」
ギャンは顔を近づけ囁いた。ギャンの口からは、くちゃくちゃと噛んでいる、ハッカのきつい匂いが漂った。
パックはかっとなった。
ギャンに自分の胸のうちを言い当てられたような気がしたからである。
「だからおれには関係ないって言ったろ? あっちへ行ってろ!」
「そうかい……それじゃお前はあのヘロヘロにはなんの関心もないってわけだな? そうか、よくわかったよ」
にやにや笑いをたたえつつ、パックから離れていく。
どういう意味だ、とパックは言い返そうとしたが、ギャンは教室のうしろのすみの低位置に戻り、例の取り巻きをしたがえ、椅子にだらしなく腰掛けているだけだった。
からり、と教室の扉が開き、カース先生が入ってくる。
たちまち大騒ぎがおさまり、教室はしんと静まりかえった。
カースの目はヘロヘロに注がれた。
「今日、あたらしいお友達が来てくれました。ヘロヘロさん、と仰るのですね。ヘロヘロさん、立って皆さんに挨拶をお願いします」
ミリィにうながされ、ヘロヘロはぐずぐずと立ち上がる。全員の注目を浴び、おろおろしていた。
そのまま黙ってしまった。
教室はしーん、とヘロヘロの次の言葉を待っている。
やがてヘロヘロの黄色い顔が、真赤に染まってきた。
ふつふつと大粒の汗が浮かぶ。
と、ヘロヘロの両方の耳から、ぽーっ、と音をたて湯気が噴き出した。
教室のみんなはわっ、と驚いた。
どて、とヘロヘロは尻餅をつき目を廻してしまった。
教室は大騒ぎになり、カースは叫んだ。
「みなさん、騒がないで! 静かに!」
声をからして制止する。
ミリィはヘロヘロの元に飛ぶように駈け寄ると、ハンカチを取り出し、ぱたぱたと顔のあたりを仰いでいる。
やがてヘロヘロの目がぱちりと開き、あたりをきょろきょろと見回した。
のぞきこむ生徒たち、そしてミリィに気づく。
むっくりと起き上がり、えへへと笑う。
どっと教室の全員が笑った。
カースも苦笑いをしている。
そのなかで笑っていない者がふたり。
ひとりはパック。
机に顎をのせ、背中を丸めヘロヘロとミリィを見ていた。
パックはふと教室のうしろに目をやった。
もうひとり、笑っていない者がいた。
ギャンである。
例のごとく背中を椅子にもたれかけ、だらりと腕をたらしていた。が、その視線はじっとヘロヘロに注がれている。その視線はねちっこく、粘りつくような執拗さをふくんでいる。
ミリィがヘロヘロを紹介すると、わっとばかりに教室の生徒たちはふたりを取り囲んだ。
「すっごーい!」
「ね、その肌色、本物なの?」
「触っていい?」
突然に集まった生徒たちに囲まれ、ヘロヘロは目を白黒させていた。
それをパックはやや離れたところから見ていた。
ミリィは顔をあからめ、他の生徒たちの質問にこたえている。なんだかとても嬉しそうである。
「おい、ミリィちゃん、あの野郎にすっかり夢中じゃないか?」
ふりむくとギャンだった。
唇の端にうすく笑いを貼りつかせ、目には奇妙なひかりをたたえている。
「それがどうした。関係ないだろ」
「そうかい、このごろお前、ミリィとあまり会ってないんじゃないか? ヘロヘロとかいうやつにすっかり取られた格好だろ」
ギャンは顔を近づけ囁いた。ギャンの口からは、くちゃくちゃと噛んでいる、ハッカのきつい匂いが漂った。
パックはかっとなった。
ギャンに自分の胸のうちを言い当てられたような気がしたからである。
「だからおれには関係ないって言ったろ? あっちへ行ってろ!」
「そうかい……それじゃお前はあのヘロヘロにはなんの関心もないってわけだな? そうか、よくわかったよ」
にやにや笑いをたたえつつ、パックから離れていく。
どういう意味だ、とパックは言い返そうとしたが、ギャンは教室のうしろのすみの低位置に戻り、例の取り巻きをしたがえ、椅子にだらしなく腰掛けているだけだった。
からり、と教室の扉が開き、カース先生が入ってくる。
たちまち大騒ぎがおさまり、教室はしんと静まりかえった。
カースの目はヘロヘロに注がれた。
「今日、あたらしいお友達が来てくれました。ヘロヘロさん、と仰るのですね。ヘロヘロさん、立って皆さんに挨拶をお願いします」
ミリィにうながされ、ヘロヘロはぐずぐずと立ち上がる。全員の注目を浴び、おろおろしていた。
そのまま黙ってしまった。
教室はしーん、とヘロヘロの次の言葉を待っている。
やがてヘロヘロの黄色い顔が、真赤に染まってきた。
ふつふつと大粒の汗が浮かぶ。
と、ヘロヘロの両方の耳から、ぽーっ、と音をたて湯気が噴き出した。
教室のみんなはわっ、と驚いた。
どて、とヘロヘロは尻餅をつき目を廻してしまった。
教室は大騒ぎになり、カースは叫んだ。
「みなさん、騒がないで! 静かに!」
声をからして制止する。
ミリィはヘロヘロの元に飛ぶように駈け寄ると、ハンカチを取り出し、ぱたぱたと顔のあたりを仰いでいる。
やがてヘロヘロの目がぱちりと開き、あたりをきょろきょろと見回した。
のぞきこむ生徒たち、そしてミリィに気づく。
むっくりと起き上がり、えへへと笑う。
どっと教室の全員が笑った。
カースも苦笑いをしている。
そのなかで笑っていない者がふたり。
ひとりはパック。
机に顎をのせ、背中を丸めヘロヘロとミリィを見ていた。
パックはふと教室のうしろに目をやった。
もうひとり、笑っていない者がいた。
ギャンである。
例のごとく背中を椅子にもたれかけ、だらりと腕をたらしていた。が、その視線はじっとヘロヘロに注がれている。その視線はねちっこく、粘りつくような執拗さをふくんでいる。
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