44 / 279
日常
2
しおりを挟む
ようやく野次馬がいなくなると、ホルンは折れた聖剣を手にし、じっと見つめた。
「父さん、それ鍛えなおすつもりかい?」
うむ……と、ホルンは顎鬚をひねった。
「やるだけやってみるか。パック、用意しろ!」
おう! とパックは元気よく返事した。
ふいごを操り、火種をおこす。
ごうごうという音とともに、炉に火が熾された。石炭が燃え、作業場のなかは猛烈に暑くなった。
ホルンは鉄の挟み道具で聖剣をつかむと、赤く燃えた石炭のなかにつっこんだ。じっと鉄が熱くなるのを待つ。
充分熱せられたところで引き抜き、ハンマーを打ち付ける。
かあん!
驚いたほど澄んだ音が響いた。
かあん!
なんども打ち付ける。
ホルンのこめかみに汗が浮いてきた。
「駄目だ……」
ホルンは首をふった。
いきなりホルンは、素手で折れた剣を握った。
「父さん!」
パックは大声をあげた。たったいままで熱せられていたのである。火傷だけではすまない。手の平の肉が焼ける匂いを予感したパックは、思い切りぎゅっと、目を閉じた。
が、なにごともおきない。
「やはりそうか……」
ホルンはつぶやいた。
「大丈夫なの?」
ああ、とホルンは答え、パックに持っていた聖剣を指し示した。
「さわってみろ」
言われてパックは、そろそろと手を伸ばした。
さわる。
パックは目を丸くした。
「熱くない……冷えているよ」
その通りだった。
あれほど熱せられていたのに、聖剣の表面はまったく熱をもっていなかった。これでは鍛えなおすなどということは不可能である。
「おそらく、古代の刀鍛冶のわざで出来ているのだろうな。そのわざはいまは失われているのだ。この剣は、われわれには知られていない金属でできているに違いない。融点がおそろしく高く、熱してもすぐ冷めるのだ」
「それじゃ、もとに戻すことはできないのかい」
わからん、とホルンは頭をふり腕組みをした。
そうか、とパックはがっかりした。
折れた剣が、もとの姿を取り戻すところを見てみたかった。
「父さん、それ鍛えなおすつもりかい?」
うむ……と、ホルンは顎鬚をひねった。
「やるだけやってみるか。パック、用意しろ!」
おう! とパックは元気よく返事した。
ふいごを操り、火種をおこす。
ごうごうという音とともに、炉に火が熾された。石炭が燃え、作業場のなかは猛烈に暑くなった。
ホルンは鉄の挟み道具で聖剣をつかむと、赤く燃えた石炭のなかにつっこんだ。じっと鉄が熱くなるのを待つ。
充分熱せられたところで引き抜き、ハンマーを打ち付ける。
かあん!
驚いたほど澄んだ音が響いた。
かあん!
なんども打ち付ける。
ホルンのこめかみに汗が浮いてきた。
「駄目だ……」
ホルンは首をふった。
いきなりホルンは、素手で折れた剣を握った。
「父さん!」
パックは大声をあげた。たったいままで熱せられていたのである。火傷だけではすまない。手の平の肉が焼ける匂いを予感したパックは、思い切りぎゅっと、目を閉じた。
が、なにごともおきない。
「やはりそうか……」
ホルンはつぶやいた。
「大丈夫なの?」
ああ、とホルンは答え、パックに持っていた聖剣を指し示した。
「さわってみろ」
言われてパックは、そろそろと手を伸ばした。
さわる。
パックは目を丸くした。
「熱くない……冷えているよ」
その通りだった。
あれほど熱せられていたのに、聖剣の表面はまったく熱をもっていなかった。これでは鍛えなおすなどということは不可能である。
「おそらく、古代の刀鍛冶のわざで出来ているのだろうな。そのわざはいまは失われているのだ。この剣は、われわれには知られていない金属でできているに違いない。融点がおそろしく高く、熱してもすぐ冷めるのだ」
「それじゃ、もとに戻すことはできないのかい」
わからん、とホルンは頭をふり腕組みをした。
そうか、とパックはがっかりした。
折れた剣が、もとの姿を取り戻すところを見てみたかった。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
修学旅行のはずが突然異世界に!?
中澤 亮
ファンタジー
高校2年生の才偽琉海(さいぎ るい)は修学旅行のため、学友たちと飛行機に乗っていた。
しかし、その飛行機は不運にも機体を損傷するほどの事故に巻き込まれてしまう。
修学旅行中の高校生たちを乗せた飛行機がとある海域で行方不明に!?
乗客たちはどこへ行ったのか?
主人公は森の中で一人の精霊と出会う。
主人公と精霊のエアリスが織りなす異世界譚。
異世界道中ゆめうつつ! 転生したら虚弱令嬢でした。チート能力なしでたのしい健康スローライフ!
マーニー
ファンタジー
※ほのぼの日常系です
病弱で閉鎖的な生活を送る、伯爵令嬢の美少女ニコル(10歳)。対して、亡くなった両親が残した借金地獄から抜け出すため、忙殺状態の限界社会人サラ(22歳)。
ある日、同日同時刻に、体力の限界で息を引き取った2人だったが、なんとサラはニコルの体に転生していたのだった。
「こういうときって、神様のチート能力とかあるんじゃないのぉ?涙」
異世界転生お約束の神様登場も特別スキルもなく、ただただ、不健康でひ弱な美少女に転生してしまったサラ。
「せっかく忙殺の日々から解放されたんだから…楽しむしかない。ぜっっったいにスローライフを満喫する!」
―――異世界と健康への不安が募りつつ
憧れのスローライフ実現のためまずは健康体になることを決意したが、果たしてどうなるのか?
魔法に魔物、お貴族様。
夢と現実の狭間のような日々の中で、
転生者サラが自身の夢を叶えるために
新ニコルとして我が道をつきすすむ!
『目指せ健康体!美味しいご飯と楽しい仲間たちと夢のスローライフを叶えていくお話』
※はじめは健康生活。そのうちお料理したり、旅に出たりもします。日常ほのぼの系です。
※非現実色強めな内容です。
※溺愛親バカと、あたおか要素があるのでご注意です。
またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。
朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。
婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。
だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。
リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。
「なろう」「カクヨム」に投稿しています。
借金背負ったので死ぬ気でダンジョン行ったら人生変わった件 やけくそで潜った最凶の迷宮で瀕死の国民的美少女を救ってみた
羽黒 楓
ファンタジー
旧題:借金背負ったので兄妹で死のうと生還不可能の最難関ダンジョンに二人で潜ったら瀕死の人気美少女配信者を助けちゃったので連れて帰るしかない件
借金一億二千万円! もう駄目だ! 二人で心中しようと配信しながらSSS級ダンジョンに潜った俺たち兄妹。そしたらその下層階で国民的人気配信者の女の子が遭難していた! 助けてあげたらどんどんとスパチャが入ってくるじゃん! ってかもはや社会現象じゃん! 俺のスキルは【マネーインジェクション】! 預金残高を消費してパワーにし、それを自分や他人に注射してパワーアップさせる能力。ほらお前ら、この子を助けたければどんどんスパチャしまくれ! その金でパワーを女の子たちに注入注入! これだけ金あれば借金返せそう、もうこうなりゃ絶対に生還するぞ! 最難関ダンジョンだけど、絶対に生きて脱出するぞ! どんな手を使ってでも!
橘瑞樹の一生〜機械とエーテル、スチームパンクなエルヴァニアで過ごした一世紀〜
Coppélia
ファンタジー
青と緑の光の世界‥スチームパンク×エーテルファンタジー――始動!
「ここは、どこだ…?」
-これはのちに「エーテルギア中興の祖」と称される、ある技術者の冒険譚-
日本で流行病に倒れた橘瑞樹が目覚めたのは、空に蒸気船が浮かび、エーテルと歯車が支える異世界の街「クロックタウン」。
自分がどうして16歳の青年として転生したのか、わからないことだらけの彼に手を差し伸べたのは、青い義手の研究者リリーだった。
エーテルというエネルギーを使い、街の暮らしを支える「エーテルギア」。
リリーからこの世界のあらましを聞いた瑞樹は、異世界で再び生きること模索し始めた。本によればこの世界には様々な謎がある。世界各地の「世界樹」に「天空の城」、「青いエーテルギア」、そして、瑞樹自身。
エーテル技術の探求と、新しい世界に誰も知らない謎が彼を待ち受けている。果たして、瑞樹は異世界で運命を切り拓けるのか——
異世界の技術と魔物が交錯するスチームパンク冒険譚、開幕!
溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~
夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」
弟のその言葉は、晴天の霹靂。
アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。
しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。
醤油が欲しい、うにが食べたい。
レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。
既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・?
小説家になろうにも掲載しています。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
Gear-Theater(ギア・シアター)
小本 由卯
ファンタジー
ある事情により、幼い頃から一緒に暮らしている3人。
祖母譲りの工学技術を持つ女性、アンベル。
優れた身体能力を持つ青年、ノワルフ。
平凡だが冷静で素直な青年、ブランフド。
そして3人は、蒸気機関によって繁栄した街、オーロプラータへとやってきた。
そんな3人組と街の人々が織り成す物語。
※カクヨム、ノベルアップ+、ノベルバ同時掲載作品。
キャラクター紹介
【アンベル・マゼノン】
工業区の第4工房に在籍する女性で、幼い頃に祖母から
工学技術を学んだ。
穏やかな性格とその技術で仲間を支える第4工房のリーダー。
幼かった自分の運命を変えてくれた祖母と親友2人に
感謝しながら今を生きている。
甘党。
【ブランフド・ルノージュ】
工業区の第4工房に在籍する青年で、過去に起きた事故で
彷徨っていた所をアンベルに救われる。
平凡だが冷静で素直な性格で、頼りになる親友2人を誰よりも
尊敬しており、自分なりに全力で支えたいと思っている。
【ノワルフ・カーラッテ】
工業区の第4工房に在籍する青年。
幼い頃にブランフドと共にアンベルに救われて以来
一緒に暮らしている。
長身で優れた身体能力を持ち、仲間の為なら自己犠牲もいとわない
勇気と優しさの持ち主である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる