蒸汽帝国~真鍮の乙女~

万卜人

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魔王?

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「ヘロヘロ?」
 ミリィが問い返した。
「うん、ヘロヘロ。ぼくの名前」
「ヘロヘロ、じゃと?」
 ホルストはずい、と一歩前に踏み出した。
 その眉がしかめられ、両目は険しくらんらんと輝いている。
「ホルストさん、どうしたの?」
 パックが尋ねると、老人はくるりとパックに振り返り、急き込むように、囁いた。
「わしの記憶に間違いがなければ、それは古い言葉じゃ。いまはもう使われておらん、古い時代の言葉で、〝恐怖〟という意味なんじゃ。そしてその時代、それは〝魔王〟という意味もあわせて持っておった」
「魔王?」
「そうじゃ。あやつはどこから来た?」
「ど、どこって……」
「あの剣じゃ! あの〝封魔の剣〟が、あやつを封じておったのじゃ!」
「と、いうことは?」
 老人はゆっくりとうなずいた。
「あやつは、このロロ村の、ご先祖が封じた、魔王のなれのはてなのじゃよ。おそらくな」
「で、でも……」
 パックはヘロヘロと名乗った人物を見やった。
 ヘロヘロはぺたりと地面にすわりこみ、なにくれと世話をやいているミリィを、まるで母親を見るように仰いでいる。
 とても魔王には見えない。
「剣が折れた。そしてあやつが現れた。関係がないわけ、ないじゃろうが!」
 老人はいらいらと拳を天につきあげると、ふたたび、はった! とヘロヘロをにらみつけた。
「ミリィ! そこをどくのじゃ!」
「え?」
 それまでヘロヘロに関心をそそいでいたミリィは、ホルスト老人の荒げた声に、びっくりして立ち上がった。
 老人は手の平をヘロヘロにむけ、口の中でなにごとがつぶやいている。
 ミリィは大声をあげた。
「ホルストさん、どうするつもり?」
「そやつを殺す! いまならわしの魔法で焼き殺せるかもしれん」
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