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旧友
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ブルンはホルンに気づき、トラクターのブレーキをかけた。
ぎぎいー……。
おおげさな音を立て、トラクターは前のめりになって停車した。
シリンダーからしゅーっ、と音を立て蒸気がふきだしあたりを白く曇らせる。
「よお、ホルン。ひさしぶり!」
ああ、とホルンもうなずいた。
ブルンはトラクターの運転席から身を乗り出すようにして話しかけた。
「丁度良かった! あんたの息子のパックに話があるんだ」
パックはホルンの顔を見上げ、父親がうなずくのを見てブルンに顔を向けた。
「なんだいブルンさん」
「あとでエンジンの調子を見てくれんか? どうも最近ちからが出なくてなあ」
パックはいいよとうなずいた。蒸気エンジンはニコラ博士のところで色々見ているから修理くらいなら軽く出来る。
ホルンが口をはさんだ。
「あんたが購入したところでは直せないのかね?」
ブルンは顔をしかめた。
「サックに話を持っていくと法外な料金を請求されるんじゃ! 一度、相談してもうこりごりじゃよ。その点、パックならあのニコラ博士のところで助手をしているから、蒸気機関には詳しいしな」
ホルンは眉をあげた。
「サックから買ったというのかね? 奴がそんなことまで手を広げているとは知らなかったな」
ブルンはうなずいた。
「そうとも! ちかごろじゃ、村のみんなに金を貸すだけじゃなく、トラクターとか、蒸気冷蔵庫とか売りつけておるよ。まあ便利になるのはいいが、ローンがかさんでな……しかしあのローン、どうも怪しいな」
「どう怪しいというんだね」
「利率が高すぎる気がする。みな黙っているが、多分業者からリベートを取っているんじゃないかな。そのリベート分が、利率に上乗せされているとわしは見ている」
ホルンの顔が険しくなった。
「もしそれが本当なら問題だぞ! サックはロロ村の村長として公正さを期待されているのだからな!」
ブルンはあわてて手をふった。
「だからそんな気がすると言っておろうが! なあ、この話は内緒にしてくれんか? サックにあんたがこの話を持ってねじこむなんてことはやめて欲しい。わしは争いごとは苦手じゃよ」
ホルンは肩をおとした。
「判った……このことはおれの胸にとどめておこう。あんたのトラクターのことだが、いずれパックをやらせよう。それでいいか?」
そうかそうか、とブルンは上機嫌でうなずくと、旗ざおを持って突っ立っているダストンをうながし、ふたたびトラクターを動かし始めた。
ずしずしと振動をたて、遠ざかるトラクターを見送りホルンはつぶやいた。
「蒸気、蒸気……。このごろじゃなんでも蒸気エンジンだ……。ブルンだって去年までは牛や馬をつかって畑を耕していたんだが、サックの口車にうかうかと乗せられてあんなもの買いこんでしまうくらいだからなあ……」
なげかわしい、といったホルンの口調にパックは口を開いた。
「どうしてさ? 科学が進歩すれば、うんと便利になるし生活も楽になるんだろ? それがいけないのかい?」
ホルンは頭をふった。
「科学が進歩することが悪いと言っているんじゃない。ただ、それがほんとうに人間の幸福につながるかどうか、わからんと言っているだけだ」
そうかなあ、とパックはつぶやいた。
ホルンの言うことはよくわからない。
ふいにニコラとテスラのふたりの顔を思い浮かべた。
ふたりが造ろうとしているロボット。あれは人間にとって幸福をもたらすものか、それとも災厄なのか?
パックにはわからなかった。
ぎぎいー……。
おおげさな音を立て、トラクターは前のめりになって停車した。
シリンダーからしゅーっ、と音を立て蒸気がふきだしあたりを白く曇らせる。
「よお、ホルン。ひさしぶり!」
ああ、とホルンもうなずいた。
ブルンはトラクターの運転席から身を乗り出すようにして話しかけた。
「丁度良かった! あんたの息子のパックに話があるんだ」
パックはホルンの顔を見上げ、父親がうなずくのを見てブルンに顔を向けた。
「なんだいブルンさん」
「あとでエンジンの調子を見てくれんか? どうも最近ちからが出なくてなあ」
パックはいいよとうなずいた。蒸気エンジンはニコラ博士のところで色々見ているから修理くらいなら軽く出来る。
ホルンが口をはさんだ。
「あんたが購入したところでは直せないのかね?」
ブルンは顔をしかめた。
「サックに話を持っていくと法外な料金を請求されるんじゃ! 一度、相談してもうこりごりじゃよ。その点、パックならあのニコラ博士のところで助手をしているから、蒸気機関には詳しいしな」
ホルンは眉をあげた。
「サックから買ったというのかね? 奴がそんなことまで手を広げているとは知らなかったな」
ブルンはうなずいた。
「そうとも! ちかごろじゃ、村のみんなに金を貸すだけじゃなく、トラクターとか、蒸気冷蔵庫とか売りつけておるよ。まあ便利になるのはいいが、ローンがかさんでな……しかしあのローン、どうも怪しいな」
「どう怪しいというんだね」
「利率が高すぎる気がする。みな黙っているが、多分業者からリベートを取っているんじゃないかな。そのリベート分が、利率に上乗せされているとわしは見ている」
ホルンの顔が険しくなった。
「もしそれが本当なら問題だぞ! サックはロロ村の村長として公正さを期待されているのだからな!」
ブルンはあわてて手をふった。
「だからそんな気がすると言っておろうが! なあ、この話は内緒にしてくれんか? サックにあんたがこの話を持ってねじこむなんてことはやめて欲しい。わしは争いごとは苦手じゃよ」
ホルンは肩をおとした。
「判った……このことはおれの胸にとどめておこう。あんたのトラクターのことだが、いずれパックをやらせよう。それでいいか?」
そうかそうか、とブルンは上機嫌でうなずくと、旗ざおを持って突っ立っているダストンをうながし、ふたたびトラクターを動かし始めた。
ずしずしと振動をたて、遠ざかるトラクターを見送りホルンはつぶやいた。
「蒸気、蒸気……。このごろじゃなんでも蒸気エンジンだ……。ブルンだって去年までは牛や馬をつかって畑を耕していたんだが、サックの口車にうかうかと乗せられてあんなもの買いこんでしまうくらいだからなあ……」
なげかわしい、といったホルンの口調にパックは口を開いた。
「どうしてさ? 科学が進歩すれば、うんと便利になるし生活も楽になるんだろ? それがいけないのかい?」
ホルンは頭をふった。
「科学が進歩することが悪いと言っているんじゃない。ただ、それがほんとうに人間の幸福につながるかどうか、わからんと言っているだけだ」
そうかなあ、とパックはつぶやいた。
ホルンの言うことはよくわからない。
ふいにニコラとテスラのふたりの顔を思い浮かべた。
ふたりが造ろうとしているロボット。あれは人間にとって幸福をもたらすものか、それとも災厄なのか?
パックにはわからなかった。
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