蒸汽帝国~真鍮の乙女~

万卜人

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封魔の剣

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 ザザンの町の評議会は、あからさまにゴルドンの出席に渋い顔をした。
 評議会の委員に選抜されるには、それなりの魔法の修行者であることが暗黙の了解とされている。
 したがって念話者、そして念話ギルドの構成員は軽んじられる。評議会への出席など、思いもよらないことである。
 だが男は強硬にゴルドンの出席を主張し、押し通した。
 ようやく出席が許され、ゴルドンは初めて踏み込む評議会の議場に緊張していた。
 議事堂にはずらりと評議員たちが居並び、かれらのはなつ”オーラ”にゴルドンは目が眩む思いだった。
 評議員たちはじろり、とゴルドンを議席の高みから見下ろし、露骨に軽蔑の色を浮かべた。ゴルドンの”オーラ”を見たせいである。
 逆に、男の放つ”オーラ”には敬意の表情を浮かべた。
 男は議事堂の真ん中に立ち、口を開いた。
「わたしは魔法師ギルドから派遣され、ここザザンの町の魔法防備について意見をもとめられた。わたしにはこの町の防備の欠点があきらかだと思う」
 男の言葉に評議員たちに動揺がはしる。
 確かに評議員たちは町の防備について欠点を自覚しているのだろうが、それをずばりと指摘されることはなかったのである。
 男はさらに声を張り上げた。
「町の魔法防備についてはわたしが直接指導し、町割りや道路の設計についてあらたな設計図を引くことは出来る。だが、それは表面的なことにすぎない。根本的な解決には程遠いものだ。この町の防備を完全にするには、あなたがたに覚悟が必要だ」
「──どのような覚悟が必要なのですかな?」
 評議員のひとりがようやく立ち直り、鋭い視線で男を見た。
「念話の習得です。評議員のみならず、町の防備につく物で、魔法を使える者全員が念話を習得する必要がある」
 男の発言は議場を騒然とさせた。もしこの議場にドブネズミの大群を放しても、これほどの大騒ぎにはならなかったに違いない。
「なにを馬鹿な!」
「念話を習えと言うのか?」
「われらをなんと考える!」
「冒涜だ!」
「侮辱にほどがある!」
「だいたい念話ギルドの者をここに引き入れるなど……」
 男はじっと立ち、評議員たちの騒ぎをひややかに眺めていた。
 やがてひとり、そしてふたりと男の視線に耐え切れず喚くのをやめていく。
 ようやく議場が静かになったところで、男はふたたび声を張り上げた。
「あなたがたは知らないのだ。今年に入って、すでに十をこえる町が魔王の軍勢によって滅ぼされた。アランの町を知っているか。アランの町は三ヶ月前、壊滅した!」
 評議員たちは粛然とした。
「まさか……あの町は……」
「そう、アランの町は千人以上の兵で守られ、熟達の魔法師百人で守られた町だった。町のすべてに防備の魔法がかけられ、その結界は最高の強さを誇っていた。しかし魔王の軍勢はたった二日であの町を陥落させてしまった。わたしはその現場をこの目で見ている」
 評議員のひとりがもそもそと口の中でつぶやいた。
「それが念話とどう繋がるのだ?」
「町の防備に必要なのだ。念話を習得すれば、町全体でひとつの意思の元、防備を固めることが出来る。いままでの守り方では、個別撃破されればどうしようもない。しかし念話を利用すれば、瞬時に意思がつながり、防備を固めることが出来る。さらにもうひとつの利点がある」
 男は一息ついた。
 ゴルドンは息をつめ、評議員の様子を観察した。評議員たちはあきらかに男の演説に感銘を受けているようだ。
「それはほかの町との連携だ。いくら魔王の軍勢が数が多いとはいえ、一度に複数の町を襲った例はない。わたしはギルドの依頼をうけ、さまざまな町へ派遣されたが、すべての町で念話を習得するよう説得をした。念話のネットワークがひろがれば、この町が魔王の軍勢に襲われても、他の町の協力をあてにできる。単独では弱くとも、複数の町の戦士が対抗すれば、魔王の軍勢を打ち破れるだろう」
 議場はしーん、と水を打ったように静まりかえっている。
 やがて評議員はおたがい耳打ちをしはじめた。
 男はじっと立ち尽くしている。
 時が過ぎ、ひとりの評議員が立ち上がった。
 ゴルドンはそれが評議委員長であることを認めた。
 委員長は重々しい口で答えた。
「よろしい……あなたの提案を受け入れよう」
 男ははじめて笑顔を見せた。
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