5 / 279
封魔の剣
5
しおりを挟む
ザザンの町の評議会は、あからさまにゴルドンの出席に渋い顔をした。
評議会の委員に選抜されるには、それなりの魔法の修行者であることが暗黙の了解とされている。
したがって念話者、そして念話ギルドの構成員は軽んじられる。評議会への出席など、思いもよらないことである。
だが男は強硬にゴルドンの出席を主張し、押し通した。
ようやく出席が許され、ゴルドンは初めて踏み込む評議会の議場に緊張していた。
議事堂にはずらりと評議員たちが居並び、かれらのはなつ”オーラ”にゴルドンは目が眩む思いだった。
評議員たちはじろり、とゴルドンを議席の高みから見下ろし、露骨に軽蔑の色を浮かべた。ゴルドンの”オーラ”を見たせいである。
逆に、男の放つ”オーラ”には敬意の表情を浮かべた。
男は議事堂の真ん中に立ち、口を開いた。
「わたしは魔法師ギルドから派遣され、ここザザンの町の魔法防備について意見をもとめられた。わたしにはこの町の防備の欠点があきらかだと思う」
男の言葉に評議員たちに動揺がはしる。
確かに評議員たちは町の防備について欠点を自覚しているのだろうが、それをずばりと指摘されることはなかったのである。
男はさらに声を張り上げた。
「町の魔法防備についてはわたしが直接指導し、町割りや道路の設計についてあらたな設計図を引くことは出来る。だが、それは表面的なことにすぎない。根本的な解決には程遠いものだ。この町の防備を完全にするには、あなたがたに覚悟が必要だ」
「──どのような覚悟が必要なのですかな?」
評議員のひとりがようやく立ち直り、鋭い視線で男を見た。
「念話の習得です。評議員のみならず、町の防備につく物で、魔法を使える者全員が念話を習得する必要がある」
男の発言は議場を騒然とさせた。もしこの議場にドブネズミの大群を放しても、これほどの大騒ぎにはならなかったに違いない。
「なにを馬鹿な!」
「念話を習えと言うのか?」
「われらをなんと考える!」
「冒涜だ!」
「侮辱にほどがある!」
「だいたい念話ギルドの者をここに引き入れるなど……」
男はじっと立ち、評議員たちの騒ぎをひややかに眺めていた。
やがてひとり、そしてふたりと男の視線に耐え切れず喚くのをやめていく。
ようやく議場が静かになったところで、男はふたたび声を張り上げた。
「あなたがたは知らないのだ。今年に入って、すでに十をこえる町が魔王の軍勢によって滅ぼされた。アランの町を知っているか。アランの町は三ヶ月前、壊滅した!」
評議員たちは粛然とした。
「まさか……あの町は……」
「そう、アランの町は千人以上の兵で守られ、熟達の魔法師百人で守られた町だった。町のすべてに防備の魔法がかけられ、その結界は最高の強さを誇っていた。しかし魔王の軍勢はたった二日であの町を陥落させてしまった。わたしはその現場をこの目で見ている」
評議員のひとりがもそもそと口の中でつぶやいた。
「それが念話とどう繋がるのだ?」
「町の防備に必要なのだ。念話を習得すれば、町全体でひとつの意思の元、防備を固めることが出来る。いままでの守り方では、個別撃破されればどうしようもない。しかし念話を利用すれば、瞬時に意思がつながり、防備を固めることが出来る。さらにもうひとつの利点がある」
男は一息ついた。
ゴルドンは息をつめ、評議員の様子を観察した。評議員たちはあきらかに男の演説に感銘を受けているようだ。
「それはほかの町との連携だ。いくら魔王の軍勢が数が多いとはいえ、一度に複数の町を襲った例はない。わたしはギルドの依頼をうけ、さまざまな町へ派遣されたが、すべての町で念話を習得するよう説得をした。念話のネットワークがひろがれば、この町が魔王の軍勢に襲われても、他の町の協力をあてにできる。単独では弱くとも、複数の町の戦士が対抗すれば、魔王の軍勢を打ち破れるだろう」
議場はしーん、と水を打ったように静まりかえっている。
やがて評議員はおたがい耳打ちをしはじめた。
男はじっと立ち尽くしている。
時が過ぎ、ひとりの評議員が立ち上がった。
ゴルドンはそれが評議委員長であることを認めた。
委員長は重々しい口で答えた。
「よろしい……あなたの提案を受け入れよう」
男ははじめて笑顔を見せた。
評議会の委員に選抜されるには、それなりの魔法の修行者であることが暗黙の了解とされている。
したがって念話者、そして念話ギルドの構成員は軽んじられる。評議会への出席など、思いもよらないことである。
だが男は強硬にゴルドンの出席を主張し、押し通した。
ようやく出席が許され、ゴルドンは初めて踏み込む評議会の議場に緊張していた。
議事堂にはずらりと評議員たちが居並び、かれらのはなつ”オーラ”にゴルドンは目が眩む思いだった。
評議員たちはじろり、とゴルドンを議席の高みから見下ろし、露骨に軽蔑の色を浮かべた。ゴルドンの”オーラ”を見たせいである。
逆に、男の放つ”オーラ”には敬意の表情を浮かべた。
男は議事堂の真ん中に立ち、口を開いた。
「わたしは魔法師ギルドから派遣され、ここザザンの町の魔法防備について意見をもとめられた。わたしにはこの町の防備の欠点があきらかだと思う」
男の言葉に評議員たちに動揺がはしる。
確かに評議員たちは町の防備について欠点を自覚しているのだろうが、それをずばりと指摘されることはなかったのである。
男はさらに声を張り上げた。
「町の魔法防備についてはわたしが直接指導し、町割りや道路の設計についてあらたな設計図を引くことは出来る。だが、それは表面的なことにすぎない。根本的な解決には程遠いものだ。この町の防備を完全にするには、あなたがたに覚悟が必要だ」
「──どのような覚悟が必要なのですかな?」
評議員のひとりがようやく立ち直り、鋭い視線で男を見た。
「念話の習得です。評議員のみならず、町の防備につく物で、魔法を使える者全員が念話を習得する必要がある」
男の発言は議場を騒然とさせた。もしこの議場にドブネズミの大群を放しても、これほどの大騒ぎにはならなかったに違いない。
「なにを馬鹿な!」
「念話を習えと言うのか?」
「われらをなんと考える!」
「冒涜だ!」
「侮辱にほどがある!」
「だいたい念話ギルドの者をここに引き入れるなど……」
男はじっと立ち、評議員たちの騒ぎをひややかに眺めていた。
やがてひとり、そしてふたりと男の視線に耐え切れず喚くのをやめていく。
ようやく議場が静かになったところで、男はふたたび声を張り上げた。
「あなたがたは知らないのだ。今年に入って、すでに十をこえる町が魔王の軍勢によって滅ぼされた。アランの町を知っているか。アランの町は三ヶ月前、壊滅した!」
評議員たちは粛然とした。
「まさか……あの町は……」
「そう、アランの町は千人以上の兵で守られ、熟達の魔法師百人で守られた町だった。町のすべてに防備の魔法がかけられ、その結界は最高の強さを誇っていた。しかし魔王の軍勢はたった二日であの町を陥落させてしまった。わたしはその現場をこの目で見ている」
評議員のひとりがもそもそと口の中でつぶやいた。
「それが念話とどう繋がるのだ?」
「町の防備に必要なのだ。念話を習得すれば、町全体でひとつの意思の元、防備を固めることが出来る。いままでの守り方では、個別撃破されればどうしようもない。しかし念話を利用すれば、瞬時に意思がつながり、防備を固めることが出来る。さらにもうひとつの利点がある」
男は一息ついた。
ゴルドンは息をつめ、評議員の様子を観察した。評議員たちはあきらかに男の演説に感銘を受けているようだ。
「それはほかの町との連携だ。いくら魔王の軍勢が数が多いとはいえ、一度に複数の町を襲った例はない。わたしはギルドの依頼をうけ、さまざまな町へ派遣されたが、すべての町で念話を習得するよう説得をした。念話のネットワークがひろがれば、この町が魔王の軍勢に襲われても、他の町の協力をあてにできる。単独では弱くとも、複数の町の戦士が対抗すれば、魔王の軍勢を打ち破れるだろう」
議場はしーん、と水を打ったように静まりかえっている。
やがて評議員はおたがい耳打ちをしはじめた。
男はじっと立ち尽くしている。
時が過ぎ、ひとりの評議員が立ち上がった。
ゴルドンはそれが評議委員長であることを認めた。
委員長は重々しい口で答えた。
「よろしい……あなたの提案を受け入れよう」
男ははじめて笑顔を見せた。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
【完結】7年待った婚約者に「年増とは結婚できない」と婚約破棄されましたが、結果的に若いツバメと縁が結ばれたので平気です
岡崎 剛柔
恋愛
「伯爵令嬢マリアンヌ・ランドルフ。今日この場にて、この僕――グルドン・シルフィードは君との婚約を破棄する。理由は君が25歳の年増になったからだ」
私は7年間も諸外国の旅行に行っていたグルドンにそう言われて婚約破棄された。
しかも貴族たちを大勢集めたパーティーの中で。
しかも私を年増呼ばわり。
はあ?
あなたが勝手に旅行に出て帰って来なかったから、私はこの年までずっと結婚できずにいたんですけど!
などと私の怒りが爆発しようだったとき、グルドンは新たな人間と婚約すると言い出した。
その新たな婚約者は何とタキシードを着た、6、7歳ぐらいの貴族子息で……。
婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
旦那様、愛人を作ってもいいですか?
ひろか
恋愛
私には前世の記憶があります。ニホンでの四六年という。
「君の役目は魔力を多く持つ子供を産むこと。その後で君も自由にすればいい」
これ、旦那様から、初夜での言葉です。
んん?美筋肉イケオジな愛人を持っても良いと?
’18/10/21…おまけ小話追加
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる