アニメのお仕事

万卜人

文字の大きさ
上 下
65 / 80
第十二話 開戦! 編集作業

3

しおりを挟む
 会合地点から反転し、ドーデン軍は勇躍、バートル国との戦闘が予想される会戦地を目指して進軍を続けていた。
 偵察機を先行させ、バートル国はドーデン帝国との国境付近に集結しつつあるのを確認する。おそらく国境地帯の山岳部を掩蔽として布陣するのだろう。
 偵察機は空中から、バートル国の進軍の様子を克明に撮影して、無線で送信してきた。
 泥縄ではあるが、市川と山田は、ドーデン帝国の設定を、の社会風俗は十九世紀末で、科学技術は二十世紀始めという設定から、もう少し進んだ、二十世紀中葉頃に設定し直していた。
 いや、もしかしたら、もっと進んでいるかもしれない。
 二人がいる空中空母の艦橋は、完全な閉鎖式で、外部の眺めは、空母に何箇所も設置されている、テレビ・カメラが撮影した映像を、巨大な平面スクリーンに投影する方式を採用している。
 しかもカラーだ! スクリーンのテクノロジーだけ見れば、明らかに二十世紀末の液晶モニター技術が不可欠である。科学考証に突っ込みを入れたがるマニアの「ほほお……平面スクリーンですか!」という嘲りの声が、市川には聞こえてくるが、目を瞑る。
 周りの計器は、わざと一九五〇年代のSF映画から脱け出たような、丸い針式で、クラシックな趣きを演出している。しかし艦橋の大部分を占める巨大モニターには、無数の数値や、グラフが外部の景色に同時に表示されていて、そこだけはいかにも、今風のSFアニメである。
 山田はあくまで十九世紀風の、帆船の内部のような艦橋にすべきだと主張したのだが、やはり、このほうが、実際にアニメになった場合、見栄えがいい。さらにぶっちゃけて内情を曝すと、このような巨大スクリーンを設定しておけば、レイアウトを兼用して、作画枚数を節約できる。
「バートル軍、確認! 国境山岳地帯を、縦走しつつあり! 三方向から集結中! 国境警備軍と、遭遇の報告!」
 画面が切り替わり、地上の眺望となった。
 場面は、国境を守る警備隊の様子を映し出している。地面に長々と塹壕が掘られ、丘の頂上には、所々に監視台が設けられて、数人の兵士が手に双眼鏡を持って、不安そうな顔付きで遠くを眺めている。
 空はどんよりと曇り、景色は寒々としていた。
 スクリーンを眺めながら市川は、いつも思うのだが、「戦場をモニターする画面を撮影するのは、誰なのだろう?」と考える。送信してくるからには、誰かが危険を犯して、カメラを操作しなければならない。無人カメラであっても、こちらかの指示でパンしたり、ズームする要員が必要である。
 空中からの映像では判然としなかった、バートル軍の詳細が映し出される。
 ぴょんぴょんと地面を跳ねるように、骨と皮だらけの竜が接近してくる。足はなく、真っ直ぐな尻尾で地面を打って、跳ねている。
 竜そっくりだったが、実は巨大なタツノオトシゴだった。タツノオトシゴの背中には鞍があり、手に槍を抱えた兵士が乗っている。
 竜騎兵だ! 以前見た重装騎兵ほど分厚い装甲はなく、動きは軽快である。
 ずしんずしんと地面が震動し、遠くから巨人が近づいてくる。手にはごつごつと瘤のついた棍棒を握っている。身体は岩でできた、岩の巨人である。顔付きは魯鈍で、身動きも鈍重だが、無敵の力を誇るバートル国の攻撃の中核だ。
 空の彼方からは、透明な四枚の羽根を持った、細長い生き物が接近してくる。巨大な複眼……。蜻蛉ドラゴン・フライだ! 蜻蛉の背中にも、兵士が跨っている。蜻蛉は各々、脚の指に何か、石の固まりのような物を握っていた。
 蜻蛉は握っていた石を、ぽとりと落とした。
 石はひゅーっ、とまっしぐらに地面に落下した。落下したのは、警備隊の真ん中だった。
 ぱかりと石は二つに割れ、中からわんわんと五月蠅く羽音を立て、何かが飛び出した。
 わあーっ、と悲鳴を上げ、周りの兵士がばたばたと手足を打ち振り、踊るような足取りになって懸命に何かを払いのける。
 石は蜂の巣だったのだ。飛び出したのは、熊蜂、雀蜂、足高蜂など、猛毒を持つ危険な種類の蜂ばかりである。
 バートル軍の前衛が、ドーデン帝国の国境警備軍と衝突し、戦闘が始まる。丘陵の向こうからは、馬に乗った重装騎兵が、津波のように襲い掛かり、さらに後方には魔法使いたちが控えていた。
 どかどかと地面を震わせ、岩の巨人が飛び込んできた。手にした棍棒を、唸りを上げて振り回す。棍棒の当たった先は、瞬時に粉々に砕け散る。
 ドーデン軍は応戦を開始したが、帝国の誇る近代兵器は、バートル軍の奇妙な軍勢にはまったく効果がなかった。
 銃弾を撃ち込んでも、岩の巨人の身体には、まったく効果はなく、跳ね返されるだけだ。
 タツノオトシゴの竜騎兵は、ぴょんぴょんと地面を飛び跳ね、銃口の狙いがつけられない。数騎の竜騎兵が塹壕に飛び込み、タツノオトシゴに跨った兵士は、手にした湾曲した刀を滅茶苦茶に振り回す。たちまち、辺りに血飛沫が跳ね飛んだ!
 絶叫が、画面の向こうから聞こえる。
 ボルト提督は、画面を睨んで歯噛みした。
「糞! 生意気な……!」
 提督の近くの司令長官席には、三村がゆったりと座っている。椅子の肘掛けに置いた三村の腕に、寄り添うエリカ姫がそっと手を重ねていた。ボルト提督は、二人の姿を眼にし、慌てて言い直す。
「いや! 敵とはいえ、中々に奮闘しておりますな! 感心、感心……!」
 無理矢理どうにか、笑顔を作る。
 ボルトは三村に向かい、訊ねかけた。
「アラン王子殿下……。司令長官として、総攻撃のご命令を賜りたく存じます」
 三村はボルト提督に顔を向け、頷いた。
「よろしくお願いします。提督」
 ボルトの顔が、興奮に赤らんだ。
 さっと艦橋に向き直り、全身の力を振り絞って声を張り上げる。
「全軍、総攻撃を開始せよ!」
 提督の号令により、艦橋全体にぴん、と緊張が張り詰めた。一斉に要員が手元の送話装置を取り上げ、あらかじめ打ち合わせしておいた命令を次々と部隊に伝達する。艦橋は一時に騒然となり、今までの静けさは、まるで、この時のために溜めていたかのようだ。
 市川は艦橋の真ん中に立ち、息を呑んでいた。
 いよいよだ……。
 いよいよ、本格的な戦いが始まる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

パンツを拾わされた男の子の災難?

ミクリ21
恋愛
パンツを拾わされた男の子の話。

処理中です...