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第十話 リテーク出しの逆襲!
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迎えの役人はドットと名乗って、話し好きらしかった。
城下町を馬車が通り過ぎると、沿道には町の人間が勢ぞろいして、物見高い視線をこちらへ向けている。ドットは三村に向き直り「お手を振って下され! 未来の国王陛下に対し、町民どもは歓迎しておりますので」と勧める。
言われて三村が馬車の窓から手を振ると、町民たちは熱烈な歓迎を表す。わあっ……と歓声が上がり「ばんざーい! ばんざーい!」と声を上げ、手を盛んに振り返した。
市川はドットの言葉を聞き咎めた。
「未来の国王?」
ドットは、当然とばかりに頷く。
「わがバートル国においては、国王の血筋が絶え、摂政閣下が政治を司っておられますので。しかし、国王がいらせられない状況は、どうにも具合が悪く、それでドーデン帝国との友誼で、アラン王子殿下に白羽の矢が立ったので御座います」
「それじゃお姫様というのは? 御姫様が王位を継いで、女王様になればいいのに」
洋子がドットに尋ねる。表情には、好奇心が剥き出しになっていた。洋子の、ゴシップ好きの感情が刺激されたのだろう。
ドットは丁寧に答えた。
「摂政閣下のご息女で御座います。わが国では、女子は王位を継げませぬ。あくまでも、男子のみが、正式な後継者となります。前王は、ドーデン帝国の血筋のお方であらせられましたが、ご不幸にも、ご結婚前に薨去なされました。それで、ドーデン帝国より、アラン王子殿下をお迎えする仕儀となります」
初耳だった。市川の隣で、食い入るように城下町の家々を眺めていた山田は頷き、小声で市川に説明した。
「十九世紀末の、大英帝国と似た事情があるのさ! 当時、英国はビクトリア女王の治世にあったが、デンマーク、プロイセン、スエーデンなどの王国には、ビクトリア女王の子供が多く婿入り、嫁入りしていた。それで大英帝国は、欧州において、確乎とした地位を保っていた。日本の戦国時代も同じだ。つまり、閨閥というやつだな」
「ふうん」と市川は納得して、町民に手を振っている三村を見詰めた。
今の三村は、完全に王者としての威厳を漂わせている。アニメの制作進行をしていた三村の面影は、欠片も見当たらなかった。
城下町を通り過ぎると、ぷん、と市川の鼻に香辛料の香りが漂ってくる。
沿道に目をやると、簡単な天幕を張った露天の屋台が立ち並んで、様々な料理を客に出しているのが見える。肉、揚げ物、スープなどが供され、白い湯気があたりに満ちていた。
くんくんと鼻を鳴らし、市川はごくりと唾を飲み込む。
「カレーの匂いだ! たまんねえ!」
「そう言えば、腹が減ったな」
市川の呟きに、山田が深く頷き、同意した。洋子もまた唾を飲み込んでいる。
「もう……思い出させないでよ。あたし、カレーは大好物なんだから。ああ……、元に戻ったら、一目散に食べに行きたい!」
ドットは、にこにこと人の良い笑みを浮かべている。
「皆さん、ご空腹のようですな! ご安心めされよ! 城に着けば、皆さん方の昼食を用意しておりますゆえ……」
「本当かい?」
市川は身を乗り出した。馬車の窓から首を突き出し、近づく城門を見上げる。
高い胸壁に、天を指す尖塔。どっしりとした巨大な石組みによって、城は建てられている。
城の中央には巨大なドームが被さり、外壁には色タイルによって、精緻な幾何学模様が描かれている。実に古風な、王宮らしい建物である。
市川は一刻も城に入りたいと、熱望していた。
城下町を馬車が通り過ぎると、沿道には町の人間が勢ぞろいして、物見高い視線をこちらへ向けている。ドットは三村に向き直り「お手を振って下され! 未来の国王陛下に対し、町民どもは歓迎しておりますので」と勧める。
言われて三村が馬車の窓から手を振ると、町民たちは熱烈な歓迎を表す。わあっ……と歓声が上がり「ばんざーい! ばんざーい!」と声を上げ、手を盛んに振り返した。
市川はドットの言葉を聞き咎めた。
「未来の国王?」
ドットは、当然とばかりに頷く。
「わがバートル国においては、国王の血筋が絶え、摂政閣下が政治を司っておられますので。しかし、国王がいらせられない状況は、どうにも具合が悪く、それでドーデン帝国との友誼で、アラン王子殿下に白羽の矢が立ったので御座います」
「それじゃお姫様というのは? 御姫様が王位を継いで、女王様になればいいのに」
洋子がドットに尋ねる。表情には、好奇心が剥き出しになっていた。洋子の、ゴシップ好きの感情が刺激されたのだろう。
ドットは丁寧に答えた。
「摂政閣下のご息女で御座います。わが国では、女子は王位を継げませぬ。あくまでも、男子のみが、正式な後継者となります。前王は、ドーデン帝国の血筋のお方であらせられましたが、ご不幸にも、ご結婚前に薨去なされました。それで、ドーデン帝国より、アラン王子殿下をお迎えする仕儀となります」
初耳だった。市川の隣で、食い入るように城下町の家々を眺めていた山田は頷き、小声で市川に説明した。
「十九世紀末の、大英帝国と似た事情があるのさ! 当時、英国はビクトリア女王の治世にあったが、デンマーク、プロイセン、スエーデンなどの王国には、ビクトリア女王の子供が多く婿入り、嫁入りしていた。それで大英帝国は、欧州において、確乎とした地位を保っていた。日本の戦国時代も同じだ。つまり、閨閥というやつだな」
「ふうん」と市川は納得して、町民に手を振っている三村を見詰めた。
今の三村は、完全に王者としての威厳を漂わせている。アニメの制作進行をしていた三村の面影は、欠片も見当たらなかった。
城下町を通り過ぎると、ぷん、と市川の鼻に香辛料の香りが漂ってくる。
沿道に目をやると、簡単な天幕を張った露天の屋台が立ち並んで、様々な料理を客に出しているのが見える。肉、揚げ物、スープなどが供され、白い湯気があたりに満ちていた。
くんくんと鼻を鳴らし、市川はごくりと唾を飲み込む。
「カレーの匂いだ! たまんねえ!」
「そう言えば、腹が減ったな」
市川の呟きに、山田が深く頷き、同意した。洋子もまた唾を飲み込んでいる。
「もう……思い出させないでよ。あたし、カレーは大好物なんだから。ああ……、元に戻ったら、一目散に食べに行きたい!」
ドットは、にこにこと人の良い笑みを浮かべている。
「皆さん、ご空腹のようですな! ご安心めされよ! 城に着けば、皆さん方の昼食を用意しておりますゆえ……」
「本当かい?」
市川は身を乗り出した。馬車の窓から首を突き出し、近づく城門を見上げる。
高い胸壁に、天を指す尖塔。どっしりとした巨大な石組みによって、城は建てられている。
城の中央には巨大なドームが被さり、外壁には色タイルによって、精緻な幾何学模様が描かれている。実に古風な、王宮らしい建物である。
市川は一刻も城に入りたいと、熱望していた。
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