スラップ・スティック・タウン

万卜人

文字の大きさ
上 下
42 / 52
軍隊

4

しおりを挟む
 弾装をのぞきこんで大佐はがっくりと膝をおった。
 一発も残弾がない!
 たった二、三発撃っただけで弾切れとはなんとも馬鹿らしい。これでは町を守るなどと大見得を切ったじぶんがなんとも恥ずかしい限りだ。
 砲塔にもどった大佐は、暴れているロボットを見上げた。
 なにも打つ手がないのか?
 ただロボットが町を壊しているのをぼんやり見ているだけなのか?
 いいや、あるぞ!
 大佐はヘロヘロに命令した。
「ヘロヘロ! ロボットに突っ込め!」
 はあ? と、ヘロヘロは首を捻じ曲げ、大佐を見上げた。
「そんでも大佐殿、戦車には弾がねえ、ちゅうこってすだ。弾切れのまま、どうやってあのロボットと戦うだね?」
 大佐は喚いた。
「かまわん! この戦車をつかって、やつの足をとめてやる! これだけのおおきさだ。やつの足くらい、止められるさ」
 ヘロヘロは無言で操縦席から抜け出した。
 大佐はぽかん、と口を開けた。
「どうしたヘロヘロ? なぜ、操縦席から離れるんだ?」
「お断りしますだ。おら、まだ死にたくねえだよ! 死にたければ、大佐殿、勝手にすればええだ!」
 むむむむ……! と、大佐の顔は怒りに赤く染まった。
「恩知らず! わしがお前をスクラップ寸前から救ってやったのを忘れたか?」
「そんでも大佐殿、おらずーっと大佐殿の身の回りのお世話をやらせていただきました。どんでもロボットに突っ込むちゅうなら、死ぬしかねえ。ということは、論理的におらのご奉公もおわり、ちゅうこってすな! だからもう、おらなんの関わりもねえ、と思いますだ」
 そう言うとヘロヘロはにやにやと笑った。
 ばん、と大佐は戦車の外板をたたいた。
「もういい! 貴様がそんな考えだとは思わなかったわい! ああ、なんということだ……わしがせっかくお前をスクラップの山から掘り出してエネルギーを入れたとき、お前はなんと言うた? このご恩は一生忘れません。これからは生きるときも死ぬときも一緒ですと、涙ながらに誓ったあれは嘘だったというのか?」
 ヘロヘロは首をかしげた。
「おら、そんなこと言っただかね?」
 大佐は砲塔から飛び出すと、ヘロヘロが抜け出した操縦席へ飛び込んだ。
「もう頼まん! わしが操縦する!」
 アクセルを踏み込む。
 ぐわああんっ! と、戦車のエンジンが咆哮した。
 戦車は動き出した。
 目の前を通過する戦車を見送って、ヘロヘロは頭に被ったヘルメットをはずし、つぶやいた。
「お達者で……」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

秘密

阿波野治
児童書・童話
住友みのりは憂うつそうな顔をしている。心配した友人が事情を訊き出そうとすると、みのりはなぜか声を荒らげた。後ろの席からそれを見ていた香坂遥斗は、みのりが抱えている謎を知りたいと思い、彼女に近づこうとする。

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

夢の中で人狼ゲーム~負けたら存在消滅するし勝ってもなんかヤバそうなんですが~

世津路 章
児童書・童話
《蒲帆フウキ》は通信簿にも“オオカミ少年”と書かれるほどウソつきな小学生男子。 友達の《東間ホマレ》・《印路ミア》と一緒に、時々担任のこわーい本間先生に怒られつつも、おもしろおかしく暮らしていた。 ある日、駅前で配られていた不思議なカードをもらったフウキたち。それは、夢の中で行われる《バグストマック・ゲーム》への招待状だった。ルールは人狼ゲームだが、勝者はなんでも願いが叶うと聞き、フウキ・ホマレ・ミアは他の参加者と対決することに。 だが、彼らはまだ知らなかった。 ゲームの敗者は、現実から存在が跡形もなく消滅すること――そして勝者ですら、ゲームに潜む呪いから逃れられないことを。 敗退し、この世から消滅した友達を取り戻すため、フウキはゲームマスターに立ち向かう。 果たしてウソつきオオカミ少年は、勝っても負けても詰んでいる人狼ゲームに勝利することができるのだろうか? 8月中、ほぼ毎日更新予定です。 (※他小説サイトに別タイトルで投稿してます)

悪魔さまの言うとおり~わたし、執事になります⁉︎~

橘花やよい
児童書・童話
女子中学生・リリイが、入学することになったのは、お嬢さま学校。でもそこは「悪魔」の学校で、「執事として入学してちょうだい」……って、どういうことなの⁉待ち構えるのは、きれいでいじわるな悪魔たち! 友情と魔法と、胸キュンもありの学園ファンタジー。 第2回きずな児童書大賞参加作です。

オオカミ少女と呼ばないで

柳律斗
児童書・童話
「大神くんの頭、オオカミみたいな耳、生えてる……?」 その一言が、私をオオカミ少女にした。 空気を読むことが少し苦手なさくら。人気者の男子、大神くんと接点を持つようになって以降、クラスの女子に目をつけられてしまう。そんな中、あるできごとをきっかけに「空気の色」が見えるように―― 表紙画像はノーコピーライトガール様よりお借りしました。ありがとうございます。

忠犬ハジッコ

SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。 「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。 ※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、  今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。  お楽しみいただければうれしいです。

閉じられた図書館

関谷俊博
児童書・童話
ぼくの心には閉じられた図書館がある…。「あんたの母親は、適当な男と街を出ていったんだよ」祖母にそう聴かされたとき、ぼくは心の図書館の扉を閉めた…。(1/4完結。有難うございました)。

王女様は美しくわらいました

トネリコ
児童書・童話
   無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。  それはそれは美しい笑みでした。  「お前程の悪女はおるまいよ」  王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。  きたいの悪女は処刑されました 解説版

処理中です...