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大佐
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双眼鏡を目から離し、大佐はつぶやいた。
「なんということだ……!」
パトカーのサイレンに、窓際に立った大佐は、かねて用意の双眼鏡を目にあて、町を監視していたのである。
納屋からロボットが出現し、たちまち警察官とパトカーを蹴散らしたのを見て、大佐の眉間に深く皺が刻まれていた。
これは一大事である!
くるりと部屋の中にふりむいた大佐は大声で怒鳴った。
「ヘロヘロ! ヘロヘロ! すぐこっちへこい!」
大佐はいらいらして足踏みした。
「ええい! なにをしておる。さっさとこっちへこんか!」
へえーい、とのんびりとした返事がして、ヘロヘロが姿を現した。
「お呼びで……なんか用でがんすか?」
「用があったから呼んだにきまっとる! 見ろ、あれを!」
大佐の指差した方向をヘロヘロは眺めた。両目が突き出し、望遠になる。
「ははあ……ロボットでがすな。あれがなにか?」
「馬鹿! 暴れておるのが判らんのか? ステットンの町にあれが向かっておる。町を救うのだ!」
ヘロヘロは大佐を横目で見た。
「大佐殿がどう救うとおおせで?」
大佐は息を吸い込んだ。
「いよいよあれを使うときがきた」
ヘロヘロはぽかんと口を開けた。
「まさか……あれをでがんすか?」
「そうだ! 町を守るんだ! こい!」
どどど……! と、足音高く大佐は階段を降りて一階のドアから勢いをつけて前庭にとびだした。家の隣には不釣合いなほどの大きなガレージが建っている。
「ヘロヘロ! なにをぐずぐずしておる!」
呼ばれてあわててヘロヘロも飛び出した。
ふたり一緒にガレージのドアから中へはいっていく。
しばらくなにもなかったが、やがてガレージの中からなにやらエンジン音が轟き始めた。
がろろろろろ……!
まるで獣の咆哮のような、エンジンの音。
と、ガレージの扉が開き、中から現れたのは一台の戦車であった。
鋼鉄の車体、地面を噛む棘のついたキャタピラー。そして砲塔からはにょっきりと砲門が突き出ている。旧式ではあるが、たしかに戦車だった。
運転席にはヘロヘロが座り、忙しく手足を動かし戦車を操縦している。砲塔には大佐が陣取り、険しい目で町の方向を見据えていた。
「出発!」
戦車兵のかぶる戦闘帽をかぶり、大佐は手袋をした右手を高々とあげた。
大佐はかねてから戦車を手に入れることを夢見ていた。
が、いくら退役兵とはいえ、戦車を手に入れられるわけがない。それで大佐はひそかに戦車の部品を少しずつ買い求め、このガレージに持ち込んでいたのである。部品を組み上げたのはパックだった。パックは戦車を組み立てられるとあって、嬉々として大佐の手伝いを申し出たのだった。
「ヘロヘロ、ステットンの町へ、進路を取れ!」
へえーい、と間の抜けた返事をしてヘロヘロは戦車を操縦した。大佐はこのため、ヘロヘロに戦車の操縦を教え込んでいた。
きゅらきゅらきゅら……
戦車のキャタピラは地面を激しく噛み砕き、土ぼこりをまきあげ走行しはじめた。
「なんということだ……!」
パトカーのサイレンに、窓際に立った大佐は、かねて用意の双眼鏡を目にあて、町を監視していたのである。
納屋からロボットが出現し、たちまち警察官とパトカーを蹴散らしたのを見て、大佐の眉間に深く皺が刻まれていた。
これは一大事である!
くるりと部屋の中にふりむいた大佐は大声で怒鳴った。
「ヘロヘロ! ヘロヘロ! すぐこっちへこい!」
大佐はいらいらして足踏みした。
「ええい! なにをしておる。さっさとこっちへこんか!」
へえーい、とのんびりとした返事がして、ヘロヘロが姿を現した。
「お呼びで……なんか用でがんすか?」
「用があったから呼んだにきまっとる! 見ろ、あれを!」
大佐の指差した方向をヘロヘロは眺めた。両目が突き出し、望遠になる。
「ははあ……ロボットでがすな。あれがなにか?」
「馬鹿! 暴れておるのが判らんのか? ステットンの町にあれが向かっておる。町を救うのだ!」
ヘロヘロは大佐を横目で見た。
「大佐殿がどう救うとおおせで?」
大佐は息を吸い込んだ。
「いよいよあれを使うときがきた」
ヘロヘロはぽかんと口を開けた。
「まさか……あれをでがんすか?」
「そうだ! 町を守るんだ! こい!」
どどど……! と、足音高く大佐は階段を降りて一階のドアから勢いをつけて前庭にとびだした。家の隣には不釣合いなほどの大きなガレージが建っている。
「ヘロヘロ! なにをぐずぐずしておる!」
呼ばれてあわててヘロヘロも飛び出した。
ふたり一緒にガレージのドアから中へはいっていく。
しばらくなにもなかったが、やがてガレージの中からなにやらエンジン音が轟き始めた。
がろろろろろ……!
まるで獣の咆哮のような、エンジンの音。
と、ガレージの扉が開き、中から現れたのは一台の戦車であった。
鋼鉄の車体、地面を噛む棘のついたキャタピラー。そして砲塔からはにょっきりと砲門が突き出ている。旧式ではあるが、たしかに戦車だった。
運転席にはヘロヘロが座り、忙しく手足を動かし戦車を操縦している。砲塔には大佐が陣取り、険しい目で町の方向を見据えていた。
「出発!」
戦車兵のかぶる戦闘帽をかぶり、大佐は手袋をした右手を高々とあげた。
大佐はかねてから戦車を手に入れることを夢見ていた。
が、いくら退役兵とはいえ、戦車を手に入れられるわけがない。それで大佐はひそかに戦車の部品を少しずつ買い求め、このガレージに持ち込んでいたのである。部品を組み上げたのはパックだった。パックは戦車を組み立てられるとあって、嬉々として大佐の手伝いを申し出たのだった。
「ヘロヘロ、ステットンの町へ、進路を取れ!」
へえーい、と間の抜けた返事をしてヘロヘロは戦車を操縦した。大佐はこのため、ヘロヘロに戦車の操縦を教え込んでいた。
きゅらきゅらきゅら……
戦車のキャタピラは地面を激しく噛み砕き、土ぼこりをまきあげ走行しはじめた。
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