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大団円の巻
三
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破槌城は順調な航海を続け、やがて破槌の町へと近づいた。
城が近づくと岸には緒方家の家来が立ち並び、城主の上総ノ介を迎える支度に忙しい。
城の正面に立って破槌の町を眺めている時太郎は、出迎えの中に河童淵の河童たちが揃っているのに気付き、仰天した。
「時太郎……あれ、皆きてる!」
お花が叫び、時太郎は頷いた。翔一が指を挙げ、声を上げる。
「それだけでは御座いませんぞ! ほれ、苦楽魔の大天狗さま、それになんと狸御殿と狸穴の狸たちも……!」
城が岸に接岸し、時太郎とお花、そして翔一は飛び出した。翔一はすでに葉団扇を手に、空へと飛び上がっている。あの時より翔一は飛べることに気付き、それ以来何かあると空へと飛び上がることが習慣になっている。
町民に混じり、河童や天狗、それに狸たちが時太郎たちを出迎える。
長老が杖をついて歩いてくると、時太郎を見て相好を崩した。
「時太郎、それにお花。よう帰ってきたの! いや、目出度い!」
お花が口を開く。
「長老さま、いったい、これは何の騒ぎです?」
長老は莞爾と笑顔になった。
「時太郎のおかげじゃよ! 苦楽魔の天狗たちとは長く交流が途絶えていたが、時太郎が訪ねたことによって、再び昔のように行き交うことになって、こうしてお前たちを出迎えることに決まったのじゃ!」
その側で大天狗が頷く。
「それに、狸たちともな! 我々あまりに長い間、孤立しておった。今回のことで、これではいかん、人間たちとも付き合わねば、という意見が出て、こうして人間の町へと繰り出すことになった。もしかしたら、これで良かったのかもしれんな」
刑部狸が、それを引き取る。
「わしも、上総ノ介殿と同盟を結ぶことになった。人間を敵視することなく、仲間として付き合うことも必要だと考えたのだ。人間たちは陰でわしのことを〝狸親爺〟と呼んでおるが、まあ、わしは狸じゃから当たり前だがな」
時太郎は呆気に取られていた。
河童の列の間から三郎太が現れる。
三郎太は無言で時太郎を見つめる。
「父さん……」
三郎太は頷き、口を開く。
「母さんと会えたのか?」
時太郎は「うん」と俯いた。
「父さん、母さんは……」
三郎太は空を見上げた。
双つの月が出ている。
「母さんは、あの月へと向かったのだな。そして……この世界を救ったのだ」
時太郎は三郎太の言葉に大きく頷いた。
「おれ、何をしたんだろう? 母さんに会うというほかに……」
三郎太は時太郎の肩を「どん」と強く叩く。
「お前のおかげで皆、変わっていった。お前の旅がなければ、河童も、天狗も、狸たちもあのままだったろう。これでいいんだ。それにお前も変わった。そうじゃないか?」
時太郎は、再び頷く。三郎太は、にやりと笑った。
「時太郎。お前、外の世界を見たくはないか?」
「外の世界?」
「そうだ。というより、星の世界だな。お前がその気になれば、おれが南蛮人に頼んで、宙を飛ぶ船に乗せてやることもできる。おれは本来、星の世界からやってきた者だ。おれは、この世界に留まることに決めたが、お前はまだ子供だ。その目で星の世界を見ておくことも、悪くはない」
意外な父の言葉に時太郎は目の前が一気に開ける気分になった。
星の世界か……。
時太郎は父と一緒に空を見上げる。
藍月と紅月が時太郎を見下ろしていた。その月に、時太郎は母親の時姫の横顔を思い浮かべていた。
時姫が頷いた──ような気がする。
──時太郎、行きなさい──
時姫の言葉を時太郎は聞いていた。
城が近づくと岸には緒方家の家来が立ち並び、城主の上総ノ介を迎える支度に忙しい。
城の正面に立って破槌の町を眺めている時太郎は、出迎えの中に河童淵の河童たちが揃っているのに気付き、仰天した。
「時太郎……あれ、皆きてる!」
お花が叫び、時太郎は頷いた。翔一が指を挙げ、声を上げる。
「それだけでは御座いませんぞ! ほれ、苦楽魔の大天狗さま、それになんと狸御殿と狸穴の狸たちも……!」
城が岸に接岸し、時太郎とお花、そして翔一は飛び出した。翔一はすでに葉団扇を手に、空へと飛び上がっている。あの時より翔一は飛べることに気付き、それ以来何かあると空へと飛び上がることが習慣になっている。
町民に混じり、河童や天狗、それに狸たちが時太郎たちを出迎える。
長老が杖をついて歩いてくると、時太郎を見て相好を崩した。
「時太郎、それにお花。よう帰ってきたの! いや、目出度い!」
お花が口を開く。
「長老さま、いったい、これは何の騒ぎです?」
長老は莞爾と笑顔になった。
「時太郎のおかげじゃよ! 苦楽魔の天狗たちとは長く交流が途絶えていたが、時太郎が訪ねたことによって、再び昔のように行き交うことになって、こうしてお前たちを出迎えることに決まったのじゃ!」
その側で大天狗が頷く。
「それに、狸たちともな! 我々あまりに長い間、孤立しておった。今回のことで、これではいかん、人間たちとも付き合わねば、という意見が出て、こうして人間の町へと繰り出すことになった。もしかしたら、これで良かったのかもしれんな」
刑部狸が、それを引き取る。
「わしも、上総ノ介殿と同盟を結ぶことになった。人間を敵視することなく、仲間として付き合うことも必要だと考えたのだ。人間たちは陰でわしのことを〝狸親爺〟と呼んでおるが、まあ、わしは狸じゃから当たり前だがな」
時太郎は呆気に取られていた。
河童の列の間から三郎太が現れる。
三郎太は無言で時太郎を見つめる。
「父さん……」
三郎太は頷き、口を開く。
「母さんと会えたのか?」
時太郎は「うん」と俯いた。
「父さん、母さんは……」
三郎太は空を見上げた。
双つの月が出ている。
「母さんは、あの月へと向かったのだな。そして……この世界を救ったのだ」
時太郎は三郎太の言葉に大きく頷いた。
「おれ、何をしたんだろう? 母さんに会うというほかに……」
三郎太は時太郎の肩を「どん」と強く叩く。
「お前のおかげで皆、変わっていった。お前の旅がなければ、河童も、天狗も、狸たちもあのままだったろう。これでいいんだ。それにお前も変わった。そうじゃないか?」
時太郎は、再び頷く。三郎太は、にやりと笑った。
「時太郎。お前、外の世界を見たくはないか?」
「外の世界?」
「そうだ。というより、星の世界だな。お前がその気になれば、おれが南蛮人に頼んで、宙を飛ぶ船に乗せてやることもできる。おれは本来、星の世界からやってきた者だ。おれは、この世界に留まることに決めたが、お前はまだ子供だ。その目で星の世界を見ておくことも、悪くはない」
意外な父の言葉に時太郎は目の前が一気に開ける気分になった。
星の世界か……。
時太郎は父と一緒に空を見上げる。
藍月と紅月が時太郎を見下ろしていた。その月に、時太郎は母親の時姫の横顔を思い浮かべていた。
時姫が頷いた──ような気がする。
──時太郎、行きなさい──
時姫の言葉を時太郎は聞いていた。
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