87 / 124
南蛮人の巻
三
しおりを挟む
「現地人ではありませんか!」
松田大尉は憤然となった。頬が薄紅色にほんのり染まっている。
「そうさ。おれは、あんたらが言う〝現地人〟ってやつさ。しかし大抵の事情は、そこの吉村って旦那から聞いているがね。あんたら、星の世界からはるばる空を飛ぶ船に乗ってやってきたってことだな?」
木戸甚左衛門は帯に指を掛け、反り返るような姿勢になって松田大尉に話しかけた。甚左衛門の雄弁に、大尉は呆気に取られた表情になる。
「そんなことまで……」
大尉はきっとなって吉村中佐を睨みつけた。
「中佐殿、これは規律違反です! わたしたちの正体を現地人に明かすことは、禁じられているはず」
中佐は肩を竦めた。
「それは知っている。が、特別規定があるのは知らないわけではないだろう。特別規定によれば、現地採用の局員を先任の将校は招集できることになっている。わたしは木戸甚左衛門を、現地採用したのだ」
大尉は黙ってしまった。しかし疑いの目は甚左衛門に向けられたままである。甚左衛門は、そんな松田大尉の様子を面白がっているようだった。
「まあ、そうつんけんするなって、おれの話を聞けば、あんただって、そう尖がってばかりもいられなくなるぜ」
「どういうことかしら?」
「おれの主人の緒方上総ノ介のところに、ちょくちょく妙な南蛮人が訪ねてくるんだが、どうやらその南蛮人、緒方上総ノ介に色々と妙な入れ知恵とか、武器を与えているようだ。どうだい、こういう情報は興味あるんじゃないのか?」
「南蛮人ですって?」
大尉の目が見開かれた。それを見て、甚左衛門の目じりに笑い皺が刻まれた。大尉は中佐を見た。中佐は頷いた。
「そうなのだ。甚左衛門の話を聞いて、わたしはその南蛮人がもしかしたら、干渉の原因ではないかと思っているのだ」
「でも、どうして? その人物の目的はなんです?」
「それが判らん!」
中佐は机の表面を、ばしりと叩いた。
「君が持ってきた分析によると、その人物の干渉によりこの惑星の地方豪族たちの間に活発な活動が見られ、本来の発達段階を跳び越え、この惑星は地球の戦国時代の様相を現している。そんな工作をして、いったい、何の得があるのか……」
大尉は立ち上がった。
「すぐ逮捕すべきです! その人物の身柄を確保し、再発見された殖民惑星の正常な発達を阻害したという罪で拘禁しましょう」
「それが簡単にいかんのだ。君も知ってる通り、逮捕状を取るには、この惑星の政治状況の変化と、当人の活動に因果関係を立証する必要がある。それには途方もなく時間がかかるよ。それまでこの惑星の政治状況が待ってくれるかどうか」
甚左衛門が割り込む。
「そこで、おれの出番、ってわけだ。おれはさっきも言ったとおり〝現地人〟だ。あんたらが掟に縛られ動けなくとも、おれなら自由に動ける。おれがあんたらに代わって、その南蛮人のことを探っても良いんだぜ」
大尉は目を細めた。
「それで、甚左衛門さん。あなた、引き換えに何を要求なさるつもりなの? 無料奉仕はあなたの柄ではなさそうね」
甚左衛門は真顔になった。
「そう、おれは、あんたらにある報酬を望んでいる。おれは最初、緒方上総ノ介の配下の木本藤四郎についたころ、一国一城の国主になれればいいと思っていた。やがておれの望みは大きくなった。緒方上総ノ介は天下を狙っている。おれだって狙ってもいいはずだ、とね」
松田大尉は叫んだ。
「あなた、まさか?」
甚左衛門は手を振った。
「いいや、今のおれは、さらさら天下など眼中にない。おれの望みはもっと大きくなった。おれは、この世界を出たい! あんたらの船に乗って、星の世界へ行って見たいんだ」
大尉は意外な言葉に、口をあんぐりと開けて甚左衛門の顔を見つめた。
甚左衛門は頷き、繰り返す。
「そうさ。おれは、あんたらの世界が見たいんだ! 頼む! おれを、あんたらの飛ぶ船に乗せてくれ!」
松田大尉は憤然となった。頬が薄紅色にほんのり染まっている。
「そうさ。おれは、あんたらが言う〝現地人〟ってやつさ。しかし大抵の事情は、そこの吉村って旦那から聞いているがね。あんたら、星の世界からはるばる空を飛ぶ船に乗ってやってきたってことだな?」
木戸甚左衛門は帯に指を掛け、反り返るような姿勢になって松田大尉に話しかけた。甚左衛門の雄弁に、大尉は呆気に取られた表情になる。
「そんなことまで……」
大尉はきっとなって吉村中佐を睨みつけた。
「中佐殿、これは規律違反です! わたしたちの正体を現地人に明かすことは、禁じられているはず」
中佐は肩を竦めた。
「それは知っている。が、特別規定があるのは知らないわけではないだろう。特別規定によれば、現地採用の局員を先任の将校は招集できることになっている。わたしは木戸甚左衛門を、現地採用したのだ」
大尉は黙ってしまった。しかし疑いの目は甚左衛門に向けられたままである。甚左衛門は、そんな松田大尉の様子を面白がっているようだった。
「まあ、そうつんけんするなって、おれの話を聞けば、あんただって、そう尖がってばかりもいられなくなるぜ」
「どういうことかしら?」
「おれの主人の緒方上総ノ介のところに、ちょくちょく妙な南蛮人が訪ねてくるんだが、どうやらその南蛮人、緒方上総ノ介に色々と妙な入れ知恵とか、武器を与えているようだ。どうだい、こういう情報は興味あるんじゃないのか?」
「南蛮人ですって?」
大尉の目が見開かれた。それを見て、甚左衛門の目じりに笑い皺が刻まれた。大尉は中佐を見た。中佐は頷いた。
「そうなのだ。甚左衛門の話を聞いて、わたしはその南蛮人がもしかしたら、干渉の原因ではないかと思っているのだ」
「でも、どうして? その人物の目的はなんです?」
「それが判らん!」
中佐は机の表面を、ばしりと叩いた。
「君が持ってきた分析によると、その人物の干渉によりこの惑星の地方豪族たちの間に活発な活動が見られ、本来の発達段階を跳び越え、この惑星は地球の戦国時代の様相を現している。そんな工作をして、いったい、何の得があるのか……」
大尉は立ち上がった。
「すぐ逮捕すべきです! その人物の身柄を確保し、再発見された殖民惑星の正常な発達を阻害したという罪で拘禁しましょう」
「それが簡単にいかんのだ。君も知ってる通り、逮捕状を取るには、この惑星の政治状況の変化と、当人の活動に因果関係を立証する必要がある。それには途方もなく時間がかかるよ。それまでこの惑星の政治状況が待ってくれるかどうか」
甚左衛門が割り込む。
「そこで、おれの出番、ってわけだ。おれはさっきも言ったとおり〝現地人〟だ。あんたらが掟に縛られ動けなくとも、おれなら自由に動ける。おれがあんたらに代わって、その南蛮人のことを探っても良いんだぜ」
大尉は目を細めた。
「それで、甚左衛門さん。あなた、引き換えに何を要求なさるつもりなの? 無料奉仕はあなたの柄ではなさそうね」
甚左衛門は真顔になった。
「そう、おれは、あんたらにある報酬を望んでいる。おれは最初、緒方上総ノ介の配下の木本藤四郎についたころ、一国一城の国主になれればいいと思っていた。やがておれの望みは大きくなった。緒方上総ノ介は天下を狙っている。おれだって狙ってもいいはずだ、とね」
松田大尉は叫んだ。
「あなた、まさか?」
甚左衛門は手を振った。
「いいや、今のおれは、さらさら天下など眼中にない。おれの望みはもっと大きくなった。おれは、この世界を出たい! あんたらの船に乗って、星の世界へ行って見たいんだ」
大尉は意外な言葉に、口をあんぐりと開けて甚左衛門の顔を見つめた。
甚左衛門は頷き、繰り返す。
「そうさ。おれは、あんたらの世界が見たいんだ! 頼む! おれを、あんたらの飛ぶ船に乗せてくれ!」
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
【完結】君の世界に僕はいない…
春野オカリナ
恋愛
アウトゥーラは、「永遠の楽園」と呼ばれる修道院で、ある薬を飲んだ。
それを飲むと心の苦しみから解き放たれると言われる秘薬──。
薬の名は……。
『忘却の滴』
一週間後、目覚めたアウトゥーラにはある変化が現れた。
それは、自分を苦しめた人物の存在を全て消し去っていたのだ。
父親、継母、異母妹そして婚約者の存在さえも……。
彼女の目には彼らが映らない。声も聞こえない。存在さえもきれいさっぱりと忘れられていた。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる