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決闘の巻
六
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翌朝、時太郎とお花は狸御殿に戻り、翔一と再会していた。
正門に連れ出された翔一は、ひょこひょことした頼りない足取りで現れた。時太郎は声に驚きを含ませて訊いた。
「お前、本当に翔一か?」
時太郎は思わず真顔で尋ねていた。
「はぁい……」と、答えた翔一は、僅かの間にがらりと面変わりしていた。
あれほどまでにふくよかだった顔つきは、げっそりとやせ細り、肉が落ちたのか、頬の皮膚がたるんで垂れ下がっている。大きな眼鏡の奥から覗く二つの目玉は、落ち窪んだ眼窩からぎょろぎょろと飛び出さんばかり。
「どうしたんだ! 病気か?」
「いいえ」と翔一は首を振った。どういう訳か、顔には薄っすら笑いを浮かべている。なんだか、幸せそうでもある。
「わたくし、大人になった心持で御座います。さ、参りましょうか」
その時、翔一は地面の小石に躓いた。倒れはしなかったが、ぴょんと飛び上がった翔一は、奇妙な叫びを上げる。
「ほほほほほほ!」
ぴょん、ぴょんと何度もその場で飛び上がる。腰を抑え、膝を屈めた。
うっ、と仰け反り、朝日を眺めた。
「ああ、お日様が黄色く見える……」
時太郎は「処置なし」と天を仰いだ。どん、と翔一の肩を叩く。
「行こうぜ! 随分と手間取った」
「あ、いけません! そんなところを叩かれては、で、出てしまう……」
股間を押さえ、眉を顰めた。
と、狸御殿から姫の叫び声が聞こえてくる。
「翔一さま──! またお出でくださいませね──! 姫は待っておりまする──」
正門に連れ出された翔一は、ひょこひょことした頼りない足取りで現れた。時太郎は声に驚きを含ませて訊いた。
「お前、本当に翔一か?」
時太郎は思わず真顔で尋ねていた。
「はぁい……」と、答えた翔一は、僅かの間にがらりと面変わりしていた。
あれほどまでにふくよかだった顔つきは、げっそりとやせ細り、肉が落ちたのか、頬の皮膚がたるんで垂れ下がっている。大きな眼鏡の奥から覗く二つの目玉は、落ち窪んだ眼窩からぎょろぎょろと飛び出さんばかり。
「どうしたんだ! 病気か?」
「いいえ」と翔一は首を振った。どういう訳か、顔には薄っすら笑いを浮かべている。なんだか、幸せそうでもある。
「わたくし、大人になった心持で御座います。さ、参りましょうか」
その時、翔一は地面の小石に躓いた。倒れはしなかったが、ぴょんと飛び上がった翔一は、奇妙な叫びを上げる。
「ほほほほほほ!」
ぴょん、ぴょんと何度もその場で飛び上がる。腰を抑え、膝を屈めた。
うっ、と仰け反り、朝日を眺めた。
「ああ、お日様が黄色く見える……」
時太郎は「処置なし」と天を仰いだ。どん、と翔一の肩を叩く。
「行こうぜ! 随分と手間取った」
「あ、いけません! そんなところを叩かれては、で、出てしまう……」
股間を押さえ、眉を顰めた。
と、狸御殿から姫の叫び声が聞こえてくる。
「翔一さま──! またお出でくださいませね──! 姫は待っておりまする──」
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