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決戦! 宙森対《鉄槌》
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「あれ?」とジムは声を上げた。
宙森の司令センターは、蛻の殻だった。がらんとしていた。
巨大な空間には、人っ子一人すらも見当たらない。
数百人を収容できる無数のコンソールには、ちかちかと様々な計器やモニターに灯りが点っているが、ただ静寂が支配しているだけで無人であった。
「逃げたか……」
シルバーの唇が、不満にぐっとひん曲げられた。
「糞お!」
大声を発し、手近のコンソールに思い切り拳を叩きつける。
コンソールは、シルバーの拳の形に、ぐにゃりと凹む。シルバーはもはや、自分の力をコントロールできないようだ。
わあわあという喚声に、ジムはぎくりと顔を上げた。また戦闘があるのか?
しかし戦闘にしては妙だ。喚声には笑い声も混じっている。
どたん、ばたん……と何かが倒される音、ばりんと突き破られる音が交錯している。
「ありゃ、何だ?」
ジムの呟きにシルバーは肩を竦めた。
「おれの部下だ。略奪を許可しているから、おおかた手に入れられるものを漁っているのだろう」
詰まらないことを聞くなとばかりに、シルバーはそっぽを向く。怖ろしく不機嫌である。
ジムは「ああそうか」と頷いた。さすが宇宙海賊である!
その時、シルバーの部下が、あたふたと司令センターに飛び込んできた。
「シルバー司令官!」
「なんだっ!」
部下の大声にシルバーは、ぐい、と身体をねじ向ける。部下は呆然と青ざめた顔で喚いた。
「妙なものを見つけました! タンクの中に人間の脳が……」
ぎょっとなって、ジムとキャシーは顔を見合わせる。
「人間の脳だって?」
ジムの言葉にキャシーは、まじまじと目を見開き、大きく頷く。
「きっと《大校母》の〝楽園計画〟よ!」
「どこだっ!」
シルバーは大声を上げると、一跳びで部下の側へ近寄った。その勢いに、部下は思わず仰け反った。
「そいつは、どこにあるんだっ!」
「こ、こっちです……」
へどもどとシルバーの部下は案内に立った。
通路を戻り、部下は下の階層へ続く階段があった。通路には他の部下たちがぞろりと勢ぞろいして、シルバーを待っている。
部下たちはシルバーを目にすると、信じられないものを見たという表情を浮かべ出迎えた。
階下に降りるとそこは円形の部屋になっていて、無数の透明なタンクが並んでいた。タンクには透明な液体が満たされ、一つ一つに剥きだしの脳がぷかぷかと浮いている。
脳には生命維持装置が繋がれ、情報ケーブルが接続されている。天井近くにはタンクの状態を示すモニターが輝きを放ち、様々な数値や図表が映し出されている。
「こ、これは何です? 司令官」
部下が視線をきょときょとと動かし、顔に一杯の汗を浮かべて話し掛けた。どう判断して良いのか、てんで判らないといった様子である。
「これが《大校母》の〝楽園計画〟の全貌……いや、その一部だ。《大校母》は、これと同じような装置を、億の単位で揃えようとしていたんだ」
シルバーの言葉に、一人の部下が、まじまじとタンクを覗き込む。
「こりゃ、人間の脳味噌なんで? なんでまた、こんな真似を?」
シルバーはその部下に〝楽園計画〟を説明した。部下は首を振った。
「そんなこと、本気で信じているんですかね? 何だか、気味が悪いや。するってえと《大校母》は、ボーラン人以外の〝種族〟をマジで全滅させようと思ってるんスか?」
シルバーが頷くと、部下たちは顔を見合わせた。
「とんでもねえこと考えやがる……」
一人が忌々しげに呟く。
ジムは腕を組んで口を開いた。
「これ、どうする? みんな、身体を失って、夢を見ているんだろう? 元に戻せるのか?」
ガラスの管理人が前へ出た。
「それは、わたしにお任せ下さい……」
キャシーは目を丸くする。
「あなたが?」
ガラスの管理人は目鼻のない顔を頷かせた。
「ええ、我々はフリント教授によって人格転移用の器として設計されています。我々の身体を、この犠牲者たちに提供しましょう。元の身体は失われますが、それでも通常の生活は取り戻せます」
シルバーは管理人に微かに頷く。
「おれがこの身体に記憶を転移させたのと、同じことをするのだな。それはそれでいいとして、ところで《大校母》は、どこにいるのだ?」
宙森の司令センターは、蛻の殻だった。がらんとしていた。
巨大な空間には、人っ子一人すらも見当たらない。
数百人を収容できる無数のコンソールには、ちかちかと様々な計器やモニターに灯りが点っているが、ただ静寂が支配しているだけで無人であった。
「逃げたか……」
シルバーの唇が、不満にぐっとひん曲げられた。
「糞お!」
大声を発し、手近のコンソールに思い切り拳を叩きつける。
コンソールは、シルバーの拳の形に、ぐにゃりと凹む。シルバーはもはや、自分の力をコントロールできないようだ。
わあわあという喚声に、ジムはぎくりと顔を上げた。また戦闘があるのか?
しかし戦闘にしては妙だ。喚声には笑い声も混じっている。
どたん、ばたん……と何かが倒される音、ばりんと突き破られる音が交錯している。
「ありゃ、何だ?」
ジムの呟きにシルバーは肩を竦めた。
「おれの部下だ。略奪を許可しているから、おおかた手に入れられるものを漁っているのだろう」
詰まらないことを聞くなとばかりに、シルバーはそっぽを向く。怖ろしく不機嫌である。
ジムは「ああそうか」と頷いた。さすが宇宙海賊である!
その時、シルバーの部下が、あたふたと司令センターに飛び込んできた。
「シルバー司令官!」
「なんだっ!」
部下の大声にシルバーは、ぐい、と身体をねじ向ける。部下は呆然と青ざめた顔で喚いた。
「妙なものを見つけました! タンクの中に人間の脳が……」
ぎょっとなって、ジムとキャシーは顔を見合わせる。
「人間の脳だって?」
ジムの言葉にキャシーは、まじまじと目を見開き、大きく頷く。
「きっと《大校母》の〝楽園計画〟よ!」
「どこだっ!」
シルバーは大声を上げると、一跳びで部下の側へ近寄った。その勢いに、部下は思わず仰け反った。
「そいつは、どこにあるんだっ!」
「こ、こっちです……」
へどもどとシルバーの部下は案内に立った。
通路を戻り、部下は下の階層へ続く階段があった。通路には他の部下たちがぞろりと勢ぞろいして、シルバーを待っている。
部下たちはシルバーを目にすると、信じられないものを見たという表情を浮かべ出迎えた。
階下に降りるとそこは円形の部屋になっていて、無数の透明なタンクが並んでいた。タンクには透明な液体が満たされ、一つ一つに剥きだしの脳がぷかぷかと浮いている。
脳には生命維持装置が繋がれ、情報ケーブルが接続されている。天井近くにはタンクの状態を示すモニターが輝きを放ち、様々な数値や図表が映し出されている。
「こ、これは何です? 司令官」
部下が視線をきょときょとと動かし、顔に一杯の汗を浮かべて話し掛けた。どう判断して良いのか、てんで判らないといった様子である。
「これが《大校母》の〝楽園計画〟の全貌……いや、その一部だ。《大校母》は、これと同じような装置を、億の単位で揃えようとしていたんだ」
シルバーの言葉に、一人の部下が、まじまじとタンクを覗き込む。
「こりゃ、人間の脳味噌なんで? なんでまた、こんな真似を?」
シルバーはその部下に〝楽園計画〟を説明した。部下は首を振った。
「そんなこと、本気で信じているんですかね? 何だか、気味が悪いや。するってえと《大校母》は、ボーラン人以外の〝種族〟をマジで全滅させようと思ってるんスか?」
シルバーが頷くと、部下たちは顔を見合わせた。
「とんでもねえこと考えやがる……」
一人が忌々しげに呟く。
ジムは腕を組んで口を開いた。
「これ、どうする? みんな、身体を失って、夢を見ているんだろう? 元に戻せるのか?」
ガラスの管理人が前へ出た。
「それは、わたしにお任せ下さい……」
キャシーは目を丸くする。
「あなたが?」
ガラスの管理人は目鼻のない顔を頷かせた。
「ええ、我々はフリント教授によって人格転移用の器として設計されています。我々の身体を、この犠牲者たちに提供しましょう。元の身体は失われますが、それでも通常の生活は取り戻せます」
シルバーは管理人に微かに頷く。
「おれがこの身体に記憶を転移させたのと、同じことをするのだな。それはそれでいいとして、ところで《大校母》は、どこにいるのだ?」
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