宇宙狂時代~SF宝島~

万卜人

文字の大きさ
上 下
104 / 107
決戦! 宙森対《鉄槌》

しおりを挟む
「あれ?」とジムは声を上げた。
 宙森の司令センターは、蛻の殻だった。がらんとしていた。
 巨大な空間には、人っ子一人すらも見当たらない。
 数百人を収容できる無数のコンソールには、ちかちかと様々な計器やモニターに灯りが点っているが、ただ静寂が支配しているだけで無人であった。
「逃げたか……」
 シルバーの唇が、不満にぐっとひん曲げられた。
「糞お!」
 大声を発し、手近のコンソールに思い切り拳を叩きつける。
 コンソールは、シルバーの拳の形に、ぐにゃりと凹む。シルバーはもはや、自分の力をコントロールできないようだ。
 わあわあという喚声に、ジムはぎくりと顔を上げた。また戦闘があるのか?
 しかし戦闘にしては妙だ。喚声には笑い声も混じっている。
 どたん、ばたん……と何かが倒される音、ばりんと突き破られる音が交錯している。
「ありゃ、何だ?」
 ジムの呟きにシルバーは肩を竦めた。
「おれの部下だ。略奪を許可しているから、おおかた手に入れられるものを漁っているのだろう」
 詰まらないことを聞くなとばかりに、シルバーはそっぽを向く。怖ろしく不機嫌である。
 ジムは「ああそうか」と頷いた。さすが宇宙海賊である!
 その時、シルバーの部下が、あたふたと司令センターに飛び込んできた。
「シルバー司令官!」
「なんだっ!」
 部下の大声にシルバーは、ぐい、と身体をねじ向ける。部下は呆然と青ざめた顔で喚いた。
「妙なものを見つけました! タンクの中に人間の脳が……」
 ぎょっとなって、ジムとキャシーは顔を見合わせる。
「人間の脳だって?」
 ジムの言葉にキャシーは、まじまじと目を見開き、大きく頷く。
「きっと《大校母》の〝楽園計画〟よ!」
「どこだっ!」
 シルバーは大声を上げると、一跳びで部下の側へ近寄った。その勢いに、部下は思わず仰け反った。
「そいつは、どこにあるんだっ!」
「こ、こっちです……」
 へどもどとシルバーの部下は案内に立った。
 通路を戻り、部下は下の階層へ続く階段があった。通路には他の部下たちがぞろりと勢ぞろいして、シルバーを待っている。
 部下たちはシルバーを目にすると、信じられないものを見たという表情を浮かべ出迎えた。
 階下に降りるとそこは円形の部屋になっていて、無数の透明なタンクが並んでいた。タンクには透明な液体が満たされ、一つ一つに剥きだしの脳がぷかぷかと浮いている。
 脳には生命維持装置が繋がれ、情報ケーブルが接続されている。天井近くにはタンクの状態を示すモニターが輝きを放ち、様々な数値や図表が映し出されている。
「こ、これは何です? 司令官」
 部下が視線をきょときょとと動かし、顔に一杯の汗を浮かべて話し掛けた。どう判断して良いのか、てんで判らないといった様子である。
「これが《大校母》の〝楽園計画〟の全貌……いや、その一部だ。《大校母》は、これと同じような装置を、億の単位で揃えようとしていたんだ」
 シルバーの言葉に、一人の部下が、まじまじとタンクを覗き込む。
「こりゃ、人間の脳味噌なんで? なんでまた、こんな真似を?」
 シルバーはその部下に〝楽園計画〟を説明した。部下は首を振った。
「そんなこと、本気で信じているんですかね? 何だか、気味が悪いや。するってえと《大校母》は、ボーラン人以外の〝種族〟をマジで全滅させようと思ってるんスか?」
 シルバーが頷くと、部下たちは顔を見合わせた。
「とんでもねえこと考えやがる……」
 一人が忌々しげに呟く。
 ジムは腕を組んで口を開いた。
「これ、どうする? みんな、身体を失って、夢を見ているんだろう? 元に戻せるのか?」
 ガラスの管理人が前へ出た。
「それは、わたしにお任せ下さい……」
 キャシーは目を丸くする。
「あなたが?」
 ガラスの管理人は目鼻のない顔を頷かせた。
「ええ、我々はフリント教授によって人格転移用の器として設計されています。我々の身体を、この犠牲者たちに提供しましょう。元の身体は失われますが、それでも通常の生活は取り戻せます」
 シルバーは管理人に微かに頷く。
「おれがこの身体に記憶を転移させたのと、同じことをするのだな。それはそれでいいとして、ところで《大校母》は、どこにいるのだ?」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

異世界帰りの俺、現代日本にダンジョンが出現したので異世界経験を売ったり配信してみます

内田ヨシキ
ファンタジー
「あの魔物の倒し方なら、30万円で売るよ!」  ――これは、現代日本にダンジョンが出現して間もない頃の物語。  カクヨムにて先行連載中です! (https://kakuyomu.jp/works/16818023211703153243)  異世界で名を馳せた英雄「一条 拓斗(いちじょう たくと)」は、現代日本に帰還したはいいが、異世界で鍛えた魔力も身体能力も失われていた。  残ったのは魔物退治の経験や、魔法に関する知識、異世界言語能力など現代日本で役に立たないものばかり。  一般人として生活するようになった拓斗だったが、持てる能力を一切活かせない日々は苦痛だった。  そんな折、現代日本に迷宮と魔物が出現。それらは拓斗が異世界で散々見てきたものだった。  そして3年後、ついに迷宮で活動する国家資格を手にした拓斗は、安定も平穏も捨てて、自分のすべてを活かせるはずの迷宮へ赴く。  異世界人「フィリア」との出会いをきっかけに、拓斗は自分の異世界経験が、他の初心者同然の冒険者にとって非常に有益なものであると気づく。  やがて拓斗はフィリアと共に、魔物の倒し方や、迷宮探索のコツ、魔法の使い方などを、時に直接売り、時に動画配信してお金に変えていく。  さらには迷宮探索に有用なアイテムや、冒険者の能力を可視化する「ステータスカード」を発明する。  そんな彼らの活動は、ダンジョン黎明期の日本において重要なものとなっていき、公的機関に発展していく――。

オワコン・ゲームに復活を! 仕事首になって友人のゲーム会社に誘われた俺。あらゆる手段でゲームを盛り上げます。

栗鼠
SF
時は、VRゲームが大流行の22世紀! 無能と言われてクビにされた、ゲーム開発者・坂本翔平の元に、『爆死したゲームを助けてほしい』と、大学時代の友人・三国幸太郎から電話がかかる。こうして始まった、オワコン・ゲーム『ファンタジア・エルドーン』の再ブレイク作戦! 企画・交渉・開発・営業・運営に、正当防衛、カウンター・ハッキング、敵対勢力の排除など! 裏仕事まで出来る坂本翔平のお陰で、ゲームは大いに盛り上がっていき! ユーザーと世界も、変わっていくのであった!! *小説家になろう、カクヨムにも、投稿しています。

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

ヒルクライム・ラバーズ ~初心者トシヤとクライマーの少女~

すて
恋愛
ロードバイクを手に入れた少年とロードバイク乗りの少女の青春学園ストーリーです。 手に汗握るハイスピードバトルが繰り広げられたりはしません。

銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶
SF
最大の宿敵であるスルガルム/トーミ宙域星大名、ギィゲルト・ジヴ=イマーガラを討ち果たしたノヴァルナ・ダン=ウォーダは、いよいよシグシーマ銀河系の覇権獲得へ動き出す。だがその先に待ち受けるは数々の敵対勢力。果たしてノヴァルナの運命は?

【『星屑の狭間で』『パラレル2』(アドル・エルク独身編)】

トーマス・ライカー
SF
 舞台は、数多ある地球圏パラレルワールドのひとつ。  超大規模、超高密度、超高速度、超圧縮高度複合複層処理でのハイパー・ヴァーチャル・エクステンデッド・ミクシッド・リアリティ(超拡張複合仮想現実)の技術が、一般にも普及して定着し、ハイパーレベル・データストリーム・ネットワークが一般化した未来社会。  主人公、アドル・エルクは36才で今だに独身。  インターナショナル・クライトン・エンタープライズ(クライトン国際総合商社)本社第2棟・営業3課・セカンドセクション・フォースフロアで勤務する係長だ。  政・財・官・民・公・軍がある目的の為に、共同で構築した『運営推進委員会』  そこが企画した、超大規模ヴァーチャル体感サバイバル仮想空間艦対戦ゲーム大会。 『サバイバル・スペース・バトルシップ』  この『運営推進委員会』にて一席を占める、データストリーム・ネットワーク・メディア。  『トゥーウェイ・データ・ネット・ストリーム・ステーション』社が企画した 『サバイバル・スペースバトルシップ・キャプテン・アンド・クルー』と言う連続配信リアル・ライヴ・ヴァラエティショウが、民間から男性艦長演者10名と女性艦長演者10名を募集し、アドル・エルクはそれに応募して当選を果たしたのだ。  彼がこのゲーム大会に応募したのは、これがウォー・ゲームではなく、バトル・ゲームと言う触れ込みだったからだ。  ウォー・ゲームであれば、参加者が所属する国・団体・勢力のようなものが設定に組み込まれる。  その所属先の中での振る舞いが面倒臭いと感じていたので、それが設定に組み込まれていない、このゲームが彼は気に入った。  だがこの配信会社は、艦長役演者に当選した20名を開幕前に発表しなかった。  連続配信リアル・ライヴ・ヴァラエティショウが配信されて初めて、誰が選ばれたのかが判る仕掛けにしたのだ。  艦長役演者に選ばれたのが、今から90日前。以来彼は土日・祝日と終業後の時間を使って準備を進めてきた。  配信会社から送られた、女性芸能人クルー候補者名簿から自分の好みに合い、能力の高い人材を副長以下のクルーとして選抜し、面談し、撮影セットを見学し、マニュアルファイルを頭に叩き込み、彼女達と様々な打ち合わせや協議を重ねて段取りや準備を積み上げて構築してきた。  彼の目的はこのゲーム大会を出来る限りの長期間に亘って楽しむ事。  会社からの給与とボーナス・艦長報酬と配信会社からのギャラ・戦果に応じた分配賞金で大金持ちになる事と、自分が艦長として率いる『ディファイアント』に経験値を付与し続けて、最強の艦とする事。  スタッフ・クルー達との関係構築も楽しみたい。  運営推進委員会の真意・本当の目的は気になる処だが、先ずは『ディファイアント』として、戦い抜く姿を観せる事だな。

CombatWorldOnline~落ちこぼれ空手青年のアオハルがここに~

ゆる弥
SF
ある空手少年は周りに期待されながらもなかなか試合に勝てない日々が続いていた。 そんな時に親友から進められフルダイブ型のVRMMOゲームに誘われる。 そのゲームを通して知り合ったお爺さんから指導を受けるようになり、現実での成績も向上していく成り上がりストーリー! これはある空手少年の成長していく青春の一ページ。

処理中です...