宇宙狂時代~SF宝島~

万卜人

文字の大きさ
上 下
80 / 107
伝説の星

しおりを挟む
 予想通り、月の表面には生命の欠片も見当たらず、荒涼とした岩の眺望が広がっているだけだった。
 淡々とした眺めに、ジムはついに欠伸を漏らしていた。
「どこまでも、おんなじ眺めだなあ! 右を見ても、左を見ても、岩、岩ばかり……。なーんにも変わったところなんか、ありゃしない……」
「そうでもないわ」
 隣のキャシーが前方を見つめ、ぐいとばかりに身を乗り出す。腕を伸ばし、指さす。
「あれを見て御覧なさいよ」
「何だ?」
 ジムはキャシーの指差した方向を見た。
 平坦な岩の荒野に、ぽつんと小さく何かが太陽の光を反射している。反射の具合から推測して、金属製のようだ。ヘロヘロが手元のコンソールを操作し、モニターに映し出す。
 幾つかの機械の残骸が残されていた。
 四角張った台座に、針金細工のような脚がついた原始的な宇宙船の一部分。平原に立てられた一本の旗。それらは真空の中、頼りなげに地面に長い影を落としていた。
「あそこに着陸してみるか……」
 ジムが操縦桿を握りしめたその時、出し抜けに艦内スピーカーを通し、命令口調の声が聞こえてきた。その声は、男とも女ともつかない中性的なものだった。
「それ以上の接近を禁じる! ここは人類の遺産であり、未来永劫に亘って保存されるべき、聖なる場所なのである!」
 ついで《弾頭》の艦体が、がくんと宇宙空間の一点に固定された。ジムは瞬間的に、これが牽引ビームによるものであることを悟っていた。
 その場にいた原型の人々の間から、恐怖の叫び声が上がっていた。
 ジムは怒りをこめ、立ち上がった。スピーカーを見上げ、怒鳴る。
「誰だ! なぜ禁じられた場所だなんて言うんだ? ビーコンを発信していたのは、あんたじゃないのか?」
 声がまた返ってくる。今度は先ほどのような高圧的な調子はなく、穏やかといっていい声音だった。
「失礼した……。そちらが強引に着陸をしようとしたので、非常手段を採らざるを得なかった。いかにもビーコンを送信しているのは、こちらだ。あなたがたは遥々、ここまで来られたのだから教授の客人と考えていいのだろうな?」
 キャシーが叫んだ。
「それ、フリント教授のこと?」
「そうだ。ここはフリント教授の秘密を隠した場所である。今、入り口を開ける。そこから進入してもらいたい」
 それだけ言うと、声はぷつっと一方的に接続を切ってしまった。慌ててキャシーが「ちょっと待って、聞きたいことが……」と言いかけたが、返答はない。
 立ち上がりかけたのをまた座席に腰を下ろす。
 頭を振って「訳が判らない」といった顔つきで、ジムを見た。ジムもまた同様で、キャシーを見て頷いた。
 ヘロヘロが前方の地面を見て叫んだ。
「見ろよ! あれが入り口じゃないか?」
 ヘロヘロの指差した地面がぱっくりと二つに割れ、内部に宇宙船の格納庫らしき場所が顕わになる。
 ジムは操縦桿を試した。ちゃんと自由に動く。牽引ビームはなくなっている!
「よし、何が何だか知らないが、向こうが来いというなら行ってみようじゃないか!」
《弾頭》は入り口へと向かう。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

関西訛りな人工生命体の少女がお母さんを探して旅するお話。

虎柄トラ
SF
あるところに誰もがうらやむ才能を持った科学者がいた。 科学者は天賦の才を得た代償なのか、天涯孤独の身で愛する家族も頼れる友人もいなかった。 愛情に飢えた科学者は存在しないのであれば、創造すればいいじゃないかという発想に至る。 そして試行錯誤の末、科学者はありとあらゆる癖を詰め込んだ最高傑作を完成させた。 科学者は人工生命体にリアムと名付け、それはもうドン引きするぐらい溺愛した。 そして月日は経ち、可憐な少女に成長したリアムは二度目の誕生日を迎えようとしていた。 誕生日プレゼントを手に入れるため科学者は、リアムに留守番をお願いすると家を出て行った。 それからいくつも季節が通り過ぎたが、科学者が家に帰ってくることはなかった。 科学者が帰宅しないのは迷子になっているからだと、推察をしたリアムはある行動を起こした。 「お母さん待っててな、リアムがいま迎えに行くから!」 一度も外に出たことがない関西訛りな箱入り娘による壮大な母親探しの旅がいまはじまる。

❤️レムールアーナ人の遺産❤️

apusuking
SF
 アランは、神代記の伝説〈宇宙が誕生してから40億年後に始めての知性体が誕生し、更に20億年の時を経てから知性体は宇宙に進出を始める。  神々の申し子で有るレムルアーナ人は、数億年を掛けて宇宙の至る所にレムルアーナ人の文明を築き上げて宇宙は人々で溢れ平和で共存共栄で発展を続ける。  時を経てレムルアーナ文明は予知せぬ謎の種族の襲来を受け、宇宙を二分する戦いとなる。戦争終焉頃にはレムルアーナ人は誕生星系を除いて衰退し滅亡するが、レムルアーナ人は後世の為に科学的資産と数々の奇跡的な遺産を残した。  レムールアーナ人に代わり3大種族が台頭して、やがてレムルアーナ人は伝説となり宇宙に蔓延する。  宇宙の彼方の隠蔽された星系に、レムルアーナ文明の輝かしい遺産が眠る。其の遺産を手にした者は宇宙を征するで有ろ。但し、辿り付くには3つの鍵と7つの試練を乗り越えねばならない。  3つの鍵は心の中に眠り、開けるには心の目を開いて真実を見よ。心の鍵は3つ有り、3つの鍵を開けて真実の鍵が開く〉を知り、其の神代記時代のレムールアーナ人が残した遺産を残した場所が暗示されていると悟るが、闇の勢力の陰謀に巻き込まれゴーストリアンが破壊さ

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

シーフードミックス

黒はんぺん
SF
ある日あたしはロブスターそっくりの宇宙人と出会いました。出会ったその日にハンバーガーショップで話し込んでしまいました。 以前からあたしに憑依する何者かがいたけれど、それは宇宙人さんとは無関係らしい。でも、その何者かさんはあたしに警告するために、とうとうあたしの内宇宙に乗り込んできたの。 ちょっとびっくりだけど、あたしの内宇宙には天の川銀河やアンドロメダ銀河があります。よかったら見物してってね。 内なる宇宙にもあたしの住むご町内にも、未知の生命体があふれてる。遭遇の日々ですね。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

魔術師のロボット~最凶と呼ばれたパイロットによる世界変革記~

MS
SF
これは戦争に巻き込まれた少年が世界を変えるために戦う物語。 戦歴2234年、人型ロボット兵器キャスター、それは魔術師と呼ばれる一部の人しか扱えない兵器であった。 そのパイロットになるためアルバート・デグレアは軍の幼年学校に通っていて卒業まであと少しの時だった。 親友が起こしたキャスター強奪事件。 そして大きく変化する時代に巻き込まれていく。 それぞれの正義がぶつかり合うなかで徐々にその才能を開花させていき次々と大きな戦果を挙げていくが……。 新たな歴史が始まる。 ************************************************ 小説家になろう様、カクヨム様でも連載しております。 投降は当分の間毎日22時ごろを予定しています。

SteamMakina 最強兵器とメンヘラ令嬢の蒸気飛行船紀行

理想論者
SF
大地は枯れ、海は黒く。灰が降る、この世界。匂いは血と鉄の無慈悲な匂いだけ。 13号は目覚める。ある女性の記憶だけを持ち合わせて。曇り空か灰の雨雲しかないこの世界には、希望があるのか。彼がなぜこの時代に目覚めたのか。

入れ替われるイメクラ

廣瀬純一
SF
男女の体が入れ替わるイメクラの話

処理中です...