宇宙狂時代~SF宝島~

万卜人

文字の大きさ
上 下
71 / 107
指導者サーク

しおりを挟む
 時間は、少し戻る。
 混乱の中、ジムとキャシーとヘロヘロの三人は《大校母》の巣の内部を盲滅法、遮二無二、右往左往と走り回っていた。
 ともかく外へ出ようとしたのだが、なにしろ連れられた通路が迷路そのもので、二人はすぐ方向感覚を失ってしまった。ヘロヘロの記憶を利用して後戻りすればいい、という考えが浮かんだときは、すでに元の場所から遠く離れた所まで来ていた。
「臭え! たまんないな……」
 ジムは鼻を押さえ目を細める。スカンクの奇襲を受けたような強烈な匂いで、目を開けているのも辛い。キャシーは頷き、手渡されたマスクを被った。
 それに気付き、ジムもマスクを被る。たちまち、匂いが消え、二人はほっと溜息をつく。
「なんで、こんなに匂うんだ」
「もしここが蟻塚そのものとしたら、蟻は溜め込んだ食物を醗酵させるって聞いたことがあるわ。ここでも同じように、食糧を醗酵させているのかもしれないわね」
 キャシーは憶測を述べたが、あくまでうろ覚えに過ぎない。本当にそうかは判らない。それでもジムは、キャシーの説明に納得した。
 通路には時折、ボーラン人が通りすぎる。それらの姿を見るたび、ジムとキャシーは緊張したが、今では無視することを覚えた。
 なぜなら、通路を歩くボーラン人も、ジムとキャシーに対し、まるっきりの無関心だったからである。
 どうやら特別の命令が発せられない限り、ボーラン人はおのれの使命だけに集中していて、巣穴に原型の人間が歩いていようと、他の何かがいようと、お構いなしの様子だ。
 その内に二人は、シャトルの乗り場らしい場所に行き当たった。
 その場所だけは他の巣穴と違い、滑らかな壁と床でできていて、照明も明るい。壁に空けられた穴から溝ができていて、その先に一人乗りのシャトルが停止していた。
 二人はシャトルを見て顔を見合わせた。
「どうする?」というジムの問いかけに、キャシーは頷く。
「乗り込みましょう。少なくとも、この巣穴からは出られるかもしれないわ!」
 実はこのシャトル、シルバーが《大校母》に面会するために利用したものだったが、二人は無論それを知らない。
 二人は一人乗りのシャトルに無理矢理どうにか身体を押し込んだ。さらにヘロヘロが乗り込むので、厭がおうにも二人の身体は密着する。
 キャシーもジムも、どちらかというと小柄な体格なのだが、それでも一人乗りのシャトルは狭い。ジムは目の前にあるボタンに気付いた。これが発進ボタンなのだろう。腕を伸ばし、ボタンを押す。
 途端にシャトルは動き出す。加速で、二人の身体はますます密着する。
「ここから格納庫へ直行するんだろうか?」
 ジムの問いかけに、キャシーは首を振った。
「判らないわ。《呑竜》の繋留している格納庫に着けるかどうか……それに、どうせ《呑竜》には燃料がゼロだから……」
「そうだ! 燃料がゼロになっていたんだ!」
 ジムは自分の頭をぽかりと叩いた。燃料がなければ、宇宙艇に辿り着いたとしても、どこへも行けない。
 その時ヘロヘロが声を上げた。
「通信装置に、何か入っているみたいだ」
「えっ」と、ジムとキャシーは声を上げる。目の前のコンソールに通信装置があり、その画面が輝き出した。
 ディスプレイに一人の原型の男が姿を表した。半白の髪の毛に、日焼けした逞しい印象を与える中年の男である。
「わたしは、サーク。この宙森で、原型の人間の地下組織の総帥を務めている。君たちの苦境を知り、こうして接触することにした。君たちは、危険に曝されている! どうやら《大校母》に何か起きたようだな? よかったら、教えてくれないか。そちらで何が起きた?」
 ジムは答えた。
「おれは、ジム。こっちはキャシー。で、このロボットは、ヘロヘロってんだ。確かに《大校母》は、大変な状況になっているよ」
 ジムは《大校母》に神経衝撃銃のビームを当てたことを早口で説明した。ジムの説明にサークは、にやりと笑い返した。
「それで分かった! 宙森の総ての〝種族〟たちに混乱が起きている。君たちは《大校母》が原型に何をしているか、知っているかね?」
 キャシーが頷く。
「ええ、脳を摘出するって話しでしょ。今でも信じられないわ」
 サークは頷き返した。
「事実だ! 今まで何人もの原型が《大校母》に捕えられ、脳を摘出されて、個人の意思を奪われ、宇宙船の部品として利用されている。我々は原型の人々が発する特別な波動を感知するシステムを造り上げ、こうして外部からやってくる原型を探し出して救出することにしている。君たちのことも検出されたのだが〝大海〟に連れ去られたので、どうしようもなかった。どうやら君たちはハブへ向かっているようだから、こちらで救出部隊を組織することができる。シャトルが停止した先に我々の差し向けた部隊が待っているから、安心してもらいたい」
 ジムとキャシーは顔を見合わせた。
「どうする? あんなこと言ってるけど」
 ジムの言葉にキャシーは眉を寄せた。画面を見つめ、キャシーは口を開く。
「あたしたちは、宇宙艇の燃料がなくて困っているの。救助は結構だけど、いつまでもあたしたち、この宙森に留まっているつもりはないわ!」
 キャシーの答えにサークは微笑した。
「そちらがそのつもりなら、わたしは嬉しいよ。我々も君と同じ考えだ」
 キャシーはぽかんと口を開ける。サークは真剣な表情になった。
「我々、宙森の原型は、この場所を脱出することが希望なんだ! それには、君たちの協力が必要だ!」
 サークの言葉に二人は目を丸くした。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

関西訛りな人工生命体の少女がお母さんを探して旅するお話。

虎柄トラ
SF
あるところに誰もがうらやむ才能を持った科学者がいた。 科学者は天賦の才を得た代償なのか、天涯孤独の身で愛する家族も頼れる友人もいなかった。 愛情に飢えた科学者は存在しないのであれば、創造すればいいじゃないかという発想に至る。 そして試行錯誤の末、科学者はありとあらゆる癖を詰め込んだ最高傑作を完成させた。 科学者は人工生命体にリアムと名付け、それはもうドン引きするぐらい溺愛した。 そして月日は経ち、可憐な少女に成長したリアムは二度目の誕生日を迎えようとしていた。 誕生日プレゼントを手に入れるため科学者は、リアムに留守番をお願いすると家を出て行った。 それからいくつも季節が通り過ぎたが、科学者が家に帰ってくることはなかった。 科学者が帰宅しないのは迷子になっているからだと、推察をしたリアムはある行動を起こした。 「お母さん待っててな、リアムがいま迎えに行くから!」 一度も外に出たことがない関西訛りな箱入り娘による壮大な母親探しの旅がいまはじまる。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

❤️レムールアーナ人の遺産❤️

apusuking
SF
 アランは、神代記の伝説〈宇宙が誕生してから40億年後に始めての知性体が誕生し、更に20億年の時を経てから知性体は宇宙に進出を始める。  神々の申し子で有るレムルアーナ人は、数億年を掛けて宇宙の至る所にレムルアーナ人の文明を築き上げて宇宙は人々で溢れ平和で共存共栄で発展を続ける。  時を経てレムルアーナ文明は予知せぬ謎の種族の襲来を受け、宇宙を二分する戦いとなる。戦争終焉頃にはレムルアーナ人は誕生星系を除いて衰退し滅亡するが、レムルアーナ人は後世の為に科学的資産と数々の奇跡的な遺産を残した。  レムールアーナ人に代わり3大種族が台頭して、やがてレムルアーナ人は伝説となり宇宙に蔓延する。  宇宙の彼方の隠蔽された星系に、レムルアーナ文明の輝かしい遺産が眠る。其の遺産を手にした者は宇宙を征するで有ろ。但し、辿り付くには3つの鍵と7つの試練を乗り越えねばならない。  3つの鍵は心の中に眠り、開けるには心の目を開いて真実を見よ。心の鍵は3つ有り、3つの鍵を開けて真実の鍵が開く〉を知り、其の神代記時代のレムールアーナ人が残した遺産を残した場所が暗示されていると悟るが、闇の勢力の陰謀に巻き込まれゴーストリアンが破壊さ

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

魔術師のロボット~最凶と呼ばれたパイロットによる世界変革記~

MS
SF
これは戦争に巻き込まれた少年が世界を変えるために戦う物語。 戦歴2234年、人型ロボット兵器キャスター、それは魔術師と呼ばれる一部の人しか扱えない兵器であった。 そのパイロットになるためアルバート・デグレアは軍の幼年学校に通っていて卒業まであと少しの時だった。 親友が起こしたキャスター強奪事件。 そして大きく変化する時代に巻き込まれていく。 それぞれの正義がぶつかり合うなかで徐々にその才能を開花させていき次々と大きな戦果を挙げていくが……。 新たな歴史が始まる。 ************************************************ 小説家になろう様、カクヨム様でも連載しております。 投降は当分の間毎日22時ごろを予定しています。

SteamMakina 最強兵器とメンヘラ令嬢の蒸気飛行船紀行

理想論者
SF
大地は枯れ、海は黒く。灰が降る、この世界。匂いは血と鉄の無慈悲な匂いだけ。 13号は目覚める。ある女性の記憶だけを持ち合わせて。曇り空か灰の雨雲しかないこの世界には、希望があるのか。彼がなぜこの時代に目覚めたのか。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

入れ替われるイメクラ

廣瀬純一
SF
男女の体が入れ替わるイメクラの話

処理中です...