57 / 107
宇宙に浮かぶ森
3
しおりを挟む
ジムは《呑竜》のエア・ロックから格納甲板に飛び出し、喚いた。
「なんでだよ! 何で、燃料を抜き取るんだ?」
四本腕のゴロス人甲板員たちは、なぜか《呑竜》への燃料供給の作業を中止し、それどころか、せっかく補給した燃料を逆に抜き取る作業を始めたのである。
主任らしきゴロス人が、四本腕の肩を同時に竦めて見せた。
「なぜって……代金を払ってもらえないことが判ったからだよ。金を払えなきゃ、燃料は渡せないな」
「えっ?」とジムは絶句した。
背後からキャシーとヘロヘロがエア・ロックから姿を見せた。
ジムはキャシーに駆け寄った。
「料金未納だって言いやがる! どういうことだい?」
キャシーは首を振った。キャシーにも判らないらしい。
不審顔になって、ゴロス人たちに近寄り声を掛けた。
「どういうこと? どうして料金が払えないの?」
「さあなあ……」と主任は首を振る。
と、そこへ近寄ってくるボーラン人を見つけ、声を掛けた。
「甲板長! この娘の船の燃料代金のこってすが……」
ボーラン人の甲板長は頷き、早足で近づいた。両足の膝は人間と逆についていて、足先を蹴り出すような独特の動きを見せる。キチン質の爪先が床に当たってカチャカチャと音を立てた。
「君がこの船の責任者かね?」
キャシーに顔を向け、話し出す。
「そうです」
「ふむ、君の船の〝キューブ〟の情報は、当方にとって禁じられた情報が含まれているのが判ったので、受領拒否された。よって情報料金は支払えず、燃料代金未納という扱いになる。悪く思わんでくれ」
「受領拒否ですってえ!」
キャシーは顔を真っ赤にさせ、叫んだ。
あまりの大声に、ボーラン人の甲板長はびくりと身を震わせた。神経質そうにぴくぴくと、額の触覚をひくつかせる。
「大声を出さんでくれないか」
「説明して! なぜ、あたしの〝キューブ〟の情報が受け取れないの?」
キャシーは必死に怒りを抑えているようだが、両手はありもしない光線銃を探しているように腰の辺りをまさぐっている。
「〝いにしへ言葉〟が含まれていたのだよ。つまり、古語だな。君の〝キューブ〟には、そういった現在では使われることを禁じられている〝いにしへ言葉〟があった。よって情報は受領拒否された、という訳だ」
総ての恒星間宇宙船には〝キューブ〟と呼ばれている透明な立方体が装備されている。
この立方体は記憶装置で、ほぼ無限といっていい情報を保存できる。宇宙船が立ち寄る宇宙港には〝キューブ〟の情報を受け取る受信装置が装備されていて、宇宙船が到着すると〝キューブ〟の中に含まれている情報を受信し、その内容に対し情報料金が支払われる仕組みだ。
出発のとき、宇宙船には宇宙港から最新の情報が書き込まれ、次に立ち寄る宇宙港まで運ばれる。こういうシステムによって、銀河系のありとあらゆる星系に様々な情報が伝えられていくのだ。
なぜ、このような仕組みが作られたかというと、光の速度を超える超空間ジャンプも、通信は光の速度を超えることができないからである。情報は恒星間宇宙船をもって運ぶのが、最も早いのだ。宇宙船が銀河系を飛び回る限り、あらゆる情報はゆっくりとだが、確実に全銀河系に浸透していく。
情報の受領拒否など、本来は絶対ありえないことだ。あらゆる情報は公平に受信されなければならない! これが宇宙船を迎える総ての宇宙港施設の不問律でもある。
「詳しく説明なさい! 〝いにしへ言葉〟とは何なの」
キャシーは憤然となってボーラン人に詰め寄る。
ボーラン人は躊躇っているように、全身を細かく震わせている。キャシーのように、猛然と噛み付く相手には、うまく対処できない性格なのだ。
「判った、説明しよう。しかし、ここでは拙い。《大校母》様に会わせる!」
ジムとキャシーは顔を見合わせた。またしても、判らない言葉が出てきた。
「《大校母》? 何、それ」
ボーラン人は何かを仰ぎ見るように天を仰ぎ、両手を持ち上げた。
「われらの母上! この宙森の総てを統括なさる、偉大なる母だ!」
ジムはその場にいたゴロス人を見た。ゴロス人はボーラン人が口にした《大校母》という言葉に、敏感に反応している。
さっとゴロス人の顔色が変わり、恐怖に似た感情があらわになる。
いったい、どんな相手なんだ?
「なんでだよ! 何で、燃料を抜き取るんだ?」
四本腕のゴロス人甲板員たちは、なぜか《呑竜》への燃料供給の作業を中止し、それどころか、せっかく補給した燃料を逆に抜き取る作業を始めたのである。
主任らしきゴロス人が、四本腕の肩を同時に竦めて見せた。
「なぜって……代金を払ってもらえないことが判ったからだよ。金を払えなきゃ、燃料は渡せないな」
「えっ?」とジムは絶句した。
背後からキャシーとヘロヘロがエア・ロックから姿を見せた。
ジムはキャシーに駆け寄った。
「料金未納だって言いやがる! どういうことだい?」
キャシーは首を振った。キャシーにも判らないらしい。
不審顔になって、ゴロス人たちに近寄り声を掛けた。
「どういうこと? どうして料金が払えないの?」
「さあなあ……」と主任は首を振る。
と、そこへ近寄ってくるボーラン人を見つけ、声を掛けた。
「甲板長! この娘の船の燃料代金のこってすが……」
ボーラン人の甲板長は頷き、早足で近づいた。両足の膝は人間と逆についていて、足先を蹴り出すような独特の動きを見せる。キチン質の爪先が床に当たってカチャカチャと音を立てた。
「君がこの船の責任者かね?」
キャシーに顔を向け、話し出す。
「そうです」
「ふむ、君の船の〝キューブ〟の情報は、当方にとって禁じられた情報が含まれているのが判ったので、受領拒否された。よって情報料金は支払えず、燃料代金未納という扱いになる。悪く思わんでくれ」
「受領拒否ですってえ!」
キャシーは顔を真っ赤にさせ、叫んだ。
あまりの大声に、ボーラン人の甲板長はびくりと身を震わせた。神経質そうにぴくぴくと、額の触覚をひくつかせる。
「大声を出さんでくれないか」
「説明して! なぜ、あたしの〝キューブ〟の情報が受け取れないの?」
キャシーは必死に怒りを抑えているようだが、両手はありもしない光線銃を探しているように腰の辺りをまさぐっている。
「〝いにしへ言葉〟が含まれていたのだよ。つまり、古語だな。君の〝キューブ〟には、そういった現在では使われることを禁じられている〝いにしへ言葉〟があった。よって情報は受領拒否された、という訳だ」
総ての恒星間宇宙船には〝キューブ〟と呼ばれている透明な立方体が装備されている。
この立方体は記憶装置で、ほぼ無限といっていい情報を保存できる。宇宙船が立ち寄る宇宙港には〝キューブ〟の情報を受け取る受信装置が装備されていて、宇宙船が到着すると〝キューブ〟の中に含まれている情報を受信し、その内容に対し情報料金が支払われる仕組みだ。
出発のとき、宇宙船には宇宙港から最新の情報が書き込まれ、次に立ち寄る宇宙港まで運ばれる。こういうシステムによって、銀河系のありとあらゆる星系に様々な情報が伝えられていくのだ。
なぜ、このような仕組みが作られたかというと、光の速度を超える超空間ジャンプも、通信は光の速度を超えることができないからである。情報は恒星間宇宙船をもって運ぶのが、最も早いのだ。宇宙船が銀河系を飛び回る限り、あらゆる情報はゆっくりとだが、確実に全銀河系に浸透していく。
情報の受領拒否など、本来は絶対ありえないことだ。あらゆる情報は公平に受信されなければならない! これが宇宙船を迎える総ての宇宙港施設の不問律でもある。
「詳しく説明なさい! 〝いにしへ言葉〟とは何なの」
キャシーは憤然となってボーラン人に詰め寄る。
ボーラン人は躊躇っているように、全身を細かく震わせている。キャシーのように、猛然と噛み付く相手には、うまく対処できない性格なのだ。
「判った、説明しよう。しかし、ここでは拙い。《大校母》様に会わせる!」
ジムとキャシーは顔を見合わせた。またしても、判らない言葉が出てきた。
「《大校母》? 何、それ」
ボーラン人は何かを仰ぎ見るように天を仰ぎ、両手を持ち上げた。
「われらの母上! この宙森の総てを統括なさる、偉大なる母だ!」
ジムはその場にいたゴロス人を見た。ゴロス人はボーラン人が口にした《大校母》という言葉に、敏感に反応している。
さっとゴロス人の顔色が変わり、恐怖に似た感情があらわになる。
いったい、どんな相手なんだ?
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
異世界TS転生で新たな人生「俺が聖女になるなんて聞いてないよ!」
マロエ
ファンタジー
普通のサラリーマンだった三十歳の男性が、いつも通り残業をこなし帰宅途中に、異世界に転生してしまう。
目を覚ますと、何故か森の中に立っていて、身体も何か違うことに気づく。
近くの水面で姿を確認すると、男性の姿が20代前半~10代後半の美しい女性へと変わっていた。
さらに、異世界の住人たちから「聖女」と呼ばれる存在になってしまい、大混乱。
新たな人生に期待と不安が入り混じりながら、男性は女性として、しかも聖女として異世界を歩み始める。
※表紙、挿絵はAIで作成したイラストを使用しています。
※R15の章には☆マークを入れてます。
復讐に燃えたところで身体は燃え尽きて鋼になり果てた。~とある傭兵に復讐しようと傭兵になってみたら実は全部仕組まれていた件
坂樋戸伊(さかつうといさ)
SF
平凡なシティの一市民として人生を送っていたはずだった杉屋 亮平の人生は、その日を境に一変した。
とある傭兵が平和を享受していただけのシティにおいてテロ行為を起こし、亮平は家族、友人、そして日常の全てを蹂躙された。
復讐を果たすための手段を模索していた亮平に、アリス=R=ルミナリスが接近。亮平のコーチング、マネジメントをすると
持ちかけられ、亮平はこれを了承。彼は自分から平穏を奪った傭兵を倒すべく、自分もFAV-汎用戦闘歩行車両-を使い、
そして復讐を果たすことを誓う。
しかし、それはある思惑によって引き起こされたことを彼は全く知らず、悪鬼羅刹に変わっていくのであった。
他方、市街地襲撃の依頼を受けた傭兵、荒川 尊史は、自分が傭兵であることに意味を見失っていた。
周りの物を何も見ず、頼らず、ただただ無為に時間を過ごし、怠惰に時間を過ごす日々。
見かねた女房役兼専属オペレーター、藤木 恵令奈が経済的な危機を訴えてきた。
そして、尊史と恵令奈は手ごろな依頼を受ける。
その依頼に眠る思惑がどういったものかも知らず。
交錯する幾つもの魂。
絡まり、もつれ合う彼らの運命の先に待つものは、悲願の達成なのか。
それとも、空虚な絶望か。
※他小説投稿サイト(カクヨム様、小説家になろう様)にも投稿中
人生負け組のスローライフ
雪那 由多
青春
バアちゃんが体調を悪くした!
俺は長男だからバアちゃんの面倒みなくては!!
ある日オヤジの叫びと共に突如引越しが決まって隣の家まで車で十分以上、ライフラインはあれどメインは湧水、ぼっとん便所に鍵のない家。
じゃあバアちゃんを頼むなと言って一人単身赴任で東京に帰るオヤジと新しいパート見つけたから実家から通うけど高校受験をすててまで来た俺に高校生なら一人でも大丈夫よね?と言って育児拒否をするオフクロ。
ほぼ病院生活となったバアちゃんが他界してから築百年以上の古民家で一人引きこもる俺の日常。
――――――――――――――――――――――
第12回ドリーム小説大賞 読者賞を頂きました!
皆様の応援ありがとうございます!
――――――――――――――――――――――
婚約していないのに婚約破棄された私のその後
狭山ひびき@バカふり160万部突破
恋愛
「アドリエンヌ・カントルーブ伯爵令嬢! 突然ですまないが、婚約を解消していただきたい! 何故なら俺は……男が好きなんだぁああああああ‼」
ルヴェシウス侯爵家のパーティーで、アドリーヌ・カンブリーヴ伯爵令嬢は、突然別人の名前で婚約破棄を宣言され、とんでもないカミングアウトをされた。
勘違いで婚約破棄を宣言してきたのは、ルヴェシウス侯爵家の嫡男フェヴァン。
そのあと、フェヴァンとルヴェシウス侯爵夫妻から丁重に詫びを受けてその日は家に帰ったものの、どうやら、パーティーでの婚約破棄騒動は瞬く間に社交界の噂になってしまったらしい。
一夜明けて、アドリーヌには「男に負けた伯爵令嬢」というとんでもない異名がくっついていた。
頭を抱えるものの、平平凡凡な伯爵家の次女に良縁が来るはずもなく……。
このままだったら嫁かず後家か修道女か、はたまた年の離れた男寡の後妻に収まるのが関の山だろうと諦めていたので、噂が鎮まるまで領地でのんびりと暮らそうかと荷物をまとめていたら、数日後、婚約破棄宣言をしてくれた元凶フェヴァンがやった来た。
そして「結婚してください」とプロポーズ。どうやら彼は、アドリーヌにおかしな噂が経ってしまったことへの責任を感じており、本当の婚約者との婚約破棄がまとまった直後にアドリーヌの元にやって来たらしい。
「わたし、責任と結婚はしません」
アドリーヌはきっぱりと断るも、フェヴァンは諦めてくれなくて……。
特殊装甲隊 ダグフェロン『廃帝と永遠の世紀末』② 海と革命家、時々娘
橋本 直
SF
進歩から取り残された『アナログ』異星人のお馬鹿ライフは続く
遼州人に『法術』と言う能力があることが明らかになった。
だが、そのような大事とは無関係に『特殊な部隊』の面々は、クラゲの出る夏の海に遊びに出かける。
そこに待っているのは……
新登場キャラ
嵯峨茜(さがあかね)26歳 『駄目人間』の父の生活を管理し、とりあえず社会復帰されている苦労人の金髪美女 愛銃:S&W PC M627リボルバー
コアネタギャグ連発のサイキック『回収・補給』ロボットギャグアクションストーリー。
日本VS異世界国家! ー政府が、自衛隊が、奮闘する。
スライム小説家
SF
令和5年3月6日、日本国は唐突に異世界へ転移してしまった。
地球の常識がなにもかも通用しない魔法と戦争だらけの異世界で日本国は生き延びていけるのか!?
異世界国家サバイバル、ここに爆誕!
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる