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スイート・ホーム
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艦橋に分析班が集まり、モニターに格納庫に停泊している《呑竜》を映し出している。背後にシルバーが傲然と控え、鋭い目で分先班の作業を見守っていた。
「ニュートリノ・スキャン開始!」
分析班の主任は、ほっそりとした指先をしたタリア人である。もともと外科医に向いた身体つきをしているが、こういった科学的な分析にも優れた能力を発揮する。
タリア人の指先が素早くキー・ボードを走り、分析装置が作動した。
一瞬にして、作業は終了した。
「終わったのか?」
シルバーは不審そうな声を上げた。あまりにあっけなさすぎた。タリア人は自信満々に頷いた。
「これで《呑竜》の内部構造は総て、こちらのメモリーに納められております。ご覧になりますか?」
シルバーが頷くと、タリア人の指がまた素早く動く。
モニターにコンピュータ・グラフィックスで再現された《呑竜》が映し出される。宙に浮いたように見えるほかは、本物の《呑竜》と瓜二つだ。
「まず外板を外します」
タリア人が宣言すると、《呑竜》の外板が消え去った。骨組みと、内部のメカニズムが剥き出しになる。
スキャンされた結果、分析班は自由自在に画面の《呑竜》を分解、解析できるようになったのである。モニターの《呑竜》は螺子一本にいたるまで本物と同じである。従って、実際に分解する必要はないのだ。
「エア・ロックを」
シルバーの命令に従って《呑竜》のエア・ロック機構が大写しになる。シルバーは眉を顰めた。
「あの娘の言うとおり、防護機能は認められるか?」
タリア人は自信なさげに首を振った。
「判りません。もし防護機構があるとしても、それがどのようなものか、あらかじめ予想できませんから。この画面にあるものの、どれが防護装置かの判断は……」
もう一人のタリア人が、ほっそりとした指先を画面に向けた。
「あれは爆発物ではないのかな? エア・ロックの外枠を取り巻くようにあるやつだ」
「指向性爆薬か! あれが爆発すれば、エア・ロックに押し入った者はいちころだな!」
タリア人は興奮したように、ぺちゃくちゃと話し合っている。
シルバーは手を振って、タリア人のお喋りを中止させた。
「防護装置など、どうでもいい! それよりは《呑竜》に隠されているはずの星図だ! 必ず《呑竜》の船内に隠されている。それを見つけ出せ!」
タリア人が不審そうに尋ねる。
「しかし、そのようなデータなら、船内のメイン・バンクに納められているのでは?」
シルバーは首を振った。
「違うな。メイン・バンクは容易にアクセスできる構造になっている。キャシーが、そんな危険を冒すわけがない。多分、メモリー・クリスタルの形で密かに隠されているはずだ」
分析班がシルバーの言葉で各自のモニターに注意を向けたとき、ひそひそと足音を忍ばせ、四本腕のゴロス人が近づいてきた。
例の給仕の役を演じていたゴロス人である。
ゴロス人はシルバーの側に近づくと、伸び上がるようにして何か耳打ちした。
シルバーは「何っ!」と短く叫び、仰け反るような姿勢になる。ぐっとゴロス人に顔を近づけ、囁いた。
「本当か?」
ゴロス人は大きく頷いた。表情に憂慮が表れている。
「小僧と、あのガラクタ・ロボットが、どのようにしてか抜け出した模様です。まずいことに、例の場所を見つけ出したようで……」
シルバーは拳を固め、親指を噛んだ。
「まずいぞ! それは超まずい! 一世紀も掛かって準備していた計画が台無しだ!」
「いかがいたしますか?」
「すぐ行くっ! あいつらのせいで、おれの計画を投げ出す訳にはいかんっ!」
どすどすと足音も荒々しく艦橋から出て行こうとするが、不意に振り向き、モニターに囓りついている分析班に向かって指を振り立て、命令した。
「いいか! おれが戻るまでに、必ず成果を上げておくんだ! 判ったな?」
シルバーの勢いに分析を続けていたスタッフは、呆然とした表情になる。
シルバーは後をも見ずに早足で艦橋の出口へと走っていく。その後に、遅れじとゴロス人が続いた。
「ニュートリノ・スキャン開始!」
分析班の主任は、ほっそりとした指先をしたタリア人である。もともと外科医に向いた身体つきをしているが、こういった科学的な分析にも優れた能力を発揮する。
タリア人の指先が素早くキー・ボードを走り、分析装置が作動した。
一瞬にして、作業は終了した。
「終わったのか?」
シルバーは不審そうな声を上げた。あまりにあっけなさすぎた。タリア人は自信満々に頷いた。
「これで《呑竜》の内部構造は総て、こちらのメモリーに納められております。ご覧になりますか?」
シルバーが頷くと、タリア人の指がまた素早く動く。
モニターにコンピュータ・グラフィックスで再現された《呑竜》が映し出される。宙に浮いたように見えるほかは、本物の《呑竜》と瓜二つだ。
「まず外板を外します」
タリア人が宣言すると、《呑竜》の外板が消え去った。骨組みと、内部のメカニズムが剥き出しになる。
スキャンされた結果、分析班は自由自在に画面の《呑竜》を分解、解析できるようになったのである。モニターの《呑竜》は螺子一本にいたるまで本物と同じである。従って、実際に分解する必要はないのだ。
「エア・ロックを」
シルバーの命令に従って《呑竜》のエア・ロック機構が大写しになる。シルバーは眉を顰めた。
「あの娘の言うとおり、防護機能は認められるか?」
タリア人は自信なさげに首を振った。
「判りません。もし防護機構があるとしても、それがどのようなものか、あらかじめ予想できませんから。この画面にあるものの、どれが防護装置かの判断は……」
もう一人のタリア人が、ほっそりとした指先を画面に向けた。
「あれは爆発物ではないのかな? エア・ロックの外枠を取り巻くようにあるやつだ」
「指向性爆薬か! あれが爆発すれば、エア・ロックに押し入った者はいちころだな!」
タリア人は興奮したように、ぺちゃくちゃと話し合っている。
シルバーは手を振って、タリア人のお喋りを中止させた。
「防護装置など、どうでもいい! それよりは《呑竜》に隠されているはずの星図だ! 必ず《呑竜》の船内に隠されている。それを見つけ出せ!」
タリア人が不審そうに尋ねる。
「しかし、そのようなデータなら、船内のメイン・バンクに納められているのでは?」
シルバーは首を振った。
「違うな。メイン・バンクは容易にアクセスできる構造になっている。キャシーが、そんな危険を冒すわけがない。多分、メモリー・クリスタルの形で密かに隠されているはずだ」
分析班がシルバーの言葉で各自のモニターに注意を向けたとき、ひそひそと足音を忍ばせ、四本腕のゴロス人が近づいてきた。
例の給仕の役を演じていたゴロス人である。
ゴロス人はシルバーの側に近づくと、伸び上がるようにして何か耳打ちした。
シルバーは「何っ!」と短く叫び、仰け反るような姿勢になる。ぐっとゴロス人に顔を近づけ、囁いた。
「本当か?」
ゴロス人は大きく頷いた。表情に憂慮が表れている。
「小僧と、あのガラクタ・ロボットが、どのようにしてか抜け出した模様です。まずいことに、例の場所を見つけ出したようで……」
シルバーは拳を固め、親指を噛んだ。
「まずいぞ! それは超まずい! 一世紀も掛かって準備していた計画が台無しだ!」
「いかがいたしますか?」
「すぐ行くっ! あいつらのせいで、おれの計画を投げ出す訳にはいかんっ!」
どすどすと足音も荒々しく艦橋から出て行こうとするが、不意に振り向き、モニターに囓りついている分析班に向かって指を振り立て、命令した。
「いいか! おれが戻るまでに、必ず成果を上げておくんだ! 判ったな?」
シルバーの勢いに分析を続けていたスタッフは、呆然とした表情になる。
シルバーは後をも見ずに早足で艦橋の出口へと走っていく。その後に、遅れじとゴロス人が続いた。
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