宇宙狂時代~SF宝島~

万卜人

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 シルバーが向かったのは《鉄槌》の艦橋だった。
 艦橋は、それ自体、余裕で小型戦艦を納めることができるくらい広い。何層にも重なった操作卓には、様々な〝種族〟あるいは〝種族〟同士の雑種が各々の仕事を続けている。宇宙海賊らしからぬ整然とした仕事振りだ。
 艦橋の中心の空間には、巨大な球体が浮かんでいる。立体三次元レーダーである。
 艦長席に座ったシルバーに、飛び出るような巨大な両目をした〝種族〟が振り向き、報告した。
「艦長! 首都惑星から警察の宇宙艇が数隻、こっちへ向かってきます! 全速力です!」
 シルバーは、にやりと笑って頷いた。
「よしよし、今頃やって来たって遅い! 超空間ジェネレーター用意! 無反動スラスター始動! 亜光速に移る」
 シルバーの命令に原型の乗組員が超空間ジェネレーターの前に座った。
 超空間ジェネレーターを始動できるのは遺伝子が小数点以下十一桁以上一致する原型の人間だけである。
 理由は全然わからない。
 ともかく、恒星間を飛び越える超空間ジャンプに必要な超空間ジェネレーターを始動できるのは原型の人間と決まっている。このため〝種族〟によって蔑まれ、軽蔑されている原型であるが、超空間ジェネレーターの始動係として、あらゆる宇宙船に搭乗している。その結果、原型の人間は銀河系のありとあらゆる星系に見られることになった。
 超空間ジェネレーターが原型の人間にしか操作できない理由については、謎だった。
 ジェネレーターのプログラムに原型の人間であることを識別する何かが仕込まれているのではないか、という疑いに、コンピューター・プログラムを得意とする〝種族〟によって徹底的に逆コンパイルされたが、そういったプログラム・コードは遂に発見できずに至っている。ジェネレーターの機構そのものにも、操作する人間の遺伝子を走査するメカニズムは存在せず、結局は宇宙の構造そのものが原型の人間による操作でしか超空間ジェネレーターを始動させられない何かがある、としか結論するしかなかった。
 無反動スラスターが戦艦《鉄槌》を亜光速に加速させる。
 光行差現象により船窓前方の宇宙空間に星が集まり、青方偏移で進行方向のスペクトルがX線領域までズレこんでいく。逆に後方の星は滲んで、赤方偏移を起こし、暗く固まった熾火のような光になった。
「光速度の九十九パーセントに達しました!」
 部下の報告にシルバーは叫び返した。
「超空間ジェネレーター始動!」
 原型の乗組員が超空間ジェネレーターのスイッチを入れた!
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