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シャル・ウイ・ダンス?
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「ま、まだ手が届かないのかい、ジム!」
「も、もう一寸だ! あと三センチ……頑張れ!」
ジムは歯を食い縛り、必死に手を伸ばしていた。その足下にヘロヘロがいる。
ヘロヘロの両足は、長ーく伸びていた。関節が広がり、元の何倍もの長さに伸びていたのである。
つまり、ヘロヘロがジムのために脚立になっているのだ。ジムはヘロヘロの顔を踏んづけ、天井近くの換気口に手を伸ばしている。
指先が換気口を覆う金具の留め金に触れた。
素早く工具をあてがい、留め金を外す。覆いの金具は内側に倒れこんだ。換気口に指を掛け、どうにか身体を引っ張り上げ、潜り込んだ。
ヘロヘロは伸ばした片手を掛け、それまで伸びていた関節を元に戻して、ジムの後に続いた。
「覆いを元に戻してくれ!」
ジムの命令でヘロヘロはくるりと身体を回転させ、覆いを内側から元の位置に戻した。これで、露見しても少しは時間が稼げるかもしれない。
ごそごそとジムは四つん這いになって、先を急ぐ。ヘロヘロは逆に足を半分の短さに縮め、ちょこちょこと普通に歩いていく。
先に進みながら、ジムはヘロヘロに尋ねた。
「いったい、あのキャシーとシルバーって、どんな関係なんだ? 古い知り合いみたいだけど……それに、いやにキャシーに対して謙って、まるでお姫様扱いしてたな」
「……」
ヘロヘロが無言なのでジムは声を厳しいものにさせた。
「おい! こうなったら喋ったっていいだろう? おれも巻き込まれているんだぞ」
ヘロヘロは、ようやく口を開いた。
「そうだね……しかたないね。実は古い知り合いってのは当たってる。キャシーのお祖父ちゃん……」
「それそれ! キャシーがそんなこと言っていたな」とジムは合いの手を入れた。
「そのキャシーのお祖父ちゃんは昔、すごく有名な科学者だったんだ。フリント教授という……」
話の腰を折られてもヘロヘロは平然と先を続ける。ジムは首を捻った。
「フリント教授? どっかで聞いた覚えあるな……。あっ! 有名な探険家じゃないか。銀河系で、人類が住める環境の星を次々に発見した……」
「そのフリント教授の下で働いていたロボットが、シルバーなんだ。シルバーはキャシーに対し、服従回路をプログラムされてたから、今だってそういう態度をとるんだ。もっとも服従回路はシルバー自身で消去したんだろうけど、昔の習慣は変えられないんだ」
「ロボット! あのシルバーが……! てっきり、おれは〝種族〟だと思ってた」
ジムは大きな驚きに溜息をついた。
「うん。最初は、あんな姿じゃなかった。普通の、いかにもロボットらしいロボットだった。ああいう変更を施したのは、フリント教授なんだ。フリント教授はいろんな研究をしていたけど、超〝種族〟を作り出す研究もしてたんだ」
「超〝種族〟? なんだ、そりゃ?」
「〝種族〟というのは、もともと人間に住めない環境の星に適応するため、遺伝子エッチング・マシンで遺伝子を改造した人間の子孫のことだよね。いろんな環境に適応した〝種族〟が生まれたけど、フリント教授はどんな環境にも適応できる超〝種族〟が必要だと考えて、実験的にそういった身体を設計したんだ。シルバーはその身体に記憶を移植され、生まれ変わった。脳はイリジウムのスポンジ、皮膚はプラチナの重合体、人間と同じ食物を摂取でき、感覚も有る。もっとも、あの金属製の体を維持するため、大量の重金属を食べる必要があるけど」
「百年も前の話だろう。もし、そんな超〝種族〟がいたら、今ごろ、うようよシルバーみたいな銀鍍金重金属豚野郎が、銀河のあちこちに進出しているんじゃないのか?」
ジムはヘロヘロの超〝種族〟という言い方に本能的に反発を感じていた。今だって〝種族〟は原型を馬鹿にし、差別して蔑んでいるのに、それよりさらに進んだ超〝種族〟なんてのが生まれたら、この銀河系は原型にとって、もっと住み難くなる。
ヘロヘロは頭を振った。
「そこら辺の事情は、判らない。教授は途中で研究を中止したみたいだ。何があったか知らないけど、シルバーは教授のもとを飛び出し、宇宙海賊になった」
「それで、キャシーをシルバーが追っかけている訳は?」
ヘロヘロは首をかしげた。
「さあ……シルバーの欲しがっているものが《呑竜》に隠されているって話だけど、僕は教えてもらっていないんだ」
ジムは進むのを停めた。
換気口からの明かりは、とっくに届かず、真っ暗だったが、ヘロヘロのホイップ・アンテナの先に灯る明かりでほの明るい。
先が二股に分かれている。どっちへ向かうか。
いや、それより、どこへ向かえば良いのか?
「ジム、これからどうする?」
ヘロヘロの言葉にジムは座り込み、腕を組んだ。
「も、もう一寸だ! あと三センチ……頑張れ!」
ジムは歯を食い縛り、必死に手を伸ばしていた。その足下にヘロヘロがいる。
ヘロヘロの両足は、長ーく伸びていた。関節が広がり、元の何倍もの長さに伸びていたのである。
つまり、ヘロヘロがジムのために脚立になっているのだ。ジムはヘロヘロの顔を踏んづけ、天井近くの換気口に手を伸ばしている。
指先が換気口を覆う金具の留め金に触れた。
素早く工具をあてがい、留め金を外す。覆いの金具は内側に倒れこんだ。換気口に指を掛け、どうにか身体を引っ張り上げ、潜り込んだ。
ヘロヘロは伸ばした片手を掛け、それまで伸びていた関節を元に戻して、ジムの後に続いた。
「覆いを元に戻してくれ!」
ジムの命令でヘロヘロはくるりと身体を回転させ、覆いを内側から元の位置に戻した。これで、露見しても少しは時間が稼げるかもしれない。
ごそごそとジムは四つん這いになって、先を急ぐ。ヘロヘロは逆に足を半分の短さに縮め、ちょこちょこと普通に歩いていく。
先に進みながら、ジムはヘロヘロに尋ねた。
「いったい、あのキャシーとシルバーって、どんな関係なんだ? 古い知り合いみたいだけど……それに、いやにキャシーに対して謙って、まるでお姫様扱いしてたな」
「……」
ヘロヘロが無言なのでジムは声を厳しいものにさせた。
「おい! こうなったら喋ったっていいだろう? おれも巻き込まれているんだぞ」
ヘロヘロは、ようやく口を開いた。
「そうだね……しかたないね。実は古い知り合いってのは当たってる。キャシーのお祖父ちゃん……」
「それそれ! キャシーがそんなこと言っていたな」とジムは合いの手を入れた。
「そのキャシーのお祖父ちゃんは昔、すごく有名な科学者だったんだ。フリント教授という……」
話の腰を折られてもヘロヘロは平然と先を続ける。ジムは首を捻った。
「フリント教授? どっかで聞いた覚えあるな……。あっ! 有名な探険家じゃないか。銀河系で、人類が住める環境の星を次々に発見した……」
「そのフリント教授の下で働いていたロボットが、シルバーなんだ。シルバーはキャシーに対し、服従回路をプログラムされてたから、今だってそういう態度をとるんだ。もっとも服従回路はシルバー自身で消去したんだろうけど、昔の習慣は変えられないんだ」
「ロボット! あのシルバーが……! てっきり、おれは〝種族〟だと思ってた」
ジムは大きな驚きに溜息をついた。
「うん。最初は、あんな姿じゃなかった。普通の、いかにもロボットらしいロボットだった。ああいう変更を施したのは、フリント教授なんだ。フリント教授はいろんな研究をしていたけど、超〝種族〟を作り出す研究もしてたんだ」
「超〝種族〟? なんだ、そりゃ?」
「〝種族〟というのは、もともと人間に住めない環境の星に適応するため、遺伝子エッチング・マシンで遺伝子を改造した人間の子孫のことだよね。いろんな環境に適応した〝種族〟が生まれたけど、フリント教授はどんな環境にも適応できる超〝種族〟が必要だと考えて、実験的にそういった身体を設計したんだ。シルバーはその身体に記憶を移植され、生まれ変わった。脳はイリジウムのスポンジ、皮膚はプラチナの重合体、人間と同じ食物を摂取でき、感覚も有る。もっとも、あの金属製の体を維持するため、大量の重金属を食べる必要があるけど」
「百年も前の話だろう。もし、そんな超〝種族〟がいたら、今ごろ、うようよシルバーみたいな銀鍍金重金属豚野郎が、銀河のあちこちに進出しているんじゃないのか?」
ジムはヘロヘロの超〝種族〟という言い方に本能的に反発を感じていた。今だって〝種族〟は原型を馬鹿にし、差別して蔑んでいるのに、それよりさらに進んだ超〝種族〟なんてのが生まれたら、この銀河系は原型にとって、もっと住み難くなる。
ヘロヘロは頭を振った。
「そこら辺の事情は、判らない。教授は途中で研究を中止したみたいだ。何があったか知らないけど、シルバーは教授のもとを飛び出し、宇宙海賊になった」
「それで、キャシーをシルバーが追っかけている訳は?」
ヘロヘロは首をかしげた。
「さあ……シルバーの欲しがっているものが《呑竜》に隠されているって話だけど、僕は教えてもらっていないんだ」
ジムは進むのを停めた。
換気口からの明かりは、とっくに届かず、真っ暗だったが、ヘロヘロのホイップ・アンテナの先に灯る明かりでほの明るい。
先が二股に分かれている。どっちへ向かうか。
いや、それより、どこへ向かえば良いのか?
「ジム、これからどうする?」
ヘロヘロの言葉にジムは座り込み、腕を組んだ。
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