宇宙狂時代~SF宝島~

万卜人

文字の大きさ
上 下
3 / 107
プロローグ

3

しおりを挟む
 男を認め、キャシーは憎々しく呻いた。
「シルバー! あんたって、どこまでも超しつっこいんだから!」
 スクリーンの、シルバーと呼びかけられた男は「ほっ」と唇をすぼめた。
 がっしりとした岩を刻み付けたような顔つき。頭には、いや、首から上には、唯の一本も毛が生えていない。
 全体に人間といっていい顔つきだが、皮膚は銀色に輝いている。まるで金属の彫像のよう、見方によっては、魚市場で大量に売られているシルバーフィッシュの肌のようだ。
 シルバーの銀色の皮膚に、くしゃくしゃっと皺が寄り、にまーっと笑顔になった。
「キャシーさん……それはないでしょう? わたくしは、あなたに危害を加えようとは、これっぽっちも考えてはおりませんよ」
 言葉付きは厭らしいほど丁寧で、シルバーの声は轟くような低音である。口調は柔らかく、このような緊迫した場面には似合わない。
 が、シルバーは冷徹な瞳で、じっとキャシーの顔を見返した。
「いい加減に降伏しなさい。今までは警告だったが、今度はそちらの無反動スラスターを狙う。一発こちらからレーザーを発射すれば、そちらはお手上げだ。どうです、そんなことに、なりたくないでしょう?」
 キャシーは「ふん」と顎を上げた。
「それじゃあ、やってご覧! そっちの射撃手の腕を試してみるのも面白いわ!」
 シルバーはゆるゆると頭を振った。
「お判りにならないようだ。こちらの射撃手は優秀だ。あなたの《呑竜》のスラスターを一発でお釈迦にできる。が、その衝撃で船内にいるあなたを傷つけてしまうかもしれないから踏み切れないだけのことなのだ。大人しく停船してくれませんかな?」
 キャシーはそれには答えず、いきなり操縦桿を握り、加速した。両者の相対速度が亜光速になる。赤方偏移によって通信装置の周波数がずれ、画面が乱れる。
 スクリーンの向こう側のシルバーが慌てて部下に命令する場面が、最後にちらりと映し出された。
 ぐいっとキャシーは船を上手回しに旋回させ、スラスターの出力限界ぎりぎりに速度を上げる。
 たちまち速度は光速度近くに上がり、呑竜の通過した後は空間が一時的に凝集して、長い航跡が残った。重力レンズ効果で遠方の星の光が集まり、揺らめいた。
 ばちばちっ、と二人の前の計器が一斉に赤く染まり、悲鳴のように警告の音が響く。
「ちっ」とキャシーは唇を噛んだ。シルバーの船からレーザーが発射されたのだ。両者の距離はキャシーの目測で三光秒、向こうの射撃手は呑竜の旋回を読んで狙ってきた。
「今のは、危なかったよ! 船の外板の温度が九百度に上昇! 直撃ではなかったけど、掠ったみたいだ……」
 キャシーは無言で頷いた。この急場を逃れるため、思考が急速に、ジェット・コースターのように旋回する。
 ちらちらとキャシーは超光速ジェネレーターのスイッチを睨んだ。ともかく、どこかへ逃げねばならない!
 そうだ! キャシーはある思いつきに夢中になった。
「ヘロヘロ! 超空間へ突入準備! 座標を計算してっ!」
「ほい来た! どこへ向かう?」
「洛陽よ! 首都へ向かうわ……」
「なんだってえ!」
 ヘロヘロは仰天した声を上げた。
 洛陽!
 銀河帝国の首都。銀河系の数那由他人と思われる、すべての人類の要。
 そこには歴代の皇帝が起居し、帝国を維持するための法律が日々倦まず弛まず、次から次へと生産され、すべての殖民星から情報が収集されていた。
「そうよ、洛陽へ向かうのよ!」
 キャシーは会心の笑みを浮かべていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界は流されるままに

椎井瑛弥
ファンタジー
 貴族の三男として生まれたレイは、成人を迎えた当日に意識を失い、目が覚めてみると剣と魔法のファンタジーの世界に生まれ変わっていたことに気づきます。ベタです。  日本で堅実な人生を送っていた彼は、無理をせずに一歩ずつ着実に歩みを進むつもりでしたが、なぜか思ってもみなかった方向に進むことばかり。ベタです。  しっかりと自分を持っているにも関わらず、なぜか思うようにならないレイの冒険譚、ここに開幕。  これを書いている人は縦書き派ですので、縦書きで読むことを推奨します。

ずっと女の子になりたかった 男の娘の私

ムーワ
BL
幼少期からどことなく男の服装をして学校に通っているのに違和感を感じていた主人公のヒデキ。 ヒデキは同級生の女の子が履いているスカートが自分でも履きたくて仕方がなかったが、母親はいつもズボンばかりでスカートは買ってくれなかった。 そんなヒデキの幼少期から大人になるまでの成長を描いたLGBT(ジェンダーレス作品)です。

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

あっちの自分とこっちの自分。あっちのあいつとこっちのあいつ

マフィン
SF
ある日、突然現れた男。その男は、そこを自分の家だと言い張る。  ある日家に帰ると、部屋に見知らぬ男たちが住み着いていた。 それぞれは一体何者たちなのか?彼らに何が起きているのか?登場人物一人一人の目線で語られるSFファンタジー。

童貞が建設会社に就職したらメスにされちゃった

なる
BL
主人公の高梨優(男)は18歳で高校卒業後、小さな建設会社に就職した。しかし、そこはおじさんばかりの職場だった。 ストレスや性欲が溜まったおじさん達は、優にエッチな視線を浴びせ…

Intrusion Countermeasure:protective wall

kawa.kei
SF
最新のVRゲームを手に入れた彼は早速プレイを開始した。

後方支援なら任せてください〜幼馴染にS級クランを追放された【薬師】の私は、拾ってくれたクラマスを影から支えて成り上がらせることにしました〜

黄舞
SF
「お前もういらないから」  大人気VRMMORPGゲーム【マルメリア・オンライン】に誘った本人である幼馴染から受けた言葉に、私は気を失いそうになった。  彼、S級クランのクランマスターであるユースケは、それだけ伝えるといきなりクラマス権限であるキック、つまりクラン追放をした。 「なんで!? 私、ユースケのために一生懸命言われた通りに薬作ったよ? なんでいきなりキックされるの!?」 「薬なんて買えばいいだろ。次の攻城戦こそランキング一位狙ってるから。薬作るしか能のないお前、はっきり言って邪魔なんだよね」  個別チャットで送ったメッセージに返ってきた言葉に、私の中の何かが壊れた。 「そう……なら、私が今までどれだけこのクランに役に立っていたか思い知らせてあげる……後から泣きついたって知らないんだから!!」  現実でも優秀でイケメンでモテる幼馴染に、少しでも気に入られようと尽くしたことで得たこのスキルや装備。  私ほど薬作製に秀でたプレイヤーは居ないと自負がある。  その力、思う存分見せつけてあげるわ!! VRMMORPGとは仮想現実、大規模、多人数参加型、オンライン、ロールプレイングゲームのことです。 つまり現実世界があって、その人たちが仮想現実空間でオンラインでゲームをしているお話です。 嬉しいことにあまりこういったものに馴染みがない人も楽しんで貰っているようなので記載しておきます。

恋するジャガーノート

まふゆとら
SF
【全話挿絵つき!巨大怪獣バトル×怪獣擬人化ラブコメ!】 遊園地のヒーローショーでスーツアクターをしている主人公・ハヤトが拾ったのは、小さな怪獣・クロだった。 クロは自分を助けてくれたハヤトと心を通わせるが、ふとしたきっかけで力を暴走させ、巨大怪獣・ヴァニラスへと変貌してしまう。 対怪獣防衛組織JAGD(ヤクト)から攻撃を受けるヴァニラス=クロを救うため、奔走するハヤト。 道中で事故に遭って死にかけた彼を、母の形見のペンダントから現れた自称・妖精のシルフィが救う。 『ハヤト、力が欲しい? クロを救える、力が』 シルフィの言葉に頷いたハヤトは、彼女の協力を得てクロを救う事に成功するが、 光となって解けた怪獣の体は、なぜか美少女の姿に変わってしまい……? ヒーローに憧れる記憶のない怪獣・クロ、超古代から蘇った不良怪獣・カノン、地球へ逃れてきた伝説の不死蝶・ティータ── 三人(体)の怪獣娘とハヤトによる、ドタバタな日常と手に汗握る戦いの日々が幕を開ける! 「pixivFANBOX」(https://mafuyutora.fanbox.cc/)と「Fantia」(fantia.jp/mafuyu_tora)では、会員登録不要で電子書籍のように読めるスタイル(縦書き)で公開しています!有料コースでは怪獣紹介ミニコーナーも!ぜひご覧ください! ※登場する怪獣・キャラクターは全てオリジナルです。 ※全編挿絵付き。画像・文章の無断転載は禁止です。

処理中です...