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掟破りの解決
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ぎゃりんっ!
タバサはヌンチャクの真ん中を繋いでいる鎖で、ゲルダの青竜刀を受け止めた。
普通、ヌンチャクには鎖は使わない。本来なら麻紐などの素材が使われるのだが、かつて有名なカンフー映画で使用されたヌンチャクが、見映えのため鎖を使っていたので、それ以来、ヌンチャクを繋ぐのは鎖と決まっている。
ぐぐっと押し戻し、さっと横に払って距離をとると、タバサは目にもとまらぬ速さで二つの棒を振り回す。
ひゅん、ひゅんとヌンチャクが空を切る音がして、青竜刀を構えるゲルダの顔に、焦りの色が浮かんでいた。
ゲルダには、タバサがまさかここまでヌンチャクを扱えるとは、思ってもいなかったのだろう。
ぶんっ、と音を立て青竜刀が振り回されるが、タバサは寸前のところで躱し、逆にヌンチャクを振り回して、ゲルダの隙を狙う。
一撃必殺の気合が、タバサの振り回すヌンチャクには篭められている。もとよりゲルダも《ロスト・シティ》の露店で買い求めただけあって、ヌンチャクの扱いには慣れている様子で、タバサの攻撃にもひらりひらりと身軽に避けていた。
が、形勢は明らかにゲルダの不利であった。
なにしろゲルダの持っているのは、重い、青竜刀である。いくらゲルダが強い筋力を持っていても、振り回し続けているのには、限界というものがあった。
たらたらとゲルダの額から、大粒の汗が流れ出ていた。汗は瞼に掛かり、目に入って視界を塞ぐ。ぱちぱちとゲルダは何度も瞬きを繰り返し、必死になってタバサの攻撃を受け止めている。
びしっ! と厭な音がして、がらんとゲルダの握っていた青竜刀が床に転がった。
ゲルダは指を押さえ、苦痛に呻いていた。タバサのヌンチャクの先端が、ゲルダの親指を直撃していたのだ。剣道で言う「指きり」の技である。顔を上げたゲルダの顔からは血の気が引き、真っ白になっている。顎からぽたぽたと汗が滴っていた。
仮想現実で感じる初めての苦痛! 《ロスト・ワールド》では、苦痛は本物だ。
すかさずタバサは爪先を蹴り上げ、ゲルダの取り落とした青竜刀を遠くへ蹴飛ばす。
がらがらと派手な音を立て、刀はくるくると旋回しながらゲルダの手が届かない遠くへ飛ばされていく。ゲルダの顔に絶望感が浮かぶ。
「修正ディスクを渡しなさい!」
ヌンチャクを構え、タバサが叫んだ。ゲルダは物凄い視線で睨み返した。
「誰が……お前なんかに……!」
タバサは唇を噛みしめた。
どうしたら、いい? 何とか勝負には勝てたが、これから何をすれば良いのか、タバサには判らなかった。ゲルダはシャドウの洗脳で、どうしようもない忠誠心に縛られている。ディスクを渡すことなど、考えもしないだろう。しかしタバサには、無情にゲルダに対し、気絶するほどの苦痛を与えるなど、できそうにもない。
ゲルダは吠えていた。
「どうした? わたしを殺せばいい! そのヌンチャクを思い切り振り下ろせばいいだろう? できないのか、臆病者!」
ゲルダは、せせら笑った。タバサは動くことができなかった。顔を上げ、戦っている二郎とシャドウを見上げる。タバサの視線を追い、ゲルダも顔を上げていた。
タバサはヌンチャクの真ん中を繋いでいる鎖で、ゲルダの青竜刀を受け止めた。
普通、ヌンチャクには鎖は使わない。本来なら麻紐などの素材が使われるのだが、かつて有名なカンフー映画で使用されたヌンチャクが、見映えのため鎖を使っていたので、それ以来、ヌンチャクを繋ぐのは鎖と決まっている。
ぐぐっと押し戻し、さっと横に払って距離をとると、タバサは目にもとまらぬ速さで二つの棒を振り回す。
ひゅん、ひゅんとヌンチャクが空を切る音がして、青竜刀を構えるゲルダの顔に、焦りの色が浮かんでいた。
ゲルダには、タバサがまさかここまでヌンチャクを扱えるとは、思ってもいなかったのだろう。
ぶんっ、と音を立て青竜刀が振り回されるが、タバサは寸前のところで躱し、逆にヌンチャクを振り回して、ゲルダの隙を狙う。
一撃必殺の気合が、タバサの振り回すヌンチャクには篭められている。もとよりゲルダも《ロスト・シティ》の露店で買い求めただけあって、ヌンチャクの扱いには慣れている様子で、タバサの攻撃にもひらりひらりと身軽に避けていた。
が、形勢は明らかにゲルダの不利であった。
なにしろゲルダの持っているのは、重い、青竜刀である。いくらゲルダが強い筋力を持っていても、振り回し続けているのには、限界というものがあった。
たらたらとゲルダの額から、大粒の汗が流れ出ていた。汗は瞼に掛かり、目に入って視界を塞ぐ。ぱちぱちとゲルダは何度も瞬きを繰り返し、必死になってタバサの攻撃を受け止めている。
びしっ! と厭な音がして、がらんとゲルダの握っていた青竜刀が床に転がった。
ゲルダは指を押さえ、苦痛に呻いていた。タバサのヌンチャクの先端が、ゲルダの親指を直撃していたのだ。剣道で言う「指きり」の技である。顔を上げたゲルダの顔からは血の気が引き、真っ白になっている。顎からぽたぽたと汗が滴っていた。
仮想現実で感じる初めての苦痛! 《ロスト・ワールド》では、苦痛は本物だ。
すかさずタバサは爪先を蹴り上げ、ゲルダの取り落とした青竜刀を遠くへ蹴飛ばす。
がらがらと派手な音を立て、刀はくるくると旋回しながらゲルダの手が届かない遠くへ飛ばされていく。ゲルダの顔に絶望感が浮かぶ。
「修正ディスクを渡しなさい!」
ヌンチャクを構え、タバサが叫んだ。ゲルダは物凄い視線で睨み返した。
「誰が……お前なんかに……!」
タバサは唇を噛みしめた。
どうしたら、いい? 何とか勝負には勝てたが、これから何をすれば良いのか、タバサには判らなかった。ゲルダはシャドウの洗脳で、どうしようもない忠誠心に縛られている。ディスクを渡すことなど、考えもしないだろう。しかしタバサには、無情にゲルダに対し、気絶するほどの苦痛を与えるなど、できそうにもない。
ゲルダは吠えていた。
「どうした? わたしを殺せばいい! そのヌンチャクを思い切り振り下ろせばいいだろう? できないのか、臆病者!」
ゲルダは、せせら笑った。タバサは動くことができなかった。顔を上げ、戦っている二郎とシャドウを見上げる。タバサの視線を追い、ゲルダも顔を上げていた。
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