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《ロスト・ワールド》の宝
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「おい、兄貴。あのタバサって娘、すげえなあ! あんな芸当ができるなんて、知らなかったぜ!」
知里夫は仰天してタバサの仕出かしたことにあんぐり口を開け、玄之丞に話し掛けた。玄之丞はすぱすぱと、続けざまに葉巻を喫いながら答える。
「うむ。吾輩の考察するところ、ティンカーがやったプログラムの上書きとやらが、効果を発揮しているのかも知れんな!」
「ってえと、おれたちも、あんなことできるのかね?」
玄之丞は首を振った。
「それは判らん。タバサの場合は、即席で武術の達人に変身できたが、吾輩たちはどうなるのか? 知里夫、お前、何か感じないか?」
知里夫は首を捻った。
「判らねえ……。何も感じねえ……。ちょっと待て! 兄貴、何でも良いから数字を言ってくれ!」
玄之丞は口から葉巻を離し、妙な目つきで知里夫を見た。しかしすぐに立ち直ると、続けざまに数字を並べる。
「129665412×65894は?」
「854417658328!」
一瞬にして知里夫は答えていた。知里夫は情け無さそうに玄之丞を見やる。
「おれの場合は、暗算らしい。畜生、こんな能力、糞の役にも立たねえ!」
玄之丞は、ぽん、と知里夫の肩を叩く。その目が、晴彦に向けられる。
晴彦は相変わらずにこにこと、馬鹿か、それとも底なしの善人なのか判らない笑みを浮かべていた。知里夫も晴彦を睨み、考え込む。
「晴彦! お前……」
言いかけた知里夫を無視して、晴彦はにこにこと笑いを浮かべたまま、すーっと無言で歩き出す。
玄之丞と知里夫は顔を見合わせた。
とっとと晴彦は、かちんかちんに凍りついたように動きを止めたままの蒸汽軍兵士の前に歩いていく。
先頭に立っている、ガント元帥と、ターク首相の顔をまじまじと見つめると、何を思ったのか、さっと両腕を差し上げた。
その瞬間、蒸汽軍全員の凍りついた時間が解けた!
ぱっと口を開き、タークが叫んでいる。
「エミリー皇女!」
が、視線の先にエミリー皇女はいない。きょろきょろと辺りを見回すと、驚きに両目が、くわっと見開かれた。エミリー皇女は床に長々と横たわっている。気絶しているのだ!
「エミリー!」
顔中を口にして、タークは叫んでいた。だっとパチンコに弾かれたように飛び出し、脇目も振らず、倒れているエミリーに突進する。
床に膝まづくと、エミリー皇女を抱き起こす。荒々しく揺さぶり、大声を上げた。
「エミリー皇女、ご無事ですかっ!」
揺さぶられ、エミリー皇女はゆっくりと目を開いた。ぱちぱちと何度か瞬きを繰り返し、徐々に正気を取り戻す。唇が微かに動き、両目がしっかりと覗きこんでいるタークの心配そうな顔を捉えていた。
息を吐き出し、唇から言葉が押し出される。
「パ……パ……?」
タークは顔を真っ赤にさせ、怒鳴る。
「何ですと? 今、何と仰いました?」
「パパ……、あなたは、あたしのパパでしょう?」
「エミリー!」
しっかりとエミリー皇女を抱きしめ、タークは叫んでいた。
「ふむう……」
抱き合うエミリーとタークを見詰め、玄之丞は真剣な表情になっていた。やがて、理解の色が浮かび、晴れやかな笑みに変わる。
「判ったぞ!」
知里夫は玄之丞を見上げる。
「何が判ったんだ、兄貴」
玄之丞は腕を組み、重々しく呟いた。
「《ロスト・ワールド》の宝の正体がだよ」
「お宝ぁ?」
知里夫は頓狂な声を上げていた。
「そんなもの、ただの噂話に過ぎねえ、と思っていたぜ! 本当にあるのかい?」
「ある!」断言していた。じっと知里夫を見て、言葉を足す。
「お前はもう、お宝を受け取っているじゃないか」
「おれが?」
知里夫は自分の顔を指差す。
「そうだ! お前は、コンピューターのような暗算能力を得、タバサは一瞬で武道の達人に。他にもあるぞ。例えば、蝶人だ!」
「蝶人って、あの芋虫から蛹になる、あいつらのことか? あいつらが、どうして、お宝を受け取っているんだ」
玄之丞は目を細めた。
「そこが奇妙なところなのだ。《ロスト・ワールド》のお宝は、一見そうではなさそうに見えるところが面白い。知里夫、お宝と聞いて、何を連想する?」
「そりゃあ」知里夫はグルグルと両目を動かす。
「例えば、金銀財宝、とか。骨董品とか、絵画とか……」
玄之丞は新しい葉巻を咥えると、ゆっくりと頭を振った。
「そんなものが仮想現実で宝になるか? どんな金銀財宝でも、骨董品でも、泰西名画だろうが、そんなものはデータに過ぎん。その気になれば、簡単にコピーできる。仮想現実でものを言うのは、何と言っても、プレイヤー個々人の能力そのものだ。見ろ、あの二人を」
玄之丞は戦っている二郎とシャドウを指さす。二人は空中で浮かびながら、辺りの空間を歪め、決死の表情で戦いを続けている。
「二郎は仮想現実構築支援ソフト《パンドラ》の開発者として、他のプレイヤーにはない特殊能力を持っている。シャドウも二郎の分身だから、ここ《ロスト・ワールド》では無敵を誇る。エミリー皇女にしても、そうだ。エミリー皇女は《蒸汽帝国》全てのプレイヤーにとって、かけがえのない象徴だ。今、俺が上げた特異性は、他にはない! どんなお宝だって、引き換えにはできないだろう」
「それじゃ……」
知里夫の顔に理解の色が浮かんだ。
「あいつは、どうなんだ?」
知里夫は晴彦を指さしていた。
知里夫は仰天してタバサの仕出かしたことにあんぐり口を開け、玄之丞に話し掛けた。玄之丞はすぱすぱと、続けざまに葉巻を喫いながら答える。
「うむ。吾輩の考察するところ、ティンカーがやったプログラムの上書きとやらが、効果を発揮しているのかも知れんな!」
「ってえと、おれたちも、あんなことできるのかね?」
玄之丞は首を振った。
「それは判らん。タバサの場合は、即席で武術の達人に変身できたが、吾輩たちはどうなるのか? 知里夫、お前、何か感じないか?」
知里夫は首を捻った。
「判らねえ……。何も感じねえ……。ちょっと待て! 兄貴、何でも良いから数字を言ってくれ!」
玄之丞は口から葉巻を離し、妙な目つきで知里夫を見た。しかしすぐに立ち直ると、続けざまに数字を並べる。
「129665412×65894は?」
「854417658328!」
一瞬にして知里夫は答えていた。知里夫は情け無さそうに玄之丞を見やる。
「おれの場合は、暗算らしい。畜生、こんな能力、糞の役にも立たねえ!」
玄之丞は、ぽん、と知里夫の肩を叩く。その目が、晴彦に向けられる。
晴彦は相変わらずにこにこと、馬鹿か、それとも底なしの善人なのか判らない笑みを浮かべていた。知里夫も晴彦を睨み、考え込む。
「晴彦! お前……」
言いかけた知里夫を無視して、晴彦はにこにこと笑いを浮かべたまま、すーっと無言で歩き出す。
玄之丞と知里夫は顔を見合わせた。
とっとと晴彦は、かちんかちんに凍りついたように動きを止めたままの蒸汽軍兵士の前に歩いていく。
先頭に立っている、ガント元帥と、ターク首相の顔をまじまじと見つめると、何を思ったのか、さっと両腕を差し上げた。
その瞬間、蒸汽軍全員の凍りついた時間が解けた!
ぱっと口を開き、タークが叫んでいる。
「エミリー皇女!」
が、視線の先にエミリー皇女はいない。きょろきょろと辺りを見回すと、驚きに両目が、くわっと見開かれた。エミリー皇女は床に長々と横たわっている。気絶しているのだ!
「エミリー!」
顔中を口にして、タークは叫んでいた。だっとパチンコに弾かれたように飛び出し、脇目も振らず、倒れているエミリーに突進する。
床に膝まづくと、エミリー皇女を抱き起こす。荒々しく揺さぶり、大声を上げた。
「エミリー皇女、ご無事ですかっ!」
揺さぶられ、エミリー皇女はゆっくりと目を開いた。ぱちぱちと何度か瞬きを繰り返し、徐々に正気を取り戻す。唇が微かに動き、両目がしっかりと覗きこんでいるタークの心配そうな顔を捉えていた。
息を吐き出し、唇から言葉が押し出される。
「パ……パ……?」
タークは顔を真っ赤にさせ、怒鳴る。
「何ですと? 今、何と仰いました?」
「パパ……、あなたは、あたしのパパでしょう?」
「エミリー!」
しっかりとエミリー皇女を抱きしめ、タークは叫んでいた。
「ふむう……」
抱き合うエミリーとタークを見詰め、玄之丞は真剣な表情になっていた。やがて、理解の色が浮かび、晴れやかな笑みに変わる。
「判ったぞ!」
知里夫は玄之丞を見上げる。
「何が判ったんだ、兄貴」
玄之丞は腕を組み、重々しく呟いた。
「《ロスト・ワールド》の宝の正体がだよ」
「お宝ぁ?」
知里夫は頓狂な声を上げていた。
「そんなもの、ただの噂話に過ぎねえ、と思っていたぜ! 本当にあるのかい?」
「ある!」断言していた。じっと知里夫を見て、言葉を足す。
「お前はもう、お宝を受け取っているじゃないか」
「おれが?」
知里夫は自分の顔を指差す。
「そうだ! お前は、コンピューターのような暗算能力を得、タバサは一瞬で武道の達人に。他にもあるぞ。例えば、蝶人だ!」
「蝶人って、あの芋虫から蛹になる、あいつらのことか? あいつらが、どうして、お宝を受け取っているんだ」
玄之丞は目を細めた。
「そこが奇妙なところなのだ。《ロスト・ワールド》のお宝は、一見そうではなさそうに見えるところが面白い。知里夫、お宝と聞いて、何を連想する?」
「そりゃあ」知里夫はグルグルと両目を動かす。
「例えば、金銀財宝、とか。骨董品とか、絵画とか……」
玄之丞は新しい葉巻を咥えると、ゆっくりと頭を振った。
「そんなものが仮想現実で宝になるか? どんな金銀財宝でも、骨董品でも、泰西名画だろうが、そんなものはデータに過ぎん。その気になれば、簡単にコピーできる。仮想現実でものを言うのは、何と言っても、プレイヤー個々人の能力そのものだ。見ろ、あの二人を」
玄之丞は戦っている二郎とシャドウを指さす。二人は空中で浮かびながら、辺りの空間を歪め、決死の表情で戦いを続けている。
「二郎は仮想現実構築支援ソフト《パンドラ》の開発者として、他のプレイヤーにはない特殊能力を持っている。シャドウも二郎の分身だから、ここ《ロスト・ワールド》では無敵を誇る。エミリー皇女にしても、そうだ。エミリー皇女は《蒸汽帝国》全てのプレイヤーにとって、かけがえのない象徴だ。今、俺が上げた特異性は、他にはない! どんなお宝だって、引き換えにはできないだろう」
「それじゃ……」
知里夫の顔に理解の色が浮かんだ。
「あいつは、どうなんだ?」
知里夫は晴彦を指さしていた。
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