電脳ロスト・ワールド

万卜人

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《ロスト・ワールド》の宝

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 轟っ……とした突風に、タバサの髪の毛が舞い上がる。風圧に、タバサは思わず仰け反り、目を細めた。ティンカーの案内した地下空間に辿り着いた瞬間、猛烈な風に全員は襲われていた。目の前に、巨大な渦巻きがあった。《蒸汽帝国》の、蒸汽劇場に出現した、あの渦巻きと全く同じものであった。
「〝門〟だ! 《蒸汽帝国》に繋がっている渦巻きだ!」
 ゲルダは二郎の言葉に「はっ」と顔を上げた。ゲルダの髪も、渦巻きから噴き上げる風に踊っている。
「それでは、この向こうに《蒸汽帝国》が?」
 二郎は頷いた。渦巻きの中心を指差す。
「そうだ、階段が見えるだろう?」
 二郎の指摘通り、渦巻きの中心には白く輝く階段が、塗りつぶされたような暗黒に向かって降りている。
「この部屋に、あなたの探している〝バグ〟ってのが、あるの?」
 風に負けないよう、タバサは精一杯の大声を張り上げる。二郎は渦巻きから吹き上げる風に目を細めながら頷いた。
「そうだ、修正プログラムを手に入れないとならん! ティンカー! 向こうの《蒸汽帝国》に合図を送れるか?」
 ティンカーは、ひゅっ、と風を切って渦巻きに飛び込む。が、すぐ戻ってきた。
「駄目です! 〝門〟は、閉じられています! 向こう側から侵入した多数のプレイヤーが、閉鎖空間に閉じ込められている状況は判りますが……。こちらから接触することは、不可能です!」
 ティンカーの報告に、二郎は焦燥の色を浮かべた。
「糞っ! あの連中、おれの忠告を無視しやがって……だから、言わんこっちゃない!」
 その時「わはははは!」と部屋を一杯に満たす大きな笑い声が聞こえてきた。声は上から聞こえてくる。全員が天井を見上げ、息を呑んだ。
 シャドウが空中に浮かんでいる。真っ白な髪の毛が、吹き付ける風で別の生き物のように蠢いている。
 しかし一同が驚愕したのは、シャドウの手に握られている、エミリー皇女の姿であった。二人とも、天井を突き抜け、出現していた。二郎の姿を認め、シャドウは高々と声を上げた。
「客家二郎! 修正プログラムは、どうした? 持ち込めば、おれの感知するところとなる。そこで多分、他の〝世界〟に残し、〝門〟から手に入れるつもりだったのだろう? 残念だったなあ! 《蒸汽帝国》に繋がる〝門〟は、すでに閉じられているぞ!」
 シャドウの言葉に、二郎はぐっと息を詰め、拳を握りしめる。
 そんな二郎の表情を楽しむかのように、シャドウは皮肉な笑みを浮かべている。シャドウの手に握られているエミリー皇女を見上げ、ゲルダは叫んでいた。
「皇女さまを離せ!」
 シャドウは眉を上げた。
「いいのかな? おれが手を離すと……。そら!」
 ぱっと手を離す。すとん、とエミリーの身体が落下する。わっ、とゲルダはエミリーを受け止めるべく、大股で走り寄った。
 シャドウは手を振った。エミリーの落下が、唐突に止まる。空中で浮かんだまま、エミリーは、じたばたと手足を動かした。シャドウが指を上げると、エミリーの身体は再び上昇していく。同じ高さに上昇したところで、シャドウは腕を伸ばし、再び腕をがっちりと掴んだ。嬲っている。ゲルダは悔しさに、だん! と、足踏みをする。
「どうして、あんなことができるの?」
 タバサは二郎に顔を寄せ、囁いた。二郎はシャドウを見上げたまま口の端で囁き返す。
「ここが、シャドウの作り上げた《ロスト・ワールド》だからだ。この〝世界〟の法則は、奴の思いのままなんだ! 畜生、修正ディスクが手に入れば……」
 気持ち良さげに、シャドウは大声で宣言した。
「それでは《蒸汽帝国》の間抜けどもの顔を拝むとするか……!」
 さっと渦巻きを指さした。その途端、渦巻きは消滅し、あれほど吹き荒れた風も、ぴたりと止んだ。階段には《蒸汽帝国》の軍隊が出現していた。先頭にはガント元帥の乗り込む司令無蓋車。その隣にはターク首相の姿があった。
 呆然と、ガントとタークは目の前の光景に虚ろな表情を浮かべている。
 が、二郎は嬉しげに叫んでいた。
「ターク首相! 修正ディスクは持っているか?」
 呼びかけられた首相は、二郎を認め、激しく頷く。
 驚きの表情が、シャドウに浮かぶ。
「修正ディスクだと?」
 二郎は腕を挙げ、叫んだ。
「寄越せ!」
 首相はポケットに手を入れ、ディスクを取り出した。腕を思い切り後ろに伸ばし、全身の力を込めて二郎へと投げる。
 ひゅーっ、と修正ディスクがきらきらと輝きながら、空中を飛んでいく。
 ぱっと二郎はディスクを受け止めていた!
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