電脳ロスト・ワールド

万卜人

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輪廻転生

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 近づいてくるのは、二郎の言う「芋虫の巣篭もり場」である。
 それは、岩山だった。といっても、普通のごつごつとした岩山ではない。四角いブロックが積み重なった山である。大小無数の正方形に近いブロックが積み重なり、岩山を形成している。どうやら《ロスト・ワールド》では、普通の浸食作用は無縁らしい。
 岩山の幾つものブロックの隙間に、ぽつ、ぽつと蛹のようなものが貼り付いている。
 気がつくと、岩山には今、タバサが利用しているチューブの他に、何本かのチューブが様々な方向から集中していた。他のチューブを注意して観察すると……いたいた! 芋虫が必死で、岩や目指して黙々と這い進んでいる。
 岩山の天辺辺りには、奇妙なものが散見される。
 風船だ!
 ぷっくらと、幾つかの風船が、岩山の天辺近くに数個、浮かんでいる。風船には糸が付いていて、先端は岩山に繋がっている。風船は、微かな風にふらり、ふらーりと左右に揺れている。さらに風船の根本あたりには、籠のようなものが付属している。
 タバサは目を瞠った。人間だ!
 籠の中には人間が乗り組んでいる。ということは、あれは気球なのだ!
 タバサは二郎に話し掛けた。
「ねえ、空路を行く、と言ってたけど、あれなの?」
「そうだ」と、二郎は頷いた。タバサの見ている風船を、二郎も見上げて説明を加える。
「ここは、熱気球の発着場なんだ。あれを使って、シャドウの本拠地へ向かう」
 タバサは「ほっ」と安堵の溜息をついた。
 良かった! また、虫の背中に乗り込まなくてはならないのかとビクビクしていた。
 しかし、どうやってあそこまで登るつもりなのだろう? まあいい、二郎が総て知っているはずだ。気になっているのは、ゲルダ少佐の態度である。プロペラ生物のゴタゴタが終わった後は、なぜか、むっつりと黙り込んでしまった。
 ゲルダは膝を抱えた姿勢で視線を上げ、二郎を見つめた。
「二郎さん。質問があります」
「なんだ」と二郎は振り返る。
 ゲルダは居住まいを正した。正座し、真っ直ぐ二郎を見つめ、質問する。
「どうしてわたしの銃が作動しなかったのか、知っているのですか?」
「ああ、そのこと」
 二郎は薄っすらと笑いを浮かべる。ゲルダの頬が、二郎の笑いで紅潮したが、それでも黙って答を待ち構える。
「あれは《蒸汽帝国》から持ち込んだものだよな。それも、おれの見たところ、蒸汽軍制式の蒸汽銃だ。《蒸汽帝国》のテクノロジーは蒸汽に依存している。とはいえ、普通の蒸気機関ではなく、《蒸汽帝国》独自の原理で動く。ここは《ロスト・ワールド》だ。《蒸汽帝国》で有効な原理は、ここでは作動しない。だから、だよ」
 ゲルダ少佐は目を丸くした。
「それでは、もし《蒸汽帝国》の軍隊があの〝門(ゲート)〟を通って、こちらへ侵攻したとしても……」
「馬鹿な!」
 二郎は顔を顰めた。
「おれが散々、念を押しておいたはずだ! 絶対、王宮前に現れた〝門〟には近づくな、と! もし、あそこから《ロスト・ワールド》に乗り込んだら、総ての《蒸汽帝国》軍の武器兵器は、即座に何の役にも立たぬ、スクラップ同然になっている現実を悟るだけだ」
 そこまで喋って、二郎の顔色が変わった。ぐい、とゲルダに身を乗り出し、噛みつくように尋ねる。
「おい! まさか、《蒸汽帝国》のボンクラども、妙な考えを弄んでいる訳じゃあ、ないよな? じっとしておけ、とおれが諄いほど念押ししていたのを、忘れたとは言わせねえ!」
 ゲルダは暗い目つきになった。
「それが……ターク首相はともかく、軍の一部には、あなたの忠告に従うことを潔しとしない人も……」
「けえーっ!」と、二郎は奇妙な叫び声を上げた。
「まったく、何を考えているんだ! もし、奴らが本気で〝門〟からこっちへ進攻しようと試みたら……」
 ゲルダは心配そうな表情を浮かべる。
「どうなります?」
「総てご破算だ! おれが散々、苦労してお膳立てしたこと全部が、そっくり無駄になる! 《ロスト・ワールド》正常化はおろか、お前らのお大事のエミリー皇女の救出だって、永久に不可能になっちまう!」
 ゲルダは真っ青になった。
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