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第十章 謎の手紙

44本目

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 【ちいさな約束もおおきな約束も全部大事に心の中へしまってあるよ】



「すげー、これがコーヒーの木か~、豆が赤いんだな~」

「こっちはチョコレートの木だよ」

「なーちゃん、チョコレートじゃ無くてカカオの木だよ」

 って、思わずツッコミを入れちゃったけど、なんでこんな所に来ているんだっけ? そうだ、今度の劇の参考にお休みの日を使って『木』見に行こうって二人に誘われたんだった。
 だから何でわたしのやる『木』の為にここまでするの!? というか『木』の役作りに役に立つとか意味わからないよ!!


 今度の劇はなんだっけ? 昔、アラブの偉い僧侶さんがコーヒーを飲んで若い娘に恋をしてサンバを踊り出す話だった。そこだけ聞くと意味不明イミフだよね。

 なんでも歌を元にした劇らしくて、先生が「俺は井上 洋子いのうえ ようこ世代だ……お前達のご両親は多分荻野目 陽水おぎのめ ようすい世代だと思うぞ」とか、言っていたっけ? 世代を超えて度々カバーされる有名な歌らしくて、わたしたちは福正 山春ふくまさ やまはる世代らしいけど、わたしはその歌手に詳しくないのでよくわからなかった。

 劇のクライマックスで全員がサンバを踊ると言う事で、クラスのみんなは劇の演技以外にもダンスの練習に気合いを入れている。

 わたし? 『木』が踊るわけ無いでしょ! わかってて聞かなかった?

 みんながサンバを踊っている間に舞台の中央でゆらゆら揺れているコーヒーの木……それがわたしだよ。

 今回もセンターだからアイドルグループなら主役だよね、えへへ……って、現実逃避しそうになっちゃったけど、そう言う理由で今この『COFFEE EXPO in TOKYO』の会場に来ているのだ。
 ちなみに『CHOCOLATE EXPO in TOKYO』と平行して開催されていて、会場は真ん中でくっ付いている。目玉として、中央に現地から取り寄せたコーヒーの木やカカオの木がそびえ立っていて、見物客が木に触れたり写真を撮ったりしている。
 そして、この会場中央……暑い。木のために温度を高くしているみたい。


「ねぇ、まーくん、なーちゃん、暑くない? あっちでアイスコーヒー飲もうよ」

「さすがあーちゃん、俺達に気を遣ってくれて……でも俺は大丈夫だ!」

「うん、あーちゃんがコーヒーの木を極めるまで一緒に付き合うから!」

 二人ともなんでわたし以上に気合い入っているの!? あと、極めるって何!? 何をすればステージクリアなの?

 とりあえずわたしはコーヒーの木の真似をしてみる。

「いいね、あーちゃん、さすがだね」

 ごめんねまーくん、一体何がさすがなのかわたしが一番わかっていないよ!

「うん、今度は風に吹かれて実を揺らす感じで」

 なーちゃん、実とか言われても無いから、ないものは揺らせないよ!

 周りから見るとわたしがコーヒーの木の真似をしているお調子者の女の子でそれを友達二人がノリに付き合っているように見えるんだよね……違うから、わたしは今きっと何かの修行をしているんだよ。

 ……こうしてわたしの『木』の役作り (?)の特訓はしばらく続いたのでした。



「おいし~生き返るね~良い仕事した後の一杯だよ」

「前は苦い飲み物だと思ってたけど、なんか最近美味しく感じるんだよな」

「やっぱり本場の豆を使ったアイスコーヒーだからなのかな?」

 わたし達……主にわたし……は練習 (?)を終えてアイスコーヒーを飲んでいた。中学生になってから昔は美味しいと思わなかったコーヒーの良さが少しわかった来た気がする。

「ふたりとも練習 (?)に付き合ってくれてありがとうね」

「あーちゃんのためならなんて事無いさ!」

「どう? コーヒーの木の神髄はつかめた?」

「あはは、どうかな~? とりあえず書き割りを描いてくれる人に期待するね」



 幼馴染み二人の過剰な期待に応えるべく、どうすれば良いのかわからないながらも何とかコーヒーの木を演じ、わたし達の劇は最優秀賞に選ばれて地元の地方新聞にも載ったらしい。
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