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第二章 普通の女の子の筈でした……

5本目

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「とにかく帰ろう……このマンションの人には悪いけど、あーちゃんの怪我を治す方が先だ」

「わたしよりもまーくんの方がいっぱい怪我しているよ」

 まーくんに駆け寄ろうとしたら塀の破片に躓いてしまう。

「おっと、気を付けろよあーちゃん」

 ぽふっと優しくその旨で受け止めてくれるまーくん。このまま抱きついてしまいたくなるけれどここは我慢。

「うん、ありが『ガチャーーーーンッ!!』!?」

 後ろを振り返ると植木鉢が落ちてきている……わたしが普通に歩いていたらぶつかっている位置だった。

「あぶないな、なんだよこれ!?」

 まーくんは上を見上げるけれどマンションのベランダには誰一人といなかった。なんだか怖くなってきてしまった。

「いこう、あーちゃん」

「う、うん」

 わたしはまーくんに手を引かれて歩き始める。いつもなら手を触れるだけでドキドキするのに、今はなんだか背筋が寒く感じる方が気になってしまった。



 その後もおかしい事が起こった。

 店の看板が外れて落ちてきたり、ビル建設中の工事現場から鉄骨が落ちてきたり……漫画じゃないんだよ!?

 今、わたし達は危険な建物や障害物が見えない駅近の公園で休んでいる。でもいつまで安全なのかわからない……ただ分かる事は、まーくんがいなかったらわたしはきっと……そして、逆に言えばまーくんがわたしの近くにいたら……

「まーくん、なんだかわたしと一緒にいると危ない目に合うのかも? わたしから離れて歩いた方がよくない?」

「何馬鹿な事を言ってるんだよ、それにそうだとしたらなおさら、あーちゃんを放っておけるわけ無いだろ!!」

「でも、わたしのせいでまーくんが怪我をしたら嫌だよ」

「俺だって、何もしないであーちゃんに何かあったら自分が許せない」

 キリッとした表情のまーくん……格好いい。

 いやいや、だめ、今はまーくんの優しさに甘えたらいけない時だ!!

 もしかしたらこれがお別れになるのかもしれないけれど……でも、わたしは、万が一にでもまーくんに何かあるのは嫌だよ。

「大丈夫だから、事故はたまたまだと思うし。それに今日はわたし一人でいたい気分なんだ……また明日ね!!」

「あーちゃん、待て……うぐっ」

 走り出すわたしを追いかけようとするまーくんが苦痛の声を上げた。走りながら振り返ると脚を引きずっている……もしかしたらさっき足をくじいていた……わたしに知られないようにやせ我慢していたの?

 でも、これなら脚が早くないわたしでも離れられる……わたしは前を向くと公園の出口に向かって走り出した。

「いくなあああああっっ!!」

 凄い声が聞こえたかと思うとまーくんが凄い勢いで走ってくる。本気のまーくんからわたしが逃げられるわけがない……あっという間に公園の外の歩道で捕まっちゃった。

 ぐっと後ろから両腕を回されまーくんに引き寄せられてしまった。やめてよ……そんなにされたら……もう逃げられないよ。

「あーちゃんの馬鹿野郎」

「わたし女の子だから野郎じゃないもん」

「馬鹿女郎」

「ばかはまーくんだよ……死んじゃったらどうするの」

「死なせないよ……俺達はずっと一緒だ」

「わたしがいなくても、なーちゃんがいるもん、二人はお似合いだってみんな言ってるもん」

「みんなって誰だよ」

「みんなはみんなだもん……それになーちゃんだってきっと……」

 ぐいっとわたしに回された腕が強く締まる。

「誰が何と言おうと俺はな……俺はあー」

 ブオオオオオオオオオッン!!

 まーくんの言葉を遮ってお腹の底に響く音が聞こえてきた……遠くから大型のトラックが走ってくる。まだずいぶん遠いけど、完全にわたし達のいる歩道を目指している。

 まーくんは逃げようとしていない……きっとわたしを狙っているって気付いているんだ。

そのプレートに書いてある会社名は……

『 伊 勢 貝 運 送 いせかいうんそう 』

 ちょっと、完全に神様は異世界転生を執行しに来ているよ!! わかった、神様わたしの事嫌いでしょ!!

 はっ、ちがうよ、今は現実逃避している暇は無いよ……あ、まーくんの腕がちょっとだけ緩んでいる。



 ……。



 覚悟なんてないし悔 いだらけだけど……でも、好きな人が生き続けていてくれるのなら、わたしはきっと幸せなんだと思う。


【苦しい恋をしている……きっとそれは……叶わない恋だった】


「まーくん、今までありがとう……わたしね、まーくんの事……だいすきだよ」

「あ、あーちゃん!?」

 あ、わたしなんかの告白でも動揺してくれたのかな?

 完全に腕の力が抜けてる……告白は、顔を見ていないから言えたんだけど、でも最後はまーくんの顔を見たいな。

 トラックの音が大分近くに聞こえてくるけれど……何故か気にならなかった。


【でも、たとえそれでも……もしも……】


 わたしは緩んだ腕の中で、クルリとまーくんの方を向いた。

「俺は……俺はあーちゃんを……」

 まーくんの目は真っ直ぐにわたしを見つめながら言葉を伝えようと口を開くけど……ごめんね、もう、時間が無いから……ほんとうはとっても聞きたいけど……


【もしも……それでも生まれ変わったら、わたし……】


 わたしは思いっきり……人生できっと一番力を込めて……


「ばいばい、いままでありがとう」


【わたし、また、あなたに……あなたに会いたい!!】


 まーくんの体を巻き込まれないように突き飛ばした!!










































 ぐっと、強い力でわたしの腕が捕まれた。前を見ると少し困ったような顔で笑っているまーくんが見えた。

 やっぱりわたしの精一杯の力を込めても、まーくんにはかなわないんだなぁ……力が弱くて本当にごめんね、巻き込んじゃってごめんね。



 わたしが突き飛ばしたはずの彼の腕が……わたしの腕を捕まえて、その後はもうどうなったのか分からなくなった。
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