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漂流編

探索 09

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 敵はのろい……いくら攻撃力が高かろうと当たらなければ意味が無い。
 敵はもろい……堅い甲羅を背負っていようと剥き出しの部分はこの刀なら貫ける。
 元々身体能力の高い俺達に武器が揃えば巨大なモンスターも敵では無い。


「いいのか、甲羅に引っ込まなくて?」

 俺は本来なら堅いであろう象の足に刀を突き刺した。象亀は怒りと痛みでによる足踏みを繰り返すが、それを最低限の動きで回避しそのまま残りの足も処理していく。
 とうとう体を支えきれずに身をかがめると、その隙を逃さず首を切り裂いた。


「行くぜカズキ!!」

「任せろ兄ちゃん!!」

「「喰らえ、スカイデスハリケーン!!」」

 双子の兄弟は敵を挟んで高く飛び上がると高速回転しながら敵の顔を左右から切り刻んだ。もちろんその手には俺の渡した刀が握られている。


「私だって!!」

 うつ伏せのエリが握る巨大なバレットライフルが象亀を狙い撃つ。その大口径から飛び出した弾丸はマルタに敵意を向けていた象亀の額を見事に撃ち抜いた。


「ほら、こっちだ!!」

 マルタは敵を倒せる武器を手にしても堅実に敵意を引きつけ防御に徹している。お陰で俺達が思う存分に敵を攻撃出来た。


 そしてとうとう最後の一体が地響きを立てながら倒れ伏す。

「やった……やったな」

「うっしゃーっ!! 兄ちゃん!!」

「みんなお疲れ様、よく頑張った」

「大丈夫? 怪我してない?」

 マルタのチームは皆駆け寄ると勝利と生還を喜び合った。うむ、良い光景だ。俺が満足していると全員こちらへやってくる。

「エイジ、助けてくれて本当にありがとう。お前が来なかったらどうなっていたか分からなかったよ」

「礼なんか要らないぜ、仲間を助けるのは当然だろう?」

「さすが……まさにヒーローだな!!」

「EXTだけじゃ無くて実は生身も凄いってやばくない?」

「格好良かったよエイジくん……これも貸してくれてありがとう」

「あぁ、武器はそのまま使ってくれ。今後も必要だろう」

 俺達は象亀をDSに収納するとしばらく休憩を取った。そして遅れてやって来たフレーナと合流する。

「みんな無事で良かったよ~」

「フレーナちゃんエイジくんと一緒だったんだ」

 エリは同性と再会した事が嬉しいようでいつもよりはしゃいでいるようだ。おっと、そろそろ日も暮れる……マルタ達の降下ポッドの所まで移動しよう。

 リーダーのマルタに俺を媒介としたネットワークに参加して貰うと、他の皆もマルタ経由で共有出来るようになった。

「うわ、もうこんなに探索されてる!! みんなのマーカーも表示されてるし、もう俺達索敵しなくて良いじゃん」

「やったね兄ちゃん」

「俺から距離が離れるとリアルタイムで使えなくなるからそこは気をつけてくれ」

 全員パルクールアプリを使って森を駆け、降下ポッドの位置まで辿り着いた頃には既に日は沈んでいた。俺はこうかポッドの近くの広場にコテージを出した。

「悪いが寝室は俺とフレーナで一部屋ずつ使っている、残りの二つはそちらで決めて後はリビングで寝てくれ」

「じゃあ、女性優先でエリが使うと良い」

「マルタくん、いいの?」

「じゃあ残りの一部屋はコイントスでもするか?」

「俺は兄ちゃんと一緒で良いぞ」

 急に良い笑顔をしたフレーナが俺の腕に抱きついてくる……すごく嫌な予感。

「それならエイジとボクが一緒に寝ればいいんじゃ無い?」

「ばっ、お前!?」

「「「「えええーーーーーーーーっっ!!??」」」」

 この後めちゃくちゃ質問攻めされた事を語る必要は無いだろう。



 夕食……女性陣はバスタイムも……を終えるとリビングで今後の事を話し合う事にした。ダイニングテーブルに近辺のマップが立体表示される。

「明日はこの川が近い高台のあるポイントに移動して、ここをベースキャンプにして他の仲間を探していこうと思う」

「凄いなエイジ、もうこんな場所に当たりを付けていたのか」

「ここならモンスターもすぐに発見出来るし簡単には近づいてこないね」

「ドローンの哨戒も出しているしわざわざ見張りを立てる必要も無いだろう」

「至れり尽くせりだな」

 ベースキャンプの設置を簡単に終わらせた後に探索の予定だ。ちなみに今日の時点で二つの降下ポッドを見つけていて、マップにマーカーが打たれている。俺はそれを指さしながら二手に分かれて探索する事を提案した。

「そっちは二人で大丈夫なのか?」

 マルタは心配そうにしている。武器も揃っている4人ならかなり安定して戦えるのでめったな事は無いだろう。

「索敵ドローンもあるし、ヤバけりゃ逃げるから問題ない」

「そうだよね~フレーナちゃんと二人っきりになりたいもんね♪」

「「ヒュゥ!!」」

「いや~ん、エイジったら~」

 頬に手を当てているエリとニヤニヤしている双子が口笛で茶化してきた。フレーナも満更では無さそうな顔をする。

「お前達……外で寝るか?」

「「「ごめんなさい」」」



 次の日、早めにベースキャンプ予定地に移動して予め作っておいた重機を使い土地を整えていく。
 この高台のを基地化作業はAI任せにしておいて、俺達は仲間の探索へ出かける事にした。



「助かった、もう食料が底を突きそうだったんだ!!」「さすがエイジだぜ」「ありがとう」「もうだめかと思ったよ」

 発見したチームはアイリ達では無かったが彼等は大いに喜んでくれた。マルタ達と同じようにチームのリーダーをネットワーク接続するとベースキャンプ (予定地)へ向かっていった。
 もちろんイクシアを使わない武器は渡してあるが、さすがに今後全員にと言うのも難しいのでちゃんとイクシアと等価交換している。
 ちなみに降下ポッドは建物の素材とするためにDSへ収納済みだ。

「そろそろ降下して1週間だし、無計画な人や探索が苦手な人は食料がまずいかもしれないね?」

「ガットはともかくアイリは大丈夫だと思うが……新たに発見されたポイントも近い、今日はあと1~2カ所行こう。それに明日からは更に人手が増え、今後は更に探索が捗るはずだ」



 ちなみにチームメンバー達には多めの物資を渡してある上に、念の為、アイリとの……エンゲージの共通ストレージにも保険の物資を移してある。備えあれというやつだ。

 その後合流したチームにもアイリ達はいなかった……胸がざわつくが焦りは禁物だ。ふと、俺の手がきゅっと握られる。もちろん隣にいるフレーナだ。

「大丈夫だよエイジ~。アイリと合流してみんなで仲良くしようね♪」

「ん、そうだな」

 反対の手でフレーナの頭を撫でると子供扱いされた事にしょっとむくれた顔をした。表情がコロコロ変わる彼女のお陰で焦燥感は薄れていったのだった。
 そうだ、焦っていて心のゆとりを失うのは得策じゃ無い……考えられる最良の行動をするのみだ。



 ベースキャンプはそれなりの形になっていた。それなりのスペースを高さ10メートルほどの塀で覆い周囲を堀で囲っている。既に近くの川から引かれた水が張っているため小型のモンスターでは簡単に侵入出来ないだろう。

 塀の材質はよくわからないがファクトリーで作成可能だったもので鉄筋コンクリートより堅いらしい。掘削時に出た岩、砂と持ち込み素材で作成できた。
 ネジコの話だとここのモンスターならそのくらいで問題ないとの事……そんな感じで難しい事は殆どはAI任せにしてある。

 同じように居住スペースは塀の素材と降下ポッドの外壁素材を組み合わせたコンテナハウスっぽい物がいくつも出来上がっている。広さはチーム4人で無理なく使用出来るくらいになっている。
 こうして俺達は仲間を探しつつも拠点の完成度を上げて行く。



『ダーリン、探索ドローンが発見したニョ』

 ネジコの報告を聞いて実際にそれを確認するためにその地点に向かった。拠点からはかなり離れた場所だがパルクールで森を駆け抜ければ1日もかからずに到着出来た。

「わっ、凄い深いよ……落ちたら怪我じゃ済まないかも~」

 森が開けたその場所は深い谷……峡谷きょうこくになっていた。遙か谷の底の方から水の音が聞こえる。聞こえる音から流れが激しいようで無理に向かい側に渡るのは危険だろう。

 そして俺は探索している時にいつも確認している事があるのだが……それに気付いてしまった。

「共用DSが有効になった……アイリが近くにいる」

「本当!? あっちも森になっているから向こうが見えないよ」

 しかしそれも一瞬の事だったのか共用DSはすぐに使えなくなった。くっ、すぐにでも適当なアイテムを放り込んでおくんだった……そうすれば気付いて貰えたかも知れない。

「諦めるのはまだ早いよ、そうだ!! 木を燃やして狼煙を上げよう」

「そうだな、頼む」

 フレーナが近くの木を風の魔法で切り倒し、DSに収納して谷の近くに移動させる。
水の魔法で水分を抜いて乾燥させると火の魔法でそれを燃やした。



 木は勢いよく燃えてもくもくと煙が上がる……俺達はそれが燃え尽きるまで祈るように見届けたが、最後の煙が空へ消えても誰も現れる事は無かった。

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