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遊撃隊編

遭遇 02

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 順調にレベルアップしていくファクトリーもBまで来ると、相当な数をこなさないとレベルアップは難しいだろう。既に必要な素材もイクシアの数も生半可な量では無い。イクシアを大量に稼げる作戦でも無いと厳しいだろう……そろそろ最前線に立たせて貰えるか隊長に聞いてみようか?

 必要なイクシアの量もここまで来るとさすがにアルバイトなどでは賄えないし、そもそも艦隊内にはバイト出来る場所は無いようだ。そもそも正規兵がアルバイトとか見つかったら怒られそうだし。

 初陣からこれまで俺達は様々な作戦に参加して経験を積んでいった。文明レベルの低い惑星を保護する過程で密かに反対派を押さえ込んだり、原生生物の討伐、再び神聖銀河帝国との戦いがあったり……アーサーとゼルファの再戦も実現して面白いぐらい話しが噛み合っていた……他にも色々な作戦があったが、おかげで俺達も一端いっぱしの兵士に近づいたのでは無いかと思う。

 俺にも白兵戦任務もあったため、さすがにイクシアをファクトリー全てにぶっ込むのは危険だと感じて身体強化にも使用した。
 生身の戦闘力を上げるために少し強めの銃も製造に入ったが、これを使えるようになるにはもう少しレベルを上げる必要があるだろう。これでも以前に比べればそれなりに戦えるようになるっている。

 他にも万が一、支援が受けられないオフライン時に脳内コンピューターアドブレインで補えない計算を出来るようウルトラクォンタムコンピュータや、開発の終わった食べ物をよりハイクオリティかつ量を作成出来るフードコートなどもDS内に設置した。
 まぁ、今後必要に迫られるかわからないが、過去の作戦で何度か旗艦からの支援が受けられず作戦実行予測のための演算能力不足に陥ったり、不測の事態が起こり隊が独立してしまった時に各自DS内に準備していた食料が不足した事があったりと、ゲームでは想像もしなかったトラブルがあったからな……念には念をだ。

 周りを取り巻く環境の変化はそれ以外にもあった。

「おい、アイリ、この後付き合えよ」

「お断りよ、エイジと予定があるの」

 訓練を終えてもどる途中に声を掛けられる……アイリに流し目を送りながら長身のエルフが立っていた。アイリは冷たく返すと俺の腕にギュッと組み付いてくる……あぁ、良い感触だ。
 アーサー以外にもアイリにちょっかいを掛けてくる奴は沢山出てきた。
 特にこいつは執拗に絡んでくる奴で俺達より2年ほど先にこの世界にやって来た……名前は『ファング』。エースだらけの独立艦隊で揉まれただけあり腕はそこそこの奴だ。
 だがその実力を真面まともに振るおうとはせず人の足を引っ張ったり嫌がらせを繰り返すろくでなしだ。こいつのお陰で何度危ない目に合ったか分からない。

「そんなEXT イクストだけが取り柄の男より俺にしておけよ、軟弱な奴と違って満足させてやるぜ」

「私はエイジの全てに満足しているわ。そもそもあなたタイプじゃないし」

「けひひっ、フラれてやんの」

 ギリッと歯を食いしばったファングを揶揄からかうように隣の身長の低いドワーフが笑っている。ファングと行動を共にする一人で『ボラー』という生産系寄りの男だ。

「うるせぇ、殺すぞ」

「けひひ、八つ当たりすんなよ」

「俺は断然フレーナちゃんだね。フリーなんでしょ? 俺と付き合わない?」

 ボラーとファングを挟んだ隣にいるファング以上にひょろっとした長身の『ハリス』がフレーナに声を掛ける。こいつはEXT イクストが得意らしく仮想現実時代は一桁ランカーだったらしい……もっとも艦長と違って俺達の時にはいなかったが。

「ごめ~ん、ボクはエイジハーレムの一員だから」

 アイリと反対の腕にフレーナが組み付いてくる……おおぅ、また柔らかな暴力が俺の腕を包み込む。ってかなんだよそれ!! 初耳だぞ!! 否定しようとしたらアイリから接触会話タッチチャットが飛んでくる。

「(否定しないで話を合わせて。最近しつこいみたいで私から提案したのよ。振りだけでいいから)」

「(いや、ハーレムとか俺の立場がどうなるんだよ。非難囂々ひなんごうごうだろうが)」

「(どうもならないわ、あなたはそれが許される力を周りに示しているから)」

「(絶対嘘だ!!)」

「そ~いう事だからごめんね♪」

「けひひっ、二人ともフラれ乙」

「「てめぇ」」

 ちなみにこのボラーは男色家ゲイらしくガットに熱い視線を送っているが、本人は全く気付かずにメンチ切られたと思ってにらみ返している。

「おい、エイジ、テメェ新人のくせにハーレムとかマジで調子に乗ってんじゃねーぞ」

 アイリに相手にされないファングは俺を標的にしてくる……さて、今日も弾除けの役割を果たすとするか。

「恋愛は自由だろう? 頑張って生きていればアンタにもいい人が見つかるよ」

「タメ口きいてんじゃねーよ」

「いや、同じ分隊長だろう? ここは実力主義で年功序列じゃない。それは俺よりも2年も先にここにいるアンタならわかっているはずだよな?」

「口の減らねぇ奴だ……ならその実力を見せてやるからさしで勝負しろよ」

「じゃあ俺が勝負したくなるメリットを提示してくれ。勝ったらどんな良い事があるんだ?」

「何だ? 俺が怖いのか?」

「何だ? 耳が悪いのか? もう一回言うが、俺が勝ったらどんな良い事があるんだ?」

「ああっ!? けっ、お前が勝ったらアイリに相応しいと認めてやる」

「アホか、話にならん。そもそもお前の承認とか要らんし砂粒程度もメリットにならん」

 俺は隣にいる二人のヒロインの腰をグッと抱き寄せる。

「あん♪」

「あっ!」

「そもそも何でお前との勝負事に賭けにゃならないんだよ? もっとまともな提案しろ。力も大事だが頭も大事だからな? じゃ、そう言う事で……」

 俺は二人の腰を抱いたまま振り返って歩き出す。ガットはまだ睨まれていると思っているのかボラーににらみ返して後を追ってくる。

 顔を真っ赤にしていたファング。
 ハリスはフレーナの腰に手を回した当たりを悔しそうに見ていた。
 ボラーはけひひっと笑っていた。

 あー、こういう人間関係面倒くさいな。いや、それよりもだ……奴らの視界から外れた後に二人から手を離すと……

「フレーナの弾除けはガットじゃ駄目なのか?」

「ガットじゃ演技とかできないよ~ ねーガット、さっきのやりとりどう思った?」

「ん? そうだな、毎回思うけど、けひひっとか本当に言う奴っているんだな」

 ほらこれだよ? とばかりにこちらを見るフレーナ。くっ、今後、俺はハーレム野郎と呼ばれる事になるのか……こんな感じで俺達の日々は過ぎていった。


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 そして休暇を終えた俺達に新たな作戦が伝えられた……いよいよ奴らとの……『ヴァルシアン』との戦いだ。

『開拓惑星から救援要請が届いた……今までヴァルシアンの存在が確認されなかった星系だ』

 ……その隊長の言葉に兵達がざわついた。

 千年以上も前に現れた人類の敵……その恐ろしさは個々の戦闘能力はもちろん圧倒的な物量にある。その姿も様々な個体が存在して人間のような頭に手足の身体を持つもの、地を四つん這いで歩く獣、蛇や蜥蜴のような爬虫類だったり昆虫のような節足動物など様々なのだが、共通しているのは非常に堅い漆黒の甲殻を持っている。そして通常は緑だが敵対心を持つと赤く光る眼球を持つ事だ。
 イクシアを感知して身を隠そうと逃げようとどこまでも追いかけてくる化け物だ。

 生物でありながら戦艦のようにワープ……イクシアゲートを使わず空間を跳躍する奴らはまさに神出鬼没。俺達の旗艦であるサターン級以上の大きさでMOTHERと呼ばれるヴァルシアンも確認されており、その身体の中に万単位のヴァルシアンを格納する戦艦のような個体も存在するらしい。

 ヴァルシアンはイクシアを求めて彷徨い、見つけた人間の持つそれを身体ごと捕食する。いや、人間に限らずイクシアを持つ物は生物であろうと機械類であろうと食べるのだ……奴らに侵略された星は何も残らない死の惑星となる。

『俺達は至急救援に向かい敵を殲滅、今後の襲来に備えて常駐艦隊が配備されるまで開拓惑星を守るのが任務だ……各自、指示書を受け取り次第準備に掛かれ』

 ピコンと視界に手紙のアイコンが表示される……指示書が届いたようだ。今回は宇宙空間でのEXT イクスト戦となる。ある程度の実力のある者が戦場に出る事になる……当然俺は出撃する事が決まっている。

 新人の中では俺とEXT イクストランクの高かった『C03』クレイシュの2人くらいのようだ……意外にもアーサーは入っていない。たぶん1対1での実力は申し分ないが、今度の戦場は明らかに1対多数となるため、撃墜数や対集団戦闘能力で判断されたのかもしれない。

 選ばれなかった者は艦内待機……下手にEXT イクストで出撃して戦うよりも万が一小型ヴァルシアンが艦内に侵入した時に備える方が重要だそうだ。



「エイジだ、背中は任せるぜ」

「ササキっす、よろぴく~」

 金髪で片目を隠したキザな髪型とは裏腹にチャラいササキ。チャラい外見から想像も出来ないほどのオールレンジ攻撃が得意でEXT イクストランク12位の強者だ。万能型なので素直に『ヴォルトナイト』で出撃する。

「サーヤよ……エースの力、頼りにしてるわね」

 黒髪サイドポニーに勝ち気な瞳のサーヤ。SOFではストライクエイムの発展系EXT イクストを愛機としており、既にファクトリーにも製造依頼をしているのだが今回の作戦には間に合わなかったようだ……しかたなく支給された『ヴォルトナイト』で出撃する。

 俺達は……初めて会った訳では無いのだが改めて……自己紹介をすると立ち回りについて相談する。一応俺がリーダーと言う事になったので、その前提で攻撃パターンを決めた。
 SOF内でなら当然ヴァルシアンとの戦いは経験しているし、現実のデータを忠実に再現した物だという事で本番でテンパる事も無いだろう。
 俺達は3人でチームを組んで遠距離支援を行う予定だ。

『あと30分ほどで作戦宙域に到着する……先発隊はEXT イクスト内にて待機』

 コールメッセージが届くと3人とも拳を突き合わせた後、各自EXTのコックピットに向かった。



 今回の俺の搭乗するEXT イクストは汎用機の『メガフォート』……防御重視のEXTだ……ハイクラスのカスタム機と違い誰でも使える汎用機は希望すれば使用許可が下りる。
 通常のEXT イクストに比べると、その重量感は一線を画すだろう。胴体、腕、脚など倍以上の太さを持っている。まさに要塞といえる機体だ。
 もっともわざわざハイクラスの『ヴォルトナイト』に乗らずにコレを選ぶ物好きは俺以外にはいないと思うが……重量級EXT イクストで遠距離攻撃もそれなりに得意、近距離も頑丈なボディで耐久可能で対ヴァルシアン等の長期戦には向いているだろう。
 とにかく動きが遅くスピードの速い敵には弱いので、正確な先読みが必要な上級者向けのEXT イクスト
 特に特徴的なのは通常の腕に加えて背中から生えたもう2本の拡張腕イクスアーム……合計4本の腕を持ち、そのうち2本腕で盾を装備して防御を固めながら攻撃するという攻防一体のスタイルを得意とするのだ。

 防御重視で装甲が厚いせいか分からないが、コックピットへの入り口があまり大きく開かない作りになっている。低重力だとのでそうでも無いが、重力下だと大変そうだ。

 コックピットでDSに収納した装備を確認しようとリストを開くと、視界に何かがEXT イクストの胸部に取り付いたというメッセージが表示された……どうやら誰かがやって来たようだ。
 ハッチは開いたままだったため、その誰かが入ってくる……ガットだった。

「いよっ、元気か? ってか、このEXT イクストの入り口狭いな」

「どうしたガット、お前も待機だろう? 狭さには同感だがお前のガタイの良さも一役買っているぞ」

「出陣前に一言挨拶しておこうってな、他の二人も来ているけど狭いから一人ずつって事だ」

「大げさだな別に今生の別れじゃあるまいし、ただのひとつの作戦だぜ」

 俺は心配かけまいと平然とした態度を取る。まぁ、良い意味での緊張感は持っているつもりだ……自分がやられる心配は全くしていないが母艦がやられればどうしようも無いからな。

「そりゃ俺は心配していないがお姫様達はそうでもなさそうなんでな……まぁ、頑張ってたっぷりイクシア稼いで来いや」

「おう、まかせれ」

 俺とガットは互いの右拳みぎこぶしを突き合わせると狭い出入り口から器用に飛んで出て行った。


 そして入れ替わりでフレーナがやってくる。

「やっほ~エイジ~ 可愛いボクがお見送りに来て上げたよ~」

「そいつはどうも……って、抱きつくなって」

 出入り口からフワフワ飛んできてそのまま俺の右腕に抱きついてくる……むむむ、大きく柔らかいピンクのダブルクッションが当たっている。

 こいつの接触は今に始まった事では無いが、ロリロリしていた時の感覚でくっ付いてこられると男として困るぜ。
 何気にゲーム中に接触警告タッチワーニングで強制的に離された回数が1番多かったのはこいつだ。

「またまた~ほんと~は嬉しいくせに~♪ 無事に帰ったらアイリに内緒でもっと凄い事してあげるね~」

 凄い事? 一体どんな事だ? いやいや、こいつの冗談に付き合ってはいけない。

「……いらんから」

「いまちょっと考えた?」

「気のせいだ……それよりも万が一の艦内戦に備えてしっかり作戦立てておけよ」

「うん、そこら辺はアイリがしっかりやってくれているからだいじょ~ぶ」

 そうだろうな……アイリなら安心して任せられる。そしてこいつらの実力も同じだ。

「じゃ、終わったらいつも通り宴会だね~ またね~」

「ああ、また後でな」

 フレーナは投げキッスをすると魅力的なヒップをこちらに向けながら去って行った……違うぞ、たまたま目に入っただけだ……って俺は誰に言い訳をしているんだ。


 そして最後にアイリがやってくると彼女の瞳が目の前に迫ってきた。

「んっんっ……エイジ、あなたなら問題ないと思うけれど油断しないでね」

 熱烈なキスの後、その唇は事前の行動とは裏腹で冷静な言葉を口にする。

「もちろんだ、俺を誰だと思っている……慢心はするが油断はしない」

「あなたらしい答えね……んっ、ちゅっ」

 俺達はしばらくの間言葉を交わさずに一時いっときの別れを惜しんだ。



 アイリ達が去った後、再び装備の確認に入ろうとした……すると視界にネジコが現れる。

『ダーリン、ネジコという女がありながら他の女とイチャつくなんて酷いニョ』

「ネジコ、昨日俺がリストアップした物に漏れが無いか確認頼む」

『ガンスルーとか相変わらずダーリンはいけずニョ、でもそういう所がクールで素敵ニョ』



 ……本当に必要最低限の会話しかしていないはずなのに解せぬ。



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独立艦隊の話しをちゃんと書くか書かないかで迷って時間だけが経ってしまいましたが、とりあえず『こんなことがありました』ですませました。
こうでもしないといつまで経ってもタイトル回収できませんからね。
他にも大事な事を書き忘れて後から無理矢理この回に詰め込んだので妙に長くなりました……脳内プロットの悪い所ですね。


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