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「ちょっと待て、ちょっと待てディクセル。」
「なんだ。」

ディクセル様の言葉に唖然とする俺達の中で、一番最初に復活したのはフィニス様だった。
頭を片手で押さえながら、ディクセル様に声を掛けている。
話し掛けられたディクセル様は、何故止められているのか分からないといった態度で首を傾げた。
分からないのはこっちだよ。

「お前、ミリと付き合ってるのか?」
「付き合ってる!」

付き合ってないが!?
兄さんもディクセル様の発言に驚いて俺とディクセル様を交互に見ているけど、俺だって初耳だから!!

「だって、あの時ミリには俺が見えてた!」

続けて言われた言葉に、俺はますます混乱してしまう。
あの時って、何?
そう思うのに、さっきまで俺と同じように混乱していた筈の兄とフィニス様はその言葉を聞いて納得した顔を浮かべた。

「お前………………」
「当たり前だろうが。というか、気付くも何も、ちゃんと。」
「ねぇ、何の話?」

一体何の話なのかが分からない。
もっと俺にも分かるようにも説明して欲しい。
そう思いながら兄さんの袖を引いて説明を強請れば、兄さんとフィニス様が少し気まずそうに目を合わせ、ディクセル様は何故か俺をガン見していた。

「………あのクッキーの話だ。」

兄さんは苦虫を嚙み潰したような顔でそう言って、俺はハッとした。
そう言えば、あのクッキーは【愛してる人に見える効果】があるんだったか。
ん?
でも名前も呼べない状態だったんだし、ディクセル様には俺が誰に見えているか分からなくないか?

「抱いてた時に薬の効果が切れて、俺の名前を呼んでくれた。」

ふわりと優しい笑顔で、ディクセル様がそう言った。
なるほど、つまり薬が切れた時点でディクセル様には俺の好きな人がバレバレだった訳か。
冷静に考えればそうだよな。
薬が切れて正常な視界になったら姿が見えるし、声だって出る。
見えた姿に違和感を覚えなかったり、自分の名前をすんなりと呼ばれれば嫌でも分かる。
でもそれがどうして付き合ってるとかいう話に繋がるの?

「だから、俺とミリは恋人同士だ。」

にこっと笑って言った言葉に、一同また固まる。
うん、ちょっと意味分かんない。
どうしてそういう話になるの?って話をしたいんだよ。

「おい、その【だから】はどこに掛かってる。」
「俺もミリのことを愛していて、ミリも俺のことを愛しているんだからそれが発覚した時点で恋人同士だろ。」

………いや、それは違うだろ。
声にはけして出さないけれど、その場に居た全員がそう思った。
でもディクセル様的には本気でそう思っているらしい。
真っ直ぐに、俺の目を見てそう言ってる。

これ、別の問題が出てきてないか?

俺の中では同情して抱いた相手が勝手に自分の精液を利用して禁忌を犯していたって部分だけの話だったんだけど、ディクセル様の中ではそもそも付き合っていた恋人が仕事終わったらもっと一緒に居ようと約束したのにすっぽかして失踪したって話だ。
何なら翌日のあの状態からしてみても、もしかして、過度な自惚れとかじゃなければディクセル様の視点で言えば、散々愛し合った相手が起きたら居なかったということになってるんじゃないか?

お互いが頑なに思い込んで、それを口に出さず、ただ複雑さだけが増している。

どうするべきか………。
問題の大きさに泣きそうになった俺は、思わず兄さんとフィニス様を見る。
だが二人共、俺よりも真剣に頭を抱えているものだから何も言えなくなってしまった。
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