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―――結局、俺がディクセル様を褒める日は来なかった。
ディクセル様や兄さん達のお仕事が終わったかどうかも、正直分からない。
ディクセル様の背中を久しぶりに見送ったその日が、俺にとって激動の日になったからだ。
正確には、その日の深夜。
最近は二時間に一回位のペースで血をやっていたから、自然とその辺の時間に目が覚めた。
正直貧血気味なのもあってまだ眠いけど、世のお母さんはもっと大変なので頑張らなきゃ………そう思いながら眠たい目を擦り………正直、夢かと思った。
「えっ………?」
装置の中で眠っているのは、ほんの少し前まで………それこそ寝る前まで胎児のようなカタチをしていた筈のあの子。
だがその時見たのは、明らかに一歳位の完全に人間のカタチをした存在だった。
いやいやいや、いくら何でもおかしい。
心臓が嫌な音を立てて軋む。
確かにホムンクルスは成人の姿で生まれて来るという話だけれども、こんなにも急激に変化するものなのか?
しかも………
「あ、生まれる!」
俺は咄嗟にそう思って、ベッド代わりにしていた藁を持てるだけ持って装置の前に置いた。
何故だか、そうしないといけないと思った。
少しでも衝撃を柔らかくしないと、と。
そしてその直感は、大当たりだった。
40週になるまで変化しない筈の装置が震え出し、まるで異物を吐き出すかのように急激にガラスが開いてあの子を外に放り出した。
咄嗟にとはいえ高く積んだ藁は柔らかくあの子を受け止めたものの、それでも装置から出た勢いが強過ぎで落ちそうになってしまう。
やはりこれが完成体なのかとか、そんなことを考える暇はなかった。
下手に高さがある分、落ちてしまったら頭を打つどころの話じゃない。
折角生まれた命なのに、死んでしまうかもしれない。
そう考えるよりも早く、俺は自分の身体を更にクッションにするようにあの子を受け止めた。
小さい、けれど、温かい存在。
思えば俺よりも小さな存在なんて、初めて触ったかもしれない。
弟のお母さんが特に俺を嫌がったから弟には近付いたことなかったし、今では弟の方が体格が上だから。
「んぅ………」
結構な衝撃に感じたけれど、あの子はそうでもなかったらしくそこはホッとする。
けれどやはり寝てはいられない衝撃だったらしく、ふにゃふにゃと口元を動かしながらゆっくりと目を開けた。
ディクセル様と同じ、エメラルドを嵌め込んだような美しい瞳。
顔のパーツはどちらかと言えば俺に似ているのに、さらさらと美しいプラチナブロンドとエメラルドグリーンの瞳はディクセル様にそっくりだった。
この子は間違いなく、俺とディクセル様の子供だ。
「ぉかぁ、しゃ」
かすかすの声で、にぱっと笑う。
俺に似た顔なのに、世界一可愛く見えるから不思議だ。
護らなきゃ、護らなきゃ。
この子を絶対に。
フィニス様はお忙しいのにお弁当だけは必ず届けてくれる。
親になるならば、しっかりと栄養を取らないといけないからと。
その時に相談しよう。
俺は決意を新たにギュッと兄から貰った小袋の紐を握り締めた。
ここに居てはダメだ。
ディクセル様にバレるからとかそういう問題じゃなくて、他人に平気で暴力を奮えるカミラが好き勝手振舞えているこの場所は、少なくともこの小さな命には外よりも危険だと思うから。
ディクセル様や兄さん達のお仕事が終わったかどうかも、正直分からない。
ディクセル様の背中を久しぶりに見送ったその日が、俺にとって激動の日になったからだ。
正確には、その日の深夜。
最近は二時間に一回位のペースで血をやっていたから、自然とその辺の時間に目が覚めた。
正直貧血気味なのもあってまだ眠いけど、世のお母さんはもっと大変なので頑張らなきゃ………そう思いながら眠たい目を擦り………正直、夢かと思った。
「えっ………?」
装置の中で眠っているのは、ほんの少し前まで………それこそ寝る前まで胎児のようなカタチをしていた筈のあの子。
だがその時見たのは、明らかに一歳位の完全に人間のカタチをした存在だった。
いやいやいや、いくら何でもおかしい。
心臓が嫌な音を立てて軋む。
確かにホムンクルスは成人の姿で生まれて来るという話だけれども、こんなにも急激に変化するものなのか?
しかも………
「あ、生まれる!」
俺は咄嗟にそう思って、ベッド代わりにしていた藁を持てるだけ持って装置の前に置いた。
何故だか、そうしないといけないと思った。
少しでも衝撃を柔らかくしないと、と。
そしてその直感は、大当たりだった。
40週になるまで変化しない筈の装置が震え出し、まるで異物を吐き出すかのように急激にガラスが開いてあの子を外に放り出した。
咄嗟にとはいえ高く積んだ藁は柔らかくあの子を受け止めたものの、それでも装置から出た勢いが強過ぎで落ちそうになってしまう。
やはりこれが完成体なのかとか、そんなことを考える暇はなかった。
下手に高さがある分、落ちてしまったら頭を打つどころの話じゃない。
折角生まれた命なのに、死んでしまうかもしれない。
そう考えるよりも早く、俺は自分の身体を更にクッションにするようにあの子を受け止めた。
小さい、けれど、温かい存在。
思えば俺よりも小さな存在なんて、初めて触ったかもしれない。
弟のお母さんが特に俺を嫌がったから弟には近付いたことなかったし、今では弟の方が体格が上だから。
「んぅ………」
結構な衝撃に感じたけれど、あの子はそうでもなかったらしくそこはホッとする。
けれどやはり寝てはいられない衝撃だったらしく、ふにゃふにゃと口元を動かしながらゆっくりと目を開けた。
ディクセル様と同じ、エメラルドを嵌め込んだような美しい瞳。
顔のパーツはどちらかと言えば俺に似ているのに、さらさらと美しいプラチナブロンドとエメラルドグリーンの瞳はディクセル様にそっくりだった。
この子は間違いなく、俺とディクセル様の子供だ。
「ぉかぁ、しゃ」
かすかすの声で、にぱっと笑う。
俺に似た顔なのに、世界一可愛く見えるから不思議だ。
護らなきゃ、護らなきゃ。
この子を絶対に。
フィニス様はお忙しいのにお弁当だけは必ず届けてくれる。
親になるならば、しっかりと栄養を取らないといけないからと。
その時に相談しよう。
俺は決意を新たにギュッと兄から貰った小袋の紐を握り締めた。
ここに居てはダメだ。
ディクセル様にバレるからとかそういう問題じゃなくて、他人に平気で暴力を奮えるカミラが好き勝手振舞えているこの場所は、少なくともこの小さな命には外よりも危険だと思うから。
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