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その日から何か大きく変わった………とか、そういうことはなかった。
ディクセル様の代わりに小隊長さんが来て、ディクセル様がカミラと一緒に居ることが多くなって、そして俺は何だかんだホムンクルスに付きっきりになった。
それ位だ。

「小隊長さんは、俺と一緒に居てカミラ様に怒られない?」

失礼を承知で、俺は小隊長さんに気になったことを聞いてみた。
小隊長さんは兄さんに一番信用されてる人だし………多分だけど、兄さんの恋人だ。
だからついついちょっとだけ甘えてしまう。

「俺はほら、顔が良い訳じゃないからな。」

俺の言葉に小隊長さんは笑ったけど、どう意味か首を傾げてしまう。
小隊長さんは確かにディクセル様みたいにすごく顔が整ってる訳じゃないけど、普通に爽やかな男前って感じの人だ。
俺的にはディクセル様とは違うベクトルで格好良いと思うんだけどなぁ。

「カミラは昔から面食いだから。」
「面食い?」
「んー、カミラの場合は格好良い顔が好きってことかな。特に中性的じゃなくて、男前な顔がね。」

じゃあ、やっぱり小隊長さんもだ!
俺がそう言うと小隊長さんは目をぱちくりとさせたと思ったら、お腹を抱えて笑い始めた。
なんでだよ。

「いや、ごめんごめん。ただ、オルフェと同じことを言うものだから、つい。」

まだ面白いことなんて何も言ってないのにと口を尖らせる俺に、小隊長さんはひーひーと息も絶え絶えになりながらそう言った。
兄さんと、一緒?
首を傾げる俺に、小隊長さんは俺の頭を撫でながら昔話をしてくれた。
兄さんと出会った時の話から、ディクセル様の学生の頃の話まで。
俺と、未だただの材料のままになっているホムンクルスに色んな話を聞かせてくれた。

「………学園、楽しそう。」
「全部終わったらになるけど、ミリも学園に通わないか?オルフェがミリが望むなら通わせたいと言っていたし、俺もそうした方が良いと思う。」

学ぶのは大事だよ。
そう小隊長さんは優しい口調で言ってくれたけど、俺は首を横に振る。
言いたいことは分かる。
でも、俺はもう決めたのだ。
それはきっと兄さんや小隊長さんに頼ることになるけれど、俺にとっては大きな夢だった。

「行かない。俺、この子がちゃんとヒトの形になったら、二人で生きていこうと思うんだ。普通の親子って、そうなんでしょう?」

ホムンクルスと、落ちこぼれた俺。
普通なんて何一つない俺達だけど、慎ましやかになったとしても普通の親子をやってみたかった。
こんな風にこそこそしないで、きっと貧乏だろうけど親子二人でしっかり生きていきたいと思うから。

「うーん………一概にそうとは言えないけど………でもそうだね、ミリはこの子のお母さんだもんね。」
「俺、お母さんなの?」
「ミリの血で育てるならそうなるんじゃないかな?多分これ、外付けの胎盤みたいなものなんだよ。」

なるほど、その発想は無かった。
やっぱり兄さんの恋人になるのに相応しい人なんだな。
理解力高いし、説明も分かりやすい。

「………には、本当に教えなくて良いの?」

寂しそうな顔で、小隊長さんはそう言った。
誰のことなんて、言わなくても分かる。
精子の相手である、ディクセル様のことだろう。
でも、どう考えても望まれてない子供だ。
小隊長さんは錬金術師の兄さんの恋人だから柔軟な考えが出来るんだろうけど、他の人は違う。
特に、ディクセル様のような真面目な人は。
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