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「あー、びっくりした。」

一人だけになった空間で、俺はホッと息を吐いた。
あの後すぐ、弟であるカミラが納屋の扉が壊れるんじゃないかって勢いで乱入してきた。
どうやらディクセル様を探していたらしい。
あまりに姿が見えないものだから、まさかと思ってここに来たらしい。

『何でアンタみたいなドブネズミと一緒に居るの!?』

キーキーと騒ぎ出すカミラを、最初は俺もディクセル様もカミラを宥めていたのだけど、ヒステリーを起こしたカミラは止まらない。
とうとう干していた道具を投げそうになってしまったから、慌ててディクセル様がカミラを抱き締めるようにして止めた。
………その瞬間、胸がほんの少しズキズキしたのは、きっと気の所為だ。

『私が、彼のもとを訪ねたのです。さぁ、用があるのは私なのでしょう?』

そう言うと小さな、それでいて俺よりも体躯の大きなカミラの身体を軽々と抱き上げてそのまま出て行った。
きっと、ディクセル様はもう来ないだろう。
カミラのヒステリックは激しいし、すぐ飽きるクセに諦めが悪い。
自分の要求が叶うまで、ヒステリックに怒鳴り散らしたり暴れたりして周りに迷惑をかけまくる。
宥めるには、要求を叶えてやるしかない。
飽きやすいとはいえ、わざわざ忌み嫌ってる俺が居る納屋にまで探しに来るくらいだ。
ディクセル様にかなり執着していることは丸分かりだった。
そう簡単に飽きることはないだろうし、仮に飽きたとしても俺が関わっている以上手放しもしないだろう。
俺に施しをしてしまうと、感じてしまうから。

「ミリ、今日は何を手伝ったら良い?」
「えっ………?」

だというのに、翌日になるとまるで何事も無かったかとようにディクセル様は納屋に現れた。
どうして?という疑問や、またカミラが来たらどうしようという恐怖が一気に全身を駆け巡る。

「カミラのことを気にしてる?大丈夫だよ。もう来ないから。」

驚き固まる俺にディクセル様はあっさりとそう言うと、俺が持っていた掃除道具を取り上げて俺がしようとしていた掃き掃除を開始してしまった。
いやいやいや!
もう来ないだなんてそんな慰め、あっさり信じる訳にはいかないし、そもそも毎回毎回なんで納屋掃除を手伝おうとしているんだ!

「来ないって、でも………!それに、掃除は手伝わなくて大丈夫です!」

取り返そうとすると、ひょいと頭上に掲げられてしまう。
子供かよ!
俺とディクセル様は体格差は勿論だが、身長差もかなりある。
それなのに頭上に高々と掲げられると取り返せない。
何度も何度も、助走をつけてジャンプしても指先一つ掠らない。

「………ふっ」
「わ、笑わないでください!」

必死に取ろうとする俺を、ディクセル様はすごく楽しそうに笑った。
笑ったっていっても、どう見ても嘲笑だ。
馬鹿にして!

「すまない。ただ、私がしたくてしたいことだから奪わないで欲しい。」

怒りを露わにする俺に、ディクセル様は困ったような笑顔でそう言った。
………そんな顔されると、俺が悪いみたいじゃないか。
でも、どうして俺に構うんだろうか?
癒しだって昨日は言ってたけど、多分、それだけじゃないと思う。
だって、こんなにも鈍臭くて不器用な、見目も良くない人間なんて傍に置いてて本当に癒される訳ないじゃないか。
あんな言葉に騙される程、俺は馬鹿じゃない。

「………わ、かりました………」
「ありがとう。」

諦めて溜息を吐く俺に、ディクセル様は満足そうに笑いながら掃き掃除を再開した。
そもそも、こんなしょうもない言い合いしている時間なんて無い。
早く納屋を片付けてしまわないと、兄から何を言われるか分からない。
どうせ、ディクセル様は兄と一緒にここを去るのだから。
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