6 / 78
4
しおりを挟む
「あー、びっくりした。」
一人だけになった空間で、俺はホッと息を吐いた。
あの後すぐ、弟であるカミラが納屋の扉が壊れるんじゃないかって勢いで乱入してきた。
どうやらディクセル様を探していたらしい。
あまりに姿が見えないものだから、まさかと思ってここに来たらしい。
『何でアンタみたいなドブネズミと一緒に居るの!?』
キーキーと騒ぎ出すカミラを、最初は俺もディクセル様もカミラを宥めていたのだけど、ヒステリーを起こしたカミラは止まらない。
とうとう干していた道具を投げそうになってしまったから、慌ててディクセル様がカミラを抱き締めるようにして止めた。
………その瞬間、胸がほんの少しズキズキしたのは、きっと気の所為だ。
『私が、彼のもとを訪ねたのです。さぁ、用があるのは私なのでしょう?』
そう言うと小さな、それでいて俺よりも体躯の大きなカミラの身体を軽々と抱き上げてそのまま出て行った。
きっと、ディクセル様はもう来ないだろう。
カミラのヒステリックは激しいし、すぐ飽きるクセに諦めが悪い。
自分の要求が叶うまで、ヒステリックに怒鳴り散らしたり暴れたりして周りに迷惑をかけまくる。
宥めるには、要求を叶えてやるしかない。
飽きやすいとはいえ、わざわざ忌み嫌ってる俺が居る納屋にまで探しに来るくらいだ。
ディクセル様にかなり執着していることは丸分かりだった。
そう簡単に飽きることはないだろうし、仮に飽きたとしても俺が関わっている以上手放しもしないだろう。
俺に施しをしてしまうと、感じてしまうから。
「ミリ、今日は何を手伝ったら良い?」
「えっ………?」
だというのに、翌日になるとまるで何事も無かったかとようにディクセル様は納屋に現れた。
どうして?という疑問や、またカミラが来たらどうしようという恐怖が一気に全身を駆け巡る。
「カミラのことを気にしてる?大丈夫だよ。もう来ないから。」
驚き固まる俺にディクセル様はあっさりとそう言うと、俺が持っていた掃除道具を取り上げて俺がしようとしていた掃き掃除を開始してしまった。
いやいやいや!
もう来ないだなんてそんな慰め、あっさり信じる訳にはいかないし、そもそも毎回毎回なんで納屋掃除を手伝おうとしているんだ!
「来ないって、でも………!それに、掃除は手伝わなくて大丈夫です!」
取り返そうとすると、ひょいと頭上に掲げられてしまう。
子供かよ!
俺とディクセル様は体格差は勿論だが、身長差もかなりある。
それなのに頭上に高々と掲げられると取り返せない。
何度も何度も、助走をつけてジャンプしても指先一つ掠らない。
「………ふっ」
「わ、笑わないでください!」
必死に取ろうとする俺を、ディクセル様はすごく楽しそうに笑った。
笑ったっていっても、どう見ても嘲笑だ。
馬鹿にして!
「すまない。ただ、私がしたくてしたいことだから奪わないで欲しい。」
怒りを露わにする俺に、ディクセル様は困ったような笑顔でそう言った。
………そんな顔されると、俺が悪いみたいじゃないか。
でも、どうして俺に構うんだろうか?
癒しだって昨日は言ってたけど、多分、それだけじゃないと思う。
だって、こんなにも鈍臭くて不器用な、見目も良くない人間なんて傍に置いてて本当に癒される訳ないじゃないか。
あんな言葉に騙される程、俺は馬鹿じゃない。
「………わ、かりました………」
「ありがとう。」
諦めて溜息を吐く俺に、ディクセル様は満足そうに笑いながら掃き掃除を再開した。
そもそも、こんなしょうもない言い合いしている時間なんて無い。
早く納屋を片付けてしまわないと、兄から何を言われるか分からない。
どうせ、ディクセル様は兄と一緒にここを去るのだから。
一人だけになった空間で、俺はホッと息を吐いた。
あの後すぐ、弟であるカミラが納屋の扉が壊れるんじゃないかって勢いで乱入してきた。
どうやらディクセル様を探していたらしい。
あまりに姿が見えないものだから、まさかと思ってここに来たらしい。
『何でアンタみたいなドブネズミと一緒に居るの!?』
キーキーと騒ぎ出すカミラを、最初は俺もディクセル様もカミラを宥めていたのだけど、ヒステリーを起こしたカミラは止まらない。
とうとう干していた道具を投げそうになってしまったから、慌ててディクセル様がカミラを抱き締めるようにして止めた。
………その瞬間、胸がほんの少しズキズキしたのは、きっと気の所為だ。
『私が、彼のもとを訪ねたのです。さぁ、用があるのは私なのでしょう?』
そう言うと小さな、それでいて俺よりも体躯の大きなカミラの身体を軽々と抱き上げてそのまま出て行った。
きっと、ディクセル様はもう来ないだろう。
カミラのヒステリックは激しいし、すぐ飽きるクセに諦めが悪い。
自分の要求が叶うまで、ヒステリックに怒鳴り散らしたり暴れたりして周りに迷惑をかけまくる。
宥めるには、要求を叶えてやるしかない。
飽きやすいとはいえ、わざわざ忌み嫌ってる俺が居る納屋にまで探しに来るくらいだ。
ディクセル様にかなり執着していることは丸分かりだった。
そう簡単に飽きることはないだろうし、仮に飽きたとしても俺が関わっている以上手放しもしないだろう。
俺に施しをしてしまうと、感じてしまうから。
「ミリ、今日は何を手伝ったら良い?」
「えっ………?」
だというのに、翌日になるとまるで何事も無かったかとようにディクセル様は納屋に現れた。
どうして?という疑問や、またカミラが来たらどうしようという恐怖が一気に全身を駆け巡る。
「カミラのことを気にしてる?大丈夫だよ。もう来ないから。」
驚き固まる俺にディクセル様はあっさりとそう言うと、俺が持っていた掃除道具を取り上げて俺がしようとしていた掃き掃除を開始してしまった。
いやいやいや!
もう来ないだなんてそんな慰め、あっさり信じる訳にはいかないし、そもそも毎回毎回なんで納屋掃除を手伝おうとしているんだ!
「来ないって、でも………!それに、掃除は手伝わなくて大丈夫です!」
取り返そうとすると、ひょいと頭上に掲げられてしまう。
子供かよ!
俺とディクセル様は体格差は勿論だが、身長差もかなりある。
それなのに頭上に高々と掲げられると取り返せない。
何度も何度も、助走をつけてジャンプしても指先一つ掠らない。
「………ふっ」
「わ、笑わないでください!」
必死に取ろうとする俺を、ディクセル様はすごく楽しそうに笑った。
笑ったっていっても、どう見ても嘲笑だ。
馬鹿にして!
「すまない。ただ、私がしたくてしたいことだから奪わないで欲しい。」
怒りを露わにする俺に、ディクセル様は困ったような笑顔でそう言った。
………そんな顔されると、俺が悪いみたいじゃないか。
でも、どうして俺に構うんだろうか?
癒しだって昨日は言ってたけど、多分、それだけじゃないと思う。
だって、こんなにも鈍臭くて不器用な、見目も良くない人間なんて傍に置いてて本当に癒される訳ないじゃないか。
あんな言葉に騙される程、俺は馬鹿じゃない。
「………わ、かりました………」
「ありがとう。」
諦めて溜息を吐く俺に、ディクセル様は満足そうに笑いながら掃き掃除を再開した。
そもそも、こんなしょうもない言い合いしている時間なんて無い。
早く納屋を片付けてしまわないと、兄から何を言われるか分からない。
どうせ、ディクセル様は兄と一緒にここを去るのだから。
98
お気に入りに追加
185
あなたにおすすめの小説
もう人気者とは付き合っていられません
花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。
モテるのは当然だ。でも――。
『たまには二人だけで過ごしたい』
そう願うのは、贅沢なのだろうか。
いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。
「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。
ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。
生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。
※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中
婚約破棄したら隊長(♂)に愛をささやかれました
ヒンメル
BL
フロナディア王国デルヴィーニュ公爵家嫡男ライオネル・デルヴィーニュ。
愛しの恋人(♀)と婚約するため、親に決められた婚約を破棄しようとしたら、荒くれ者の集まる北の砦へ一年間行かされることに……。そこで人生を変える出会いが訪れる。
*****************
「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく(https://www.alphapolis.co.jp/novel/221439569/703283996)」の番外編です。ライオネルと北の砦の隊長の後日談ですが、BL色が強くなる予定のため独立させてます。単体でも分かるように書いたつもりですが、本編を読んでいただいた方がわかりやすいと思います。
※「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく」の他の番外編よりBL色が強い話になりました(特に第八話)ので、苦手な方は回避してください。
※完結済にした後も読んでいただいてありがとうございます。
評価やブックマーク登録をして頂けて嬉しいです。
※小説家になろう様でも公開中です。
この道を歩む~転生先で真剣に生きていたら、第二王子に真剣に愛された~
乃ぞみ
BL
※ムーンライトの方で500ブクマしたお礼で書いた物をこちらでも追加いたします。(全6話)BL要素少なめですが、よければよろしくお願いします。
【腹黒い他国の第二王子×負けず嫌いの転生者】
エドマンドは13歳の誕生日に日本人だったことを静かに思い出した。
転生先は【エドマンド・フィッツパトリック】で、二年後に死亡フラグが立っていた。
エドマンドに不満を持った隣国の第二王子である【ブライトル・ モルダー・ヴァルマ】と険悪な関係になるものの、いつの間にか友人や悪友のような関係に落ち着く二人。
死亡フラグを折ることで国が負けるのが怖いエドマンドと、必死に生かそうとするブライトル。
「僕は、生きなきゃ、いけないのか……?」
「当たり前だ。俺を残して逝く気だったのか? 恨むぞ」
全体的に結構シリアスですが、明確な死亡表現や主要キャラの退場は予定しておりません。
闘ったり、負傷したり、国同士の戦争描写があったります。
本編ド健全です。すみません。
※ 恋愛までが長いです。バトル小説にBLを添えて。
※ 攻めがまともに出てくるのは五話からです。
※ タイトル変更しております。旧【転生先がバトル漫画の死亡フラグが立っているライバルキャラだった件 ~本筋大幅改変なしでフラグを折りたいけど、何であんたがそこにいる~】
※ ムーンライトノベルズにも投稿しております。
獣人の子供が現代社会人の俺の部屋に迷い込んできました。
えっしゃー(エミリオ猫)
BL
突然、ひとり暮らしの俺(会社員)の部屋に、獣人の子供が現れた!
どっから来た?!異世界転移?!仕方ないので面倒を見る、連休中の俺。
そしたら、なぜか俺の事をママだとっ?!
いやいや女じゃないから!え?女って何って、お前、男しか居ない世界の子供なの?!
会社員男性と、異世界獣人のお話。
※6話で完結します。さくっと読めます。
天涯孤独になった少年は、元兵士の優しいオジサンと幸せに生きる
ir(いる)
BL
ファンタジー。最愛の父を亡くした後、恋人(不倫相手)と再婚したい母に騙されて捨てられた12歳の少年。30歳の元兵士の男性との出会いで傷付いた心を癒してもらい、恋(主人公からの片思い)をする物語。
※序盤は主人公が悲しむシーンが多いです。
※主人公と相手が出会うまで、少しかかります(28話)
※BL的展開になるまでに、結構かかる予定です。主人公が恋心を自覚するようでしないのは51話くらい?
※女性は普通に登場しますが、他に明確な相手がいたり、恋愛目線で主人公たちを見ていない人ばかりです。
※同性愛者もいますが、異性愛が主流の世界です。なので主人公は、男なのに男を好きになる自分はおかしいのでは?と悩みます。
※主人公のお相手は、保護者として主人公を温かく見守り、支えたいと思っています。
竜王陛下、番う相手、間違えてますよ
てんつぶ
BL
大陸の支配者は竜人であるこの世界。
『我が国に暮らすサネリという夫婦から生まれしその長子は、竜王陛下の番いである』―――これが俺たちサネリ
姉弟が生まれたる数日前に、竜王を神と抱く神殿から発表されたお触れだ。
俺の双子の姉、ナージュは生まれる瞬間から竜王妃決定。すなわち勝ち組人生決定。 弟の俺はいつかかわいい奥さんをもらう日を夢みて、平凡な毎日を過ごしていた。 姉の嫁入りである18歳の誕生日、何故か俺のもとに竜王陛下がやってきた!? 王道ストーリー。竜王×凡人。
20230805 完結しましたので全て公開していきます。
騎士は魔石に跪く
叶崎みお
BL
森の中の小さな家でひとりぼっちで暮らしていたセオドアは、ある日全身傷だらけの男を拾う。ヒューゴと名乗った男は、魔女一族の村の唯一の男であり落ちこぼれの自分に優しく寄り添ってくれるようになった。ヒューゴを大事な存在だと思う気持ちを強くしていくセオドアだが、様々な理由から恋をするのに躊躇いがあり──一方ヒューゴもセオドアに言えない事情を抱えていた。
魔力にまつわる特殊体質騎士と力を失った青年が互いに存在を支えに前を向いていくお話です。
ムーンライトノベルズ様でも投稿しています。
オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる
クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる