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しがない町役場の事務員をしている俺は、かつては【錬金術師】と呼ばれる存在だった。
とはいえ、俺は生まれつき不器用だった。
正確性が基本であり総てである錬金術師にとっては致命傷で、俺は所謂落ちこぼれという奴だった。
俺の父は中堅所の錬金術師で、俺の事を恥だと切り捨て優秀な兄弟達を愛した。
当然だ。
幸い、雑用や事務的なことは得意だったので、父が亡くなったあとも時に兄に罵声を浴びせられ弟に暴力を奮われながらも必死になれば生きていけた。

そんなある日、俺は兄に納屋の掃除を言い渡された。
納屋と言ってるが言ってるのは兄と弟だけで、元は父が作業場として使っていた場所だ。
だから錬金術師にとってとても貴重な物もあるのではないかと思うけど、全て処分しろ、終わるまで出るなと言われたからやるしかない。
………何が起きた時、俺の所為にするつもりなんだろうなと理解もしていた。
だから俺は父の使っていた道具類を、納屋(仮)の地下に丁寧に運んだ。
地下への扉は、簡単には行けない。
別に難しい仕組みがある訳じゃなくて、普通に扉の取手が壊れてる上に噛み合わせが悪くなったから開け方にコツがいるってだけだ。
コツさえ分かれば、地下室の外からでも中からでも開けれる。
けれども父が愛した兄と弟はそれを知らない。
俺なんかが使って申し訳ないとは思うけど、格好の隠れ場所だった。

錬金術で使う道具類は、繊細だ。
ほんの少しのミスで壊れてしまうから、不器用な俺は慎重に慎重を重ねて少しずつ地下に運んだ。
ご飯は元々ろくに食べてなかったし、お腹が空いたらこっそりと家の裏口に戻って丁稚から残飯を受け取った。

「もっと食べなさい。こんな屑みたいな物しか渡せないけれど。」
「大丈夫、しっかりたくさん食べてるよ。いつもありがとう。」

兄達が不機嫌になるから、丁稚達はいつもこっそりと話し掛けてくれる。それだけで、涙が出る程嬉しい。
それでも長居は出来ない。そんな多くの荷物も持てない。
俺はお礼を言って両手に持てる分だけを持ってひっそりと後にして、そうして地下室でまるで虫やネズミのようにコソコソと隠れながらご飯を食べていた。
それでも俺は、虚しいとは思わなかった。
これが普通だったから、悔しさも怒りも湧かなかった。
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