ボクらがケモノをやめたなら

かかし

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「あー!暇~!!!」

吉塚の元気な声が、個室の病室内に響く。
別に個室じゃなくていいしそんな金は無いと思っていたのだが、今回の件をかなり心配している石重のコネでの個室だし今回の治療費は全て実行犯である男子生徒達の親が出すらしいと聞いて吉塚は何も言わずに甘えている。
相当な金だろうとは思うが、吉塚だってかなり苦しい思いをさせられた被害者だ。

「暇で何よりだろ。」

そんな不貞腐れる吉塚の頭を、事情聴取も兼ねて見舞いに来ていた百瀬がくしゃくしゃと撫で回した。
セカンドレイプになるかもしれない話を、吉塚は百瀬にならば話してやると告げた。
本来身内が関わる犯罪に関しては公平性が欠けてしまう恐れがあるのだが、百瀬の立場から吉塚は非常に遠い立場になる。
何せパートナーの母親の元旦那の居た家の分家の子供だ。
長いし遠い。
だから大丈夫だろうと高を括ってそう告げた時、結構揉めたらしいが未遂とはいえ未成年に対する性犯罪だということもあり結果的には承諾された。

「………ねぇ、あの人どうなんの?」
「前科はつくが初犯だからな………わりとあっさり出て来るだろう。執行猶予もつく可能性が高い。」
「ふぅん」

現実なんてそんなもんだよな、と吉塚は欠伸を一つ。
辛かったし怖かったのは事実だが、裁かれましためでたしめでたしとはならない。
まぁ、吉塚に手を出して百瀬の手を煩わせた時点で石重に喧嘩を売ったようなものなので、報復や継続したストーカー行為に関しては気にも止めていないが。

「吉塚の家に生まれて良かった。」
「吉塚の家に生まれたからこその面倒事でもあったがな。」

確かに。
しかし吉塚が吉塚の家に生まれなかったらきっとあの男は逮捕に至らなかったろうし、仮に逮捕されたとしても直ぐに出て来て吉塚をまた拐かしたろう。
どっちにしても、監禁快感堕ちエンドまっしぐらだ。

「ま、学生は学生らしく勉強でもしてろ。レオンが毎日ノート持って来てくれてるだろ?」

ちょいちょいと、百瀬はベッドテーブルの上にあるルーズリーフ数枚を指で突いた。
高城がその日の授業の内容を分かりやすく、それでいて簡潔にまとめたモノだ。
いくつかの教科は更に分かりやすくまとめられている。
恐らくは吉塚の苦手科目、もしくは興味の無い科目なのだろうと百瀬には簡単に予想がついた。

「してるもん。俺頭良いし。」
「勉強しているは本当でも、頭良いは大嘘だろ。」

吉塚は確かに頭が悪い訳ではないが、だからといって良い訳でもない。
その状態でムラもあるから、赤点ギリギリな時だってある。
総合点では確かに康田よりも高いが、一つ一つの差は大きかった。

「頑張れば忠恒に説教されずに済むぞ。レオンだってお前の為にこんな面倒な事してんだろ?」
「分かってる………」

分かっている。
高城がわざわざ自分自身の分と吉塚の分とでノートを取っていることも、赤点ギリギリでなく余裕を持った点数を取れば将来を心配してくれる石重から説教されないことも、なんならちゃんと勉強頑張らないと最近は蒔田から勉強教えてもらっているから今回のテストでは総合点で差をつけられる可能性があることも。
しかしそれとこれとは話が別だ、吉塚は唇を尖らせながら寝転んだ。

「まぁ明後日で退院なんだ。もうちょい我慢しろ。」

百瀬はそう言うと、そろそろ仕事に戻ると病室を出て行った。
話し相手も居ない、しんとした病室。
先程以上の暇さ加減に、吉塚は諦めたように溜息を吐いて高城お手製のルーズリーフと筆記用具を手に取った。
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