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結論として、高城と吉塚は放課後に盗聴器とカメラを持って放課後に警察に行くことになった。
朝一番に持って行こうとも思って話をしていたのだが、颯太が至急で防犯カメラの設置と鍵の交換を依頼してくれてその工事が朝一に来る手筈となったらしい。
途中でグループ通話に切り替えて四人で話し合った結果、そもそもいつ侵入される家に居るよりはいつも通り学校に行った方が安全ではないかという事になった。

だが夜はどうしようもない。

吉塚の知り合いの警察関係者はどうしても動けない事情があってこちらに来ることはできない。
颯太が離れに泊まると主張したが、あの母親はそれを許さない。
逆に離れに襲撃するだろう。
それはまた別の意味で危険だ。

「ヨッシー、今日は俺の部屋おいで。一緒に寝よう。」
「お前の部屋じゃなくてお前が居座っている部屋だし、俺はソファベッドに寝る。」

二人で一部屋に固まって今夜を乗り切る。
どういう意味を含んだストーカーなのか、それはまだ分かっていない。
性愛を含んだものなのか、それとも単純に暴力的なものだけなのか。
その何れかでも対応は変わるのだが、高城は恐らく性愛だろうなと踏んでいた。
吉塚は身長が低く地味な顔だが、だからこそ加虐心を唆るのだ。

「ダメだよヨッシー。ソファベッドは扉の近くだから危ないし、別々に寝てたら何かあったら反応が遅れるでしょ?」

高城が最もらしい理屈を捏ねれば、吉塚は不満そうな顔をしながらも渋々高城が居るベッドの方へ歩み寄った。
そういう所なんだよなぁ………
吉塚は警戒心が強いが、根は素直だ。
思わぬ所で無防備にこちらの方へ飛び込んでくるのだから、高城はいつもヒヤヒヤしていた。
だからこそ、高城はあの日誰よりも早く吉塚を拾い上げた。

元々高城はゲイよりのバイで、ストレートではない。
ひょんなことから中学生の頃にその事が厳格なクリスチャンである母親にバレてしまい、ハーフで美しい母を常に優先させる父親から当然庇われることもなく。
高城は矯正という名の暴言洗脳から逃れるために自分名義の口座と印鑑だけ持って逃げ出した。
口座の中に入っていた金は、盗まれたのなんだのと後々言われるのが嫌で全額引き出して机の上に置いておくというおまけ付きで。
世間体を気にする人だったので、学校に来て暴れられたりされなかったのがせめてもの救いだった。

逃げ出してからは、援助交際をして金と寝床を稼いだ。
幸い顔は良かったので、条件を多少厳しくしたところで食いっぱぐれることもなく、また変な【客】を掴むこともなかった。
家に一度も帰ることはしなかった。
それでもある程度金が貯まったタイミングで、いつでも心配してくれていたカナダに在住の母方の祖父には全てを話した。
彼も厳格なクリスチャンだったので、援助交際は当たり前に叱られたが、それでもストレートではないことを個性と受け入れてくれた。
援助交際を叱った文句だって、いつか出会うお前の大切な人に隠し事をしなくてはならないような事はやめなさいというものだった。

言えなくなる程に大切な人に、本当に会えるのだろうか。

結局高校に入学して暫くは援助交際をやめなかった。
ただ、不特定多数とではなくて、ただ金を使いたいだけの特定の人間とのいつでも辞めれる愛人関係のようなものにシフトチェンジしたのだが、それでもなんとなく辞めることが出来なかった。
愛人の家に泊まれば、食事を気にする事はない。
そうなると金の使い所が分からなくて、精々同年代の子達より少しランクの高い服に使う程度だ。

それでもひたすら増えていく通帳の残高にそろそろうんざりしていた頃に、高城は席替えで隣の席になった吉塚を認識した。

背は小さく、地味な見た目と性格の陰キャ眼鏡。
正直得意なタイプではないなと思っていたけれど、授業で分からないことや興味がないと途端に落書きをし出すところや、口を開けば案外口が悪いところ。
それでいて律儀で礼儀正しい所など………切欠なんてまるでないのに、それでも次の席替えまでの三ヶ月の間、高城はどんどん吉塚に惹かれていった。
吉塚がストレートなのは明らかだから分かっている。
それでも目で追ったり、気配を探ったりするのを止められなかった。

『レオンってそんなに分かりやすいと思わなかった。』

ケラケラと共に居る女子達から笑われたけれど、だからといって吉塚を気にしないことなんてもうできなかった。
吉塚の目からは、きっと高城がまるで猫のようにするりと懐に入り込んだように見えただろう。
今高城は、吉塚に対して沢山の秘密を抱えたまま居座っている状態だ。
吉塚が何も言わないのを良いことに、両親と絶縁状態なこともその理由も援助交際のことも、そして高城が抱く吉塚に対する気持ちも、何一つ秘密にして。
それは今こうして吉塚をつけ狙っているストーカーと何が違うというのだと、自分の中に居る自分が軽蔑したような顔で見ている。
そんな状態で守りたいなどと、どの口が言っているのだと吠えている。

「高城。」
「うん?」
「図々しいと思うかもしれないけど、俺、高城が居てくれて良かったって思ってる。ありがとう。」

それでも、吉塚はそんな高城を何も聞かないで受け入れてくれる。
話せない秘密ばかりを抱いている高城だが、この信頼だけはけっして裏切りたくないと思う。
例えいつかバレてしまって傍に居れなくなってしまうその日まで、高城は吉塚を守り続けたかった。
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