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「だからなんで張り合うの。」
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「………っと、これで最後か?」
「うん!後は捨てるヤツばかりだから、外に捨てて来ようか。」
結局、車に積んだのはダンボール三箱とテレビデオだけになった。
布団と冷蔵庫は、元々買い換えるつもりだったから大丈夫だと言われてしまい………。
ちなみに家主には予め相談して、冷蔵庫やら布団位は外のゴミ捨て場に置いてても構わないという許可は貰っていたらしい。
良い案だと思ったのに。
ちょっと拗ねた気持ちになりながらも、ゴミを指定の場所に置いて行く。
冷蔵庫だけは流石に一人で持ち運ぶのはキツかったので二人で。
ただ、本当に荷物が少な過ぎて、昼飯挟んで全部運び終わってもまだ夕方前だという事態。
大変かと思ってたけど、そうでもなかった。
「終わった………後は掃除するだけだね。」
「だな。ちゃっちゃとやるか。」
「うん。」
狭い部屋だが、家具家電が無くなるだけでこうも広く感じるものなのか。
俺と康介、手分けしてかなり丁寧に掃除しても二時間弱で終了。
つまり晩飯前には、全部完了した訳だ。
「ねぇねぇ、耀司くん。」
「ん?」
「ちょっと僕のセンチメンタルに付き合って。」
後はもう帰るだけという段階で、康介がそう言って俺に寄り掛かった。
可愛い。
まぁ、今回のことがなければもう少し住める筈だった訳だし、センチメンタルな気持ちにだってなるだろう。
「良いぞ。」
「ん。じゃあ遠慮なく。あのね、僕がここに住むようになったの、上京した時からなんだ。」
「じゃあかなり長い時間住んでたんだな。」
その割には、物が少ないように思える。
康介自身、物欲が無いようには思えない。
金だって、いくら窓際部署だからって俺とそんなに差がある筈もない。
最初に持ってきた荷物が少なかったのか、それとも理由があるのか………
「僕とこの部屋の思い出って、ダンボール三箱分しかなかったんだね。」
そう少なくない時間を暮らしてきて、捨てた荷物も多少あるとはいえそれでも少ない。
しんみりと言われたこの言葉に、どれほどの思いを込めたんだろうか。
俺にはよく分からないが、すごく重たいようにも感じる。
「じゃあ俺ん家来たらもっともっと増やせよ。」
それこそトラック使わなきゃいけねぇ位、大量に。
今日みたいに引っ越すことがあったら、それこそすっげぇ大変になる位、俺との思い出が混じった【モノ】を増やして欲しい。
この言葉が正解だったのかどうかなんて、今も分からない。
でも泣きそうな顔をして俺に抱き着いてくれたから、きっと正解だったと信じたい。
「………うん!うん!」
「あとさ、」
必死に頷く康介を俺自身も縋るように抱きしめる。
ガラにも緊張してしまうのは、恐怖からもあるんだろうか。
口の中がすっげぇ乾く。
「そろそろ、お試しやめて本気で付き合わねぇ?」
色良い返事はもらえるんじゃないかという、期待はある。
一緒に住むことも受け入れてくれた訳だし。
でも相性の良い友人で居てくれとか言われたら本気で死ねるんだが。
怖い。
そう思われている可能性もゼロじゃない。
「………僕、嫉妬深くて重いけど良いの?」
「良い。寧ろ俺のが嫉妬深いし重い。」
「なんで張り合うの。」
くすくすと笑う声は聞こえるけど、明確な答えが貰えなくて不安になる。
ぐりぐりと肩口に額を擦り付けてアピールすれば、更に楽しそうに笑われる。
「ねぇ、好きだよ。」
「うん。」
「耀司くん、ちょっと顔上げて。」
「ん?」
言われた通りに顔を少し上げれば、鼻を軽く甘噛みされて触れるだけのキスをされる。
いつもする、遊びみたいなキス。
でもそこに込められた意味は、きっと俺の期待通りの―――
「僕を恋人に、してくれますか?」
「する!てか俺が康介の恋人になる………!」
「だからなんで張り合うの。」
俺の背中を宥めるように撫でながら、何度も頬にキスをしてくれる。
嘘を吐いたままじゃないかと、俺の中の俺が叱り飛ばす声が聞こえる。
でも、このぬくもりも笑顔も手放したくはない。
確かに嘘から始まった話だが、今、康介を好きだということは何よりも事実なのだから。
「うん!後は捨てるヤツばかりだから、外に捨てて来ようか。」
結局、車に積んだのはダンボール三箱とテレビデオだけになった。
布団と冷蔵庫は、元々買い換えるつもりだったから大丈夫だと言われてしまい………。
ちなみに家主には予め相談して、冷蔵庫やら布団位は外のゴミ捨て場に置いてても構わないという許可は貰っていたらしい。
良い案だと思ったのに。
ちょっと拗ねた気持ちになりながらも、ゴミを指定の場所に置いて行く。
冷蔵庫だけは流石に一人で持ち運ぶのはキツかったので二人で。
ただ、本当に荷物が少な過ぎて、昼飯挟んで全部運び終わってもまだ夕方前だという事態。
大変かと思ってたけど、そうでもなかった。
「終わった………後は掃除するだけだね。」
「だな。ちゃっちゃとやるか。」
「うん。」
狭い部屋だが、家具家電が無くなるだけでこうも広く感じるものなのか。
俺と康介、手分けしてかなり丁寧に掃除しても二時間弱で終了。
つまり晩飯前には、全部完了した訳だ。
「ねぇねぇ、耀司くん。」
「ん?」
「ちょっと僕のセンチメンタルに付き合って。」
後はもう帰るだけという段階で、康介がそう言って俺に寄り掛かった。
可愛い。
まぁ、今回のことがなければもう少し住める筈だった訳だし、センチメンタルな気持ちにだってなるだろう。
「良いぞ。」
「ん。じゃあ遠慮なく。あのね、僕がここに住むようになったの、上京した時からなんだ。」
「じゃあかなり長い時間住んでたんだな。」
その割には、物が少ないように思える。
康介自身、物欲が無いようには思えない。
金だって、いくら窓際部署だからって俺とそんなに差がある筈もない。
最初に持ってきた荷物が少なかったのか、それとも理由があるのか………
「僕とこの部屋の思い出って、ダンボール三箱分しかなかったんだね。」
そう少なくない時間を暮らしてきて、捨てた荷物も多少あるとはいえそれでも少ない。
しんみりと言われたこの言葉に、どれほどの思いを込めたんだろうか。
俺にはよく分からないが、すごく重たいようにも感じる。
「じゃあ俺ん家来たらもっともっと増やせよ。」
それこそトラック使わなきゃいけねぇ位、大量に。
今日みたいに引っ越すことがあったら、それこそすっげぇ大変になる位、俺との思い出が混じった【モノ】を増やして欲しい。
この言葉が正解だったのかどうかなんて、今も分からない。
でも泣きそうな顔をして俺に抱き着いてくれたから、きっと正解だったと信じたい。
「………うん!うん!」
「あとさ、」
必死に頷く康介を俺自身も縋るように抱きしめる。
ガラにも緊張してしまうのは、恐怖からもあるんだろうか。
口の中がすっげぇ乾く。
「そろそろ、お試しやめて本気で付き合わねぇ?」
色良い返事はもらえるんじゃないかという、期待はある。
一緒に住むことも受け入れてくれた訳だし。
でも相性の良い友人で居てくれとか言われたら本気で死ねるんだが。
怖い。
そう思われている可能性もゼロじゃない。
「………僕、嫉妬深くて重いけど良いの?」
「良い。寧ろ俺のが嫉妬深いし重い。」
「なんで張り合うの。」
くすくすと笑う声は聞こえるけど、明確な答えが貰えなくて不安になる。
ぐりぐりと肩口に額を擦り付けてアピールすれば、更に楽しそうに笑われる。
「ねぇ、好きだよ。」
「うん。」
「耀司くん、ちょっと顔上げて。」
「ん?」
言われた通りに顔を少し上げれば、鼻を軽く甘噛みされて触れるだけのキスをされる。
いつもする、遊びみたいなキス。
でもそこに込められた意味は、きっと俺の期待通りの―――
「僕を恋人に、してくれますか?」
「する!てか俺が康介の恋人になる………!」
「だからなんで張り合うの。」
俺の背中を宥めるように撫でながら、何度も頬にキスをしてくれる。
嘘を吐いたままじゃないかと、俺の中の俺が叱り飛ばす声が聞こえる。
でも、このぬくもりも笑顔も手放したくはない。
確かに嘘から始まった話だが、今、康介を好きだということは何よりも事実なのだから。
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