ウソツキは権利だけは欲する

かかし

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二ヶ月目

自覚、あんのかよ。

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一ヶ月は思ったよりも早く経過した。
大きく変わったことといえば、部屋には行かないとはいえ康介を住んでるアパートまで送るようになったことと、そこまで送る前に駅じゃなくて人気の無い公園の駐車場に停めるようになったこと位か。
何の為に?
決まってる。

「んっ、耀司く、ん」

思いっきりイチャつくためだ。
今日も今日とて駐車場に停めて座席を倒してキスをする。
別に手を出す訳じゃない。
カーセックスは車壊れそうで嫌だし、そもそもお試しだっつーのに手を出したら軽い奴って見られる可能性が高い。
そうなったら折角のお試しが台無しになるだろうから、手を出したくねぇ訳じゃないが手は出さないと決めている。
とはいえスキンシップは取りたいので、こうして夜な夜な車の中でキスをしたり手を繋いだりとガキくせぇスキンシップで誤魔化すことにしている。

「よーじくん、おこってる?」

散々唇を食まれ、舌を甘噛され………息も絶え絶えで涙目になっている康介が、ゆっくりと身体を離した俺の頬をゆっくりと撫でた。
思わずムッと眉根を寄せてしまうのは、仕方ないことだろう。
別にこの甘やかな雰囲気を邪魔されたからじゃない。

「自覚、あんのかよ。」
「うん。ごめんね、僕が仕事遅いから待たせちゃったもんね。」

康介が俺の首に腕を回し、ぐっと引き寄せた。
その力の流れに逆らうことなく康介に抱き着けば、まるで子供をあやすようなゆっくりとした動作で俺の後頭部を優しく撫でてくれる。
きもちいい、けど。

「………さみしかった。」

康介の首元に擦り寄りながら、素直に言葉を口にする。
ここまで自分自身がダメになるとは思わなかった。
けれど康介は俺がどれだけ寄りかかっても拒絶せずに受け入れてくれる。
だったら康介はその責任を取るべきだ。

「うん、寂しい思いさせてごめんね。」
「ん。」

俺達は会社の中では相変わらず【今まで関わったことのない同期】の顔をする。
視線が交わっても、自然と逸らし会話一つしない。
それが【今までの俺達】だから、そこを貫き通さなければ隠せないからだ。
だからこそ、このトータル二時間にも満たない時間がどれ程貴重なことか。

「僕ね、今日言ってみたんだ。」
「………なにを?」
「勝手に仕事追加して来ようとした先輩に、僕の仕事じゃないから置かないでくださいって。」

康介の言葉に、俺は思わず顔を上げる。
穏やかに微笑んでいる康介だが、会社では大人しく窓際に居るような康介が逆らったとなると、雰囲気が悪くなったりイジメに発展したりとかしないのか?
大丈夫なのか?

「そんな顔しないでよー。」
「どんな顔だよ。」
「心配でたまらないって顔。」

けらけらと笑いながら、康介が俺の頭をぐしゃぐしゃと掻き混ぜるが、心配するに決まっている。
ただでさえ、康介の居る場所は所謂【島流し】先だから、ピリついた奴か楽することしか考えてない無能ばかりが集まっている場所だ。
そんな中で一番下っ端の康介が逆らうことで起こりうるリスクはデカい。

「大丈夫だよ。遅く帰って寂しがりやで甘えたの恋人を悲しませたくないんですって言っておいたから。」

何が大丈夫なのかが分からない。
けれども康介が楽しそうなことが、何よりも恋人だと言ってもらえたことが嬉しくてたまらない。

「俺のことかよ。」
「君以外に誰が居るの?」

照れくさくて生意気な口を叩けば、康介が俺の額にキスをしながらそう言った。
お試し期間中なのは、ちゃんと分かっているし覚えている。
それでも康介がちゃんと【恋人】だと公言したのだから、康介の今の恋人は正真正銘俺だ。

「明日はもうちょい早く終わりそうか?」
「君程優秀じゃないけどね。なるべく早く終わらせるよ。」

じゃれつくように顎に甘噛すれば、楽しそうに康介が笑ってそう言った。
二人きりならこうしたスキンシップがOKになるのだから、尚更なるべく早く終わらせて欲しい。
………残業すんなよ、という大前提はもう諦めた。

「今週も、デートする?」
「する。」

デートはする。
当たり前だろ。
康介の予定が入ってない限りは俺のために空けてもらう。

「即答だねー。お家デートする?お外行く?」
「家。………と、ちょっと外。レンタル屋行ってセール品漁ろうぜ。」

この間入ってた広告で、近所の個人経営のレンタルDVD屋がレンタル落ち品の処分セールを週末に開催するという報せがあった。
俺が時々行くレンタル屋で、レンタル落ち品だから物によっては商品状態がめちゃくちゃ酷いものもあれば、かなり品質も良いやつもあって軽い運試し感覚で時折漁りに行く場所だ。
懐かしい作品もあったりするから、どうせなら一緒に漁りたい。

「なにそれ楽しそう!」
「楽しいぞ。クソみたいなやつ引いたりするけどな。」

そんなクソみたいなやつを康介は引き当てそうだなと思ったし、でもきっと俺達二人なら、そんなクソみたいなDVDの裏面だけで、ゲラゲラと笑っていられるんだろうなとも思った。
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