7 / 74
一ヶ月目
だからデートするんだろ、ばーか
しおりを挟む
「そういえば、映画観た後どうする?」
いつものように最寄駅へと送る道程で、初日よりはだいぶリラックスした様子で助手席に座る康介に俺はふとそう聞いた。
もうすぐ目的地に着くタイミングだったが、明日一緒に映画観ることは決めたもののその後どうするか全く考えてなかったことを思い出したからだ。
勢いのまま朝一番の上映時間のチケットを取ったが………時間的に昼過ぎに終わるだろうから昼飯は食うにしても、その後どう動くか。
「えっ?映画観たら解散じゃないの?」
「馬鹿か?」
馬鹿か。
コイツ馬鹿か。
デートだっつってんだろ。
もしかして今までの彼氏にもこんな態度取ってたんじゃないだろうな?
だとしたら相当の馬鹿だぞ。
「デートなのにか?」
「デートだけどもさ!まだ付き合って一週間も経ってないんだよ!」
なんだその謎理論。
付き合いたてだからこそデートを重ねてお互いを理解するもんだろ。
デート=セックスという考えなら分からんでもない理論だが、流石に康介はそんな考えを持ってる訳じゃないだろう。
だとしたら歴代の彼氏がそういう考えだったとかか?
「一週間も経ってないから何だよ。」
変なこと言われたらどうしようかと考えながら、取り敢えず聞いてみる。
おい、なんで顔を赤くするんだよ。
変にもじもじさせんなや。
運転に集中できなくなるだろうが。
「だからさ………その、長時間一緒に居るの慣れてない、から………」
「はぁ?」
なんだそれ。
なんだそれ。
もしかして、恥ずかしいとでも続ける気か?
お前、今時高校生でももっと進んだ恋愛するぞ。
初心者か?
恋愛初心者なのか?
「だからデートするんだろ、ばーか。」
「よ、幼稚園児並の罵倒………」
思わず口に出た言葉に、康介が呆れたような声でそう言った。
呆れたようなっつか、ミラー越しに見える表情ももろに呆れているのがムカつく。
なんで俺が呆れられなきゃいけねぇんだよ。
「幼稚園児並で結構。お前も幼稚園児並の恋愛観してるんだからな。」
「なにそれ。ボクだってそれなりの恋愛観はしてるし。」
拗ねたような尖った声に、思わず笑いが込み上げてくる。
それなりって何だよ。
そもそもそれなりの奴は映画観ただけで終わりなんて謎なデートプラン組まねぇよ。
「映画観ただけで、喋る時間も設けずにいるつもりか?見合いでも飯でも食って話に花咲かすだろ。」
「まぁ、確かに?」
ちょっと小首を傾げながらも、俺の至って当たり前な言い分に康介は頷いた。
とはいえ少し不機嫌そうな言い方なのが笑える。
分かりはするけど納得できないと言いたいのがありありと分かる、拗ねた子供のような口調。
まだ付き合って数日ではあるけれど、コイツは意外と頑固だということはもうイヤという程分かっている。
「だから、な?映画終わったら取り敢えず昼飯食いに行くぞ。」
「うーん………」
康介程度にもったいないなと思いながら、俺はめいっぱいキメた声で言ってみる。
スルーはされたものの、それでも検討する余地はあるようだ。
うんうんと唸りながらも、昼飯に行くか行かないかを悩み始めた。
そこまで悩むことか?
「昼飯食ってゆっくり話そうぜ?」
「何を?」
「いっぱい、いろいろ。」
例えばこの短いドライブでは途中で終わってしまって足りないような、そんな話をたくさん。
思えば例の元カレ以外に踏み込んだ話もできてないから、元カレの話は聞きたくないがもっと別の、趣味以外のプライベートの話も聞きたい。
ほら、そうこうしてるともう駅だしな。
路肩に止めてハンドルに寄りかかりながらそう提案してみる。
「例えば?」
「好きな物とか、昔の話とか。」
「昔々あるところに?」
「違ぇよ。」
にやにやとしながらからかってきた康介の頭を、ぐしゃぐしゃと掻き混ぜるように撫でてやる。
けらけらと楽しそうに声を上げる康介の笑い声を、一体何人の男が知っているのだろうかと、ふと、気になった。
つまらねえ冗談を言いたがる時があることも、我慢せずに言って一人で勝手に恥ずかしがって拗ねだすことも、一体何人の男が見てきたのだろうか。
「話そう。明日、いっぱい。」
「うん、いっぱい話す。」
少しだけもやついた気持ちを抑えるように、康介の額に俺の額を重ねる。
まるで女にするような行動を、それでも康介は嬉しそうに受け入れてくれる。
近くなった距離を拒絶せず、はにかんだような照れ笑いで笑ってくれた。
可愛げもない、どこにでも居るような男の顔。
それなのに可愛いと思ってしまったり、キスしたいと思ってしまうのは………気の所為だと思いたい。
「明日どうする?迎えに行くか?」
「ん………まだ恥ずかしいから、まだいい。」
まだ、というからにはいつかは迎えに行っても良いということか?
額を突き合わせたまま、頬を撫でる。
掌の上にほんの僅かに乗せられた体重と暖かさを、俺は誰かと付き合って初めて手放し難いと感じた。
いつものように最寄駅へと送る道程で、初日よりはだいぶリラックスした様子で助手席に座る康介に俺はふとそう聞いた。
もうすぐ目的地に着くタイミングだったが、明日一緒に映画観ることは決めたもののその後どうするか全く考えてなかったことを思い出したからだ。
勢いのまま朝一番の上映時間のチケットを取ったが………時間的に昼過ぎに終わるだろうから昼飯は食うにしても、その後どう動くか。
「えっ?映画観たら解散じゃないの?」
「馬鹿か?」
馬鹿か。
コイツ馬鹿か。
デートだっつってんだろ。
もしかして今までの彼氏にもこんな態度取ってたんじゃないだろうな?
だとしたら相当の馬鹿だぞ。
「デートなのにか?」
「デートだけどもさ!まだ付き合って一週間も経ってないんだよ!」
なんだその謎理論。
付き合いたてだからこそデートを重ねてお互いを理解するもんだろ。
デート=セックスという考えなら分からんでもない理論だが、流石に康介はそんな考えを持ってる訳じゃないだろう。
だとしたら歴代の彼氏がそういう考えだったとかか?
「一週間も経ってないから何だよ。」
変なこと言われたらどうしようかと考えながら、取り敢えず聞いてみる。
おい、なんで顔を赤くするんだよ。
変にもじもじさせんなや。
運転に集中できなくなるだろうが。
「だからさ………その、長時間一緒に居るの慣れてない、から………」
「はぁ?」
なんだそれ。
なんだそれ。
もしかして、恥ずかしいとでも続ける気か?
お前、今時高校生でももっと進んだ恋愛するぞ。
初心者か?
恋愛初心者なのか?
「だからデートするんだろ、ばーか。」
「よ、幼稚園児並の罵倒………」
思わず口に出た言葉に、康介が呆れたような声でそう言った。
呆れたようなっつか、ミラー越しに見える表情ももろに呆れているのがムカつく。
なんで俺が呆れられなきゃいけねぇんだよ。
「幼稚園児並で結構。お前も幼稚園児並の恋愛観してるんだからな。」
「なにそれ。ボクだってそれなりの恋愛観はしてるし。」
拗ねたような尖った声に、思わず笑いが込み上げてくる。
それなりって何だよ。
そもそもそれなりの奴は映画観ただけで終わりなんて謎なデートプラン組まねぇよ。
「映画観ただけで、喋る時間も設けずにいるつもりか?見合いでも飯でも食って話に花咲かすだろ。」
「まぁ、確かに?」
ちょっと小首を傾げながらも、俺の至って当たり前な言い分に康介は頷いた。
とはいえ少し不機嫌そうな言い方なのが笑える。
分かりはするけど納得できないと言いたいのがありありと分かる、拗ねた子供のような口調。
まだ付き合って数日ではあるけれど、コイツは意外と頑固だということはもうイヤという程分かっている。
「だから、な?映画終わったら取り敢えず昼飯食いに行くぞ。」
「うーん………」
康介程度にもったいないなと思いながら、俺はめいっぱいキメた声で言ってみる。
スルーはされたものの、それでも検討する余地はあるようだ。
うんうんと唸りながらも、昼飯に行くか行かないかを悩み始めた。
そこまで悩むことか?
「昼飯食ってゆっくり話そうぜ?」
「何を?」
「いっぱい、いろいろ。」
例えばこの短いドライブでは途中で終わってしまって足りないような、そんな話をたくさん。
思えば例の元カレ以外に踏み込んだ話もできてないから、元カレの話は聞きたくないがもっと別の、趣味以外のプライベートの話も聞きたい。
ほら、そうこうしてるともう駅だしな。
路肩に止めてハンドルに寄りかかりながらそう提案してみる。
「例えば?」
「好きな物とか、昔の話とか。」
「昔々あるところに?」
「違ぇよ。」
にやにやとしながらからかってきた康介の頭を、ぐしゃぐしゃと掻き混ぜるように撫でてやる。
けらけらと楽しそうに声を上げる康介の笑い声を、一体何人の男が知っているのだろうかと、ふと、気になった。
つまらねえ冗談を言いたがる時があることも、我慢せずに言って一人で勝手に恥ずかしがって拗ねだすことも、一体何人の男が見てきたのだろうか。
「話そう。明日、いっぱい。」
「うん、いっぱい話す。」
少しだけもやついた気持ちを抑えるように、康介の額に俺の額を重ねる。
まるで女にするような行動を、それでも康介は嬉しそうに受け入れてくれる。
近くなった距離を拒絶せず、はにかんだような照れ笑いで笑ってくれた。
可愛げもない、どこにでも居るような男の顔。
それなのに可愛いと思ってしまったり、キスしたいと思ってしまうのは………気の所為だと思いたい。
「明日どうする?迎えに行くか?」
「ん………まだ恥ずかしいから、まだいい。」
まだ、というからにはいつかは迎えに行っても良いということか?
額を突き合わせたまま、頬を撫でる。
掌の上にほんの僅かに乗せられた体重と暖かさを、俺は誰かと付き合って初めて手放し難いと感じた。
13
お気に入りに追加
115
あなたにおすすめの小説
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
君に望むは僕の弔辞
爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。
全9話
匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意
表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿

僕はお別れしたつもりでした
まと
BL
遠距離恋愛中だった恋人との関係が自然消滅した。どこか心にぽっかりと穴が空いたまま毎日を過ごしていた藍(あい)。大晦日の夜、寂しがり屋の親友と二人で年越しを楽しむことになり、ハメを外して酔いつぶれてしまう。目が覚めたら「ここどこ」状態!!
親友と仲良すぎな主人公と、別れたはずの恋人とのお話。
⚠️趣味で書いておりますので、誤字脱字のご報告や、世界観に対する批判コメントはご遠慮します。そういったコメントにはお返しできませんので宜しくお願いします。
大晦日あたりに出そうと思ったお話です。

学園の俺様と、辺境地の僕
そらうみ
BL
この国の三大貴族の一つであるルーン・ホワイトが、何故か僕に構ってくる。学園生活を平穏に過ごしたいだけなのに、ルーンのせいで僕は皆の注目の的となってしまった。卒業すれば関わることもなくなるのに、ルーンは一体…何を考えているんだ?
【全12話になります。よろしくお願いします。】


2度目の恋 ~忘れられない1度目の恋~
青ムギ
BL
「俺は、生涯お前しか愛さない。」
その言葉を言われたのが社会人2年目の春。
あの時は、確かに俺達には愛が存在していた。
だが、今はー
「仕事が忙しいから先に寝ててくれ。」
「今忙しいんだ。お前に構ってられない。」
冷たく突き放すような言葉ばかりを言って家を空ける日が多くなる。
貴方の視界に、俺は映らないー。
2人の記念日もずっと1人で祝っている。
あの人を想う一方通行の「愛」は苦しく、俺の心を蝕んでいく。
そんなある日、体の不調で病院を受診した際医者から余命宣告を受ける。
あの人の電話はいつも着信拒否。診断結果を伝えようにも伝えられない。
ーもういっそ秘密にしたまま、過ごそうかな。ー
※主人公が悲しい目にあいます。素敵な人に出会わせたいです。
表紙のイラストは、Picrew様の[君の世界メーカー]マサキ様からお借りしました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる