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番外編
運命とは多岐に渡る
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内村淳也の祖父である内村亮一郎と、篠宮和麻の祖父である篠宮晃太郎は親友同士である。
庭師と主人という身分の差はあれど、妥協しない職人気質の亮一郎と気高くそれでいて頑固な晃太郎は昔から仲が良かった。
だがしかし、仲が良く気質が合う分、意見が相違した時の激しさは周りが震え上がる程に激しかった。
「バカモン!淳也はうちの跡取りじゃ!!譲らんぞ!寧ろ和麻を寄越せ!」
「なーにが跡取りだバーカ!!和麻はうちの子!淳也もうちの子じゃ!!」
麗らかな空の下、高齢者男性の怒鳴り合う声が響く。
最近雇われた使用人はあまりの剣幕に怯えていたが、他の面々は亮一郎の弟子の庭師達も含めてまたかという呆れ顔を見せた。
そう頻繁に起こることではないが、こういった言い争いもわりと起こることもある。
「お、親方………お二人はどうしたんですか?」
「気にするな!どうせいつものことだ!」
新人庭師の一人が恐る恐る亮一郎の息子であり淳也の父でもある太一へ話し掛けたが、そう言って豪快に笑うだけで欲しかった回答は貰えなかった。
話の中心はこの度同性婚をすることになった淳也と和麻であることであるのは分かるのだが、どういう意図で二人が喧嘩しているのかが理解出来ない。
もしや反対なのかと新人は首を傾げた。
メールβとメールΩとの結婚話だ。
法整備もされてないどころか、そもそも前例の無い組み合わせ。
反対するのも仕方ない話ではある。
「「淳也はどう思う!?」」
そう思っていたのに、急に渦中の淳也に話を振ったのだから新人はますます驚いた。
前例が無いとは言え、まだ日が浅い新人にも分かる程に和麻と淳也は互いを尊重し合い愛し合っていた。
二人が結婚すると聞いた際も嫌悪も驚きもなく、新人が抱いたのはやっぱりそうなのかという納得だけだった。
「そうですねぇ………俺は婿入りでも嫁入りでも、和麻さんが幸せならばどちらでも。」
そんな二人をネタに身勝手に言い争い意見を求めるなんてと新人は他人事ながら憤慨していると、淳也はのんびりとした口調のままそう返していた。
そこで漸く、新人は勘違いに気付く。
もしかして反対ではなく、もっと別の何かが理由なのではないかと。
でないと、あんなにも和麻を愛している淳也がこんな突き放したようにも聞こえる言い方をする筈がないと、新人はそう信じたかった。
「ですが現実問題、俺が婿入りするのが良いでしょうね。嫁入りしてしまっては幾ら血の繋がりがあるといえ、内村の嫁である以上篠宮の家と和麻さんに主従関係が生じてしまいます。それは和麻さんにとってストレスになってしまいますので俺の本意じゃありません。」
作業する手を止めることなく淡々とそう述べる淳也に、新人はちょっと唖然としてしまった。
和麻の感情や立場を考慮した発言ではあるが、そこに淳也の感情も立場も一切感じさせない。
和麻のことだけを考えた、和麻のためだけの発言。
「庭師の仕事はどうする。」
「何もしないことは和麻さんが嫌がるので、二人で一緒に続ける予定です。後は継げませんが。」
太一の問いに、淳也は至って当たり前のようにそう言った。
親子とは思えないその温度感に呆然とする新人を他所に、太一は腹の底から楽しいと言わんばかりの笑い声を響かせた。
何が楽しいと思ったのかもさっぱりだ。
「………なんか、淳也さんってドライなんですか?」
「あー、アイツは坊ちゃんと会った時から坊ちゃんしか見てねぇよ。坊ちゃんか、坊ちゃん以外かって思想。」
そっとその場から少し離れて、今度は苦笑していて事の成り行きを見ていた先輩庭師に疑問をぶつけてみると、そんなどこぞのNo.1ホストみたいな台詞を言われてしまう。
そんな生き方したことがないし、しようとも思わない。
生き辛くないのだろうかと首を傾げると、先輩庭師は新人に言った。
「運命の番なんだから、そういうもんじゃないか?」
庭師と主人という身分の差はあれど、妥協しない職人気質の亮一郎と気高くそれでいて頑固な晃太郎は昔から仲が良かった。
だがしかし、仲が良く気質が合う分、意見が相違した時の激しさは周りが震え上がる程に激しかった。
「バカモン!淳也はうちの跡取りじゃ!!譲らんぞ!寧ろ和麻を寄越せ!」
「なーにが跡取りだバーカ!!和麻はうちの子!淳也もうちの子じゃ!!」
麗らかな空の下、高齢者男性の怒鳴り合う声が響く。
最近雇われた使用人はあまりの剣幕に怯えていたが、他の面々は亮一郎の弟子の庭師達も含めてまたかという呆れ顔を見せた。
そう頻繁に起こることではないが、こういった言い争いもわりと起こることもある。
「お、親方………お二人はどうしたんですか?」
「気にするな!どうせいつものことだ!」
新人庭師の一人が恐る恐る亮一郎の息子であり淳也の父でもある太一へ話し掛けたが、そう言って豪快に笑うだけで欲しかった回答は貰えなかった。
話の中心はこの度同性婚をすることになった淳也と和麻であることであるのは分かるのだが、どういう意図で二人が喧嘩しているのかが理解出来ない。
もしや反対なのかと新人は首を傾げた。
メールβとメールΩとの結婚話だ。
法整備もされてないどころか、そもそも前例の無い組み合わせ。
反対するのも仕方ない話ではある。
「「淳也はどう思う!?」」
そう思っていたのに、急に渦中の淳也に話を振ったのだから新人はますます驚いた。
前例が無いとは言え、まだ日が浅い新人にも分かる程に和麻と淳也は互いを尊重し合い愛し合っていた。
二人が結婚すると聞いた際も嫌悪も驚きもなく、新人が抱いたのはやっぱりそうなのかという納得だけだった。
「そうですねぇ………俺は婿入りでも嫁入りでも、和麻さんが幸せならばどちらでも。」
そんな二人をネタに身勝手に言い争い意見を求めるなんてと新人は他人事ながら憤慨していると、淳也はのんびりとした口調のままそう返していた。
そこで漸く、新人は勘違いに気付く。
もしかして反対ではなく、もっと別の何かが理由なのではないかと。
でないと、あんなにも和麻を愛している淳也がこんな突き放したようにも聞こえる言い方をする筈がないと、新人はそう信じたかった。
「ですが現実問題、俺が婿入りするのが良いでしょうね。嫁入りしてしまっては幾ら血の繋がりがあるといえ、内村の嫁である以上篠宮の家と和麻さんに主従関係が生じてしまいます。それは和麻さんにとってストレスになってしまいますので俺の本意じゃありません。」
作業する手を止めることなく淡々とそう述べる淳也に、新人はちょっと唖然としてしまった。
和麻の感情や立場を考慮した発言ではあるが、そこに淳也の感情も立場も一切感じさせない。
和麻のことだけを考えた、和麻のためだけの発言。
「庭師の仕事はどうする。」
「何もしないことは和麻さんが嫌がるので、二人で一緒に続ける予定です。後は継げませんが。」
太一の問いに、淳也は至って当たり前のようにそう言った。
親子とは思えないその温度感に呆然とする新人を他所に、太一は腹の底から楽しいと言わんばかりの笑い声を響かせた。
何が楽しいと思ったのかもさっぱりだ。
「………なんか、淳也さんってドライなんですか?」
「あー、アイツは坊ちゃんと会った時から坊ちゃんしか見てねぇよ。坊ちゃんか、坊ちゃん以外かって思想。」
そっとその場から少し離れて、今度は苦笑していて事の成り行きを見ていた先輩庭師に疑問をぶつけてみると、そんなどこぞのNo.1ホストみたいな台詞を言われてしまう。
そんな生き方したことがないし、しようとも思わない。
生き辛くないのだろうかと首を傾げると、先輩庭師は新人に言った。
「運命の番なんだから、そういうもんじゃないか?」
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