勝ち組ブスオメガの奇妙な運命

かかし

文字の大きさ
上 下
12 / 14
番外編

運命とは多岐に渡る

しおりを挟む
内村淳也の祖父である内村亮一郎と、篠宮和麻の祖父である篠宮晃太郎は親友同士である。
庭師と主人という身分の差はあれど、妥協しない職人気質の亮一郎と気高くそれでいて頑固な晃太郎は昔から仲が良かった。
だがしかし、仲が良く気質が合う分、意見が相違した時の激しさは周りが震え上がる程に激しかった。

「バカモン!淳也はうちの跡取りじゃ!!譲らんぞ!寧ろ和麻を寄越せ!」
「なーにが跡取りだバーカ!!和麻はうちの子!淳也もうちの子じゃ!!」

麗らかな空の下、高齢者男性の怒鳴り合う声が響く。
最近雇われた使用人はあまりの剣幕に怯えていたが、他の面々は亮一郎の弟子の庭師達も含めてまたかという呆れ顔を見せた。
そう頻繁に起こることではないが、こういった言い争いもわりと起こることもある。

「お、親方………お二人はどうしたんですか?」
「気にするな!どうせいつものことだ!」

新人庭師の一人が恐る恐る亮一郎の息子であり淳也の父でもある太一へ話し掛けたが、そう言って豪快に笑うだけで欲しかった回答は貰えなかった。
話の中心はこの度同性婚をすることになった淳也と和麻であることであるのは分かるのだが、どういう意図で二人が喧嘩しているのかが理解出来ない。
もしや反対なのかと新人は首を傾げた。
メールβとメールΩとの結婚話だ。
法整備もされてないどころか、そもそも前例の無い組み合わせ。
反対するのも仕方ない話ではある。

「「淳也はどう思う!?」」

そう思っていたのに、急に渦中の淳也に話を振ったのだから新人はますます驚いた。
前例が無いとは言え、まだ日が浅い新人にも分かる程に和麻と淳也は互いを尊重し合い愛し合っていた。
二人が結婚すると聞いた際も嫌悪も驚きもなく、新人が抱いたのはやっぱりそうなのかという納得だけだった。

「そうですねぇ………俺は婿入りでも嫁入りでも、和麻さんが幸せならばどちらでも。」

そんな二人をネタに身勝手に言い争い意見を求めるなんてと新人は他人事ながら憤慨していると、淳也はのんびりとした口調のままそう返していた。
そこで漸く、新人は勘違いに気付く。
もしかして反対ではなく、もっと別の何かが理由なのではないかと。
でないと、あんなにも和麻を愛している淳也がこんな突き放したようにも聞こえる言い方をする筈がないと、新人はそう信じたかった。

「ですが現実問題、俺が婿入りするのが良いでしょうね。嫁入りしてしまっては幾ら血の繋がりがあるといえ、内村の嫁である以上篠宮の家と和麻さんに主従関係が生じてしまいます。それは和麻さんにとってストレスになってしまいますので俺の本意じゃありません。」

作業する手を止めることなく淡々とそう述べる淳也に、新人はちょっと唖然としてしまった。
和麻の感情や立場を考慮した発言ではあるが、そこに淳也の感情も立場も一切感じさせない。
和麻のことだけを考えた、和麻のためだけの発言。

「庭師の仕事はどうする。」
「何もしないことは和麻さんが嫌がるので、二人で一緒に続ける予定です。後は継げませんが。」

太一の問いに、淳也は至って当たり前のようにそう言った。
親子とは思えないその温度感に呆然とする新人を他所に、太一は腹の底から楽しいと言わんばかりの笑い声を響かせた。
何が楽しいと思ったのかもさっぱりだ。

「………なんか、淳也さんってドライなんですか?」
「あー、アイツは坊ちゃんと会った時から坊ちゃんしか見てねぇよ。坊ちゃんか、坊ちゃん以外かって思想。」

そっとその場から少し離れて、今度は苦笑していて事の成り行きを見ていた先輩庭師に疑問をぶつけてみると、そんなどこぞのNo.1ホストみたいな台詞を言われてしまう。
そんな生き方したことがないし、しようとも思わない。
生き辛くないのだろうかと首を傾げると、先輩庭師は新人に言った。

「運命の番なんだから、そういうもんじゃないか?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版) 読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭 1/27 1000❤️ありがとうございます😭

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

君はアルファじゃなくて《高校生、バスケ部の二人》

市川パナ
BL
高校の入学式。いつも要領のいいα性のナオキは、整った容姿の男子生徒に意識を奪われた。恐らく彼もα性なのだろう。 男子も女子も熱い眼差しを彼に注いだり、自分たちにファンクラブができたりするけれど、彼の一番になりたい。 (旧タイトル『アルファのはずの彼は、オメガみたいな匂いがする』です。)全4話です。

毒/同級生×同級生/オメガバース(α×β)

ハタセ
BL
βに強い執着を向けるαと、そんなαから「俺はお前の運命にはなれない」と言って逃げようとするβのオメガバースのお話です。

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

この噛み痕は、無効。

ことわ子
BL
執着強めのαで高校一年生の茜トキ×αアレルギーのβで高校三年生の品野千秋 α、β、Ωの三つの性が存在する現代で、品野千秋(しなのちあき)は一番人口が多いとされる平凡なβで、これまた平凡な高校三年生として暮らしていた。 いや、正しくは"平凡に暮らしたい"高校生として、自らを『αアレルギー』と自称するほど日々αを憎みながら生活していた。 千秋がαアレルギーになったのは幼少期のトラウマが原因だった。その時から千秋はαに対し強い拒否反応を示すようになり、わざわざαのいない高校へ進学するなど、徹底してαを避け続けた。 そんなある日、千秋は体育の授業中に熱中症で倒れてしまう。保健室で目を覚ますと、そこには親友の向田翔(むこうだかける)ともう一人、初めて見る下級生の男がいた。 その男と、トラウマの原因となった人物の顔が重なり千秋は混乱するが、男は千秋の混乱をよそに急に距離を詰めてくる。 「やっと見つけた」 男は誰もが見惚れる顔でそう言った。

片桐くんはただの幼馴染

ベポ田
BL
俺とアイツは同小同中ってだけなので、そのチョコは直接片桐くんに渡してあげてください。 藤白侑希 バレー部。眠そうな地味顔。知らないうちに部屋に置かれていた水槽にいつの間にか住み着いていた亀が、気付いたらいなくなっていた。 右成夕陽 バレー部。精悍な顔つきの黒髪美形。特に親しくない人の水筒から無断で茶を飲む。 片桐秀司 バスケ部。爽やかな風が吹く黒髪美形。部活生の9割は黒髪か坊主。 佐伯浩平 こーくん。キリッとした塩顔。藤白のジュニアからの先輩。藤白を先輩離れさせようと努力していたが、ちゃんと高校まで追ってきて涙ぐんだ。

雪は静かに降りつもる

レエ
BL
満は小学生の時、同じクラスの純に恋した。あまり接点がなかったうえに、純の転校で会えなくなったが、高校で戻ってきてくれた。純は同じ小学校の誰かを探しているようだった。

処理中です...