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少し前、興味があってあの子の両親が務める会社を調べた事がある。
それは幼馴染の両親の会社の取引先………の、取引先の子会社という中々に遠いというかぶっちゃけ無関係だった。
そこにどうのこうのな関係値を新たに気付くのは難しい。

普通ならば。

ただ、幼馴染とあの子は校内で常にワンセットにされる程に一緒に居た。
それは学校関係者や同窓生、何なら二学年下の子供ですら周知の事実。
だから私と父はそこを利用した。

『両親を喪って孤独を抱えている彼を、癒してあげたい。ほんの少しでいいから協力して欲しい。』

学生時代の思い出話も添えて言えば、そこまでお世話になっていたのならばと。
寧ろこんな時までご挨拶が出来ず申し訳ないと謝られた。
まぁ、謝罪は良い。
あの子の両親は至って普通の人間らしく何度も遠慮されたが、結局費用は此方が全額出すことになった。
無理を言っているのは此方なので、当然の話だ。

そうして次の日の昼には、あの子はこの場所に戻って来た。
空港には私と父が迎えに行った。
あの子は幼馴染が立ち直る為のキーパーソン。
今の所愚かなハイエナ共にバレてはいないが万が一気付かれてしまっては厄介だし、あの子達親子だけで幼馴染の家にのこのこ行って排除されても困るからだ。

「………彼は?」
「特に、。遺族としての義務を果たしているだけ。」
「そう………。」

挨拶をし合う互いの親を尻目に、少なくも情報の詰まった言葉で会話をする。
ギュッと寄せられた眉根に、彼女の心配度合いが伺える。
いつだって、彼女が感情を表すのは幼馴染に対してだけだった。

「さぁ、行きましょう。葬儀は明日ですので、今日は我が家でゆっくり休んでいてください。」

父にそう促されるまま車に乗り込んで、幼馴染の家………に向かう前に、私の家へと向かう。
身に着ける物一つでも、ハイエナ共は群がりこれ幸いと嫌がらせをしてくるだろう。
だから貴重品だけ持って来て欲しい、後は此方で相応しい物を用意するからと予め伝えてあった。
勿論、困惑はされたが父が口八丁でごり押しをして、何とか最低限の荷物だけで来てもらった。

「君の家?」
「そう。だから。」

今すぐにでも行きたいんだと言いたげな表情を浮かべるあの子には、私がそう言って納得させた。
幼馴染にとって必要ならば、あの子はいつだって、どんなことだって我慢する。
勿論、信頼関係が築けてない相手の言葉をハナから信用しないのだが。
そう思うと私の言葉は信じるに値するということなのだろう。

「通夜が終わったら傍に居てやって欲しい。」
「でもそれは………」
「君にしか、出来ない。それは彼の婚約者も承知だ。」

正直な話、幼馴染は婚約者と上手く信頼関係を築けていない。
今回、両親が亡くなったことを機に解消されるのではないかと噂される程だ。
不仲ではない。
だが、他人同士でしかない距離感でしかなかった。
だから今回、こうして幼馴染に会わせることを一応婚約者一家に話を通した際には、ご自由にどうぞとだけ返された。
噂が事実がどうかは分からないが、堕ち逝く存在には興味が無いのだろう。

「そう、か………分かった。。」
「そうして欲しい。」

結局なんだかんだ、あの子のすることを幼馴染は受け入れる。
幼馴染が本当に嫌がることを、絶対にしないからだ。
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