上 下
9 / 36
Eの悔恨

しおりを挟む
私には幼い頃からの自負があった。
それは私が誰よりも優れているという確固たる事実だ。
頭脳も、魔力も、力も………そして顔も。


勿論、だからといって他者を侮っている訳ではない。
こんな自負なんて、油断していると足元からごっそりと崩れ去る砂上の楼閣だということは分かっていたから。
私は常に努力を重ね、誰からも引きずり下ろされないようにしてきた。
私のちっぽけなプライドだ。

しかしそれは私自身が選んだ道だ。

だというのに、私はそんな日々に疲れてしまった。
他の騎士達から向けられた嫉妬ややっかみの視線、私の顔と実家の権力や金ばかり見る他人達。
その何もかもにうんざりとしていた。
ましてや実力もあるから第三王子の護衛騎士団の一員になってしまったことで、その視線はますます強くなるばかり。
だから言い訳をするならば、私は本当に疲れていたしイライラしていたんだ。

『何処へ行く。』

聖女が見付かったあの日、盲目の聖女を甲斐甲斐しくエスコートをしていた見窄らしい男。
正直に言えば私は見下していた。
盲目が故に爪弾きにされていた聖女と共に身を寄せ合って暮らしていた謎の男。
第三王子も頬を赤く染め聖女を褒めちぎり囲む中、男は興味無さそうな顔で欠伸をしながら儀式の間を出て行った。
平民の分際で、なんて無責任な奴だ。
こういう奴は聖女が権力と富を持ったら付き纏うに決まっていると、私は何の根拠もなくそう思い込み男に声を掛けた。
否、声を掛けたというよりも威圧したという方が正しかった。

『別に。貴方には関係無いのでは?』

しかし、男は予想に反して当たり前のように私を睨み付けて反論する。
男は身長も低く、華奢というよりもただの痩せぎすな体型だった。
それなのに、怯むこともなく男は私に言葉を発する隙も与えずに言葉を続けていく。
平民以下の存在の癖に、なんて無礼な奴だと思った。
殺してやろうか。


『アンタ達に俺は羽虫以下の命かもしれないけど、俺だって生きていたいんだよ。』

だが、涙をじんわりと浮かべながらもそう言われた瞬間、私は殴られたような衝撃を受けた。
当たり前の話だ。
誰もが、生きている。
だが私は彼に対して何と思っていた?
私は初めて、自分自身を恥じた。

何も言えずに黙り込む私を見捨てるように、男は背を向けて走り出した。
この時に謝罪をきちんとしていたら、何か変わったのだろうかと今でも思う。
けれども現実の私は何も言えなかったし、どうにも動くことが出来なかった。

これが一度目の、私の後悔
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

台風の目はどこだ

あこ
BL
とある学園で生徒会会長を務める本多政輝は、数年に一度起きる原因不明の体調不良により入院をする事に。 政輝の恋人が入院先に居座るのもいつものこと。 そんな入院生活中、二人がいない学園では嵐が吹き荒れていた。 ✔︎ いわゆる全寮制王道学園が舞台 ✔︎ 私の見果てぬ夢である『王道脇』を書こうとしたら、こうなりました(2019/05/11に書きました) ✔︎ 風紀委員会委員長×生徒会会長様 ✔︎ 恋人がいないと充電切れする委員長様 ✔︎ 時々原因不明の体調不良で入院する会長様 ✔︎ 会長様を見守るオカン気味な副会長様 ✔︎ アンチくんや他の役員はかけらほども出てきません。 ✔︎ ギャクになるといいなと思って書きました(目標にしましたが、叶いませんでした)

【完結】スイートハニーと魔法使い

福の島
BL
兵士アグネスは幼い頃から空に思い憧れた。 それはアグネスの両親が魔法使いであった事が大きく関係している、両親と空高く飛び上がると空に浮かんでいた鳥も雲も太陽ですら届く様な気がしたのだ。 そんな両親が他界して早10年、アグネスの前に現れたのは甘いという言葉が似合う魔法使いだった。 とっても甘い訳あり魔法使い✖️あまり目立たない幸薄兵士 愛や恋を知らなかった2人が切なく脆い運命に立ち向かうお話。 約8000文字でサクッと…では無いかもしれませんが短めに読めます。

彼の至宝

まめ
BL
十五歳の誕生日を迎えた主人公が、突如として思い出した前世の記憶を、本当にこれって前世なの、どうなのとあれこれ悩みながら、自分の中で色々と折り合いをつけ、それぞれの幸せを見つける話。

学園の俺様と、辺境地の僕

そらうみ
BL
この国の三大貴族の一つであるルーン・ホワイトが、何故か僕に構ってくる。学園生活を平穏に過ごしたいだけなのに、ルーンのせいで僕は皆の注目の的となってしまった。卒業すれば関わることもなくなるのに、ルーンは一体…何を考えているんだ? 【全12話になります。よろしくお願いします。】

雪は静かに降りつもる

レエ
BL
満は小学生の時、同じクラスの純に恋した。あまり接点がなかったうえに、純の転校で会えなくなったが、高校で戻ってきてくれた。純は同じ小学校の誰かを探しているようだった。

(…二度と浮気なんてさせない)

らぷた
BL
「もういい、浮気してやる!!」 愛されてる自信がない受けと、秘密を抱えた攻めのお話。 美形クール攻め×天然受け。 隙間時間にどうぞ!

小学生のゲーム攻略相談にのっていたつもりだったのに、小学生じゃなく異世界の王子さま(イケメン)でした(涙)

九重
BL
大学院修了の年になったが就職できない今どきの学生 坂上 由(ゆう) 男 24歳。 半引きこもり状態となりネットに逃げた彼が見つけたのは【よろず相談サイト】という相談サイトだった。 そこで出会ったアディという小学生? の相談に乗っている間に、由はとんでもない状態に引きずり込まれていく。 これは、知らない間に異世界の国家育成にかかわり、あげく異世界に召喚され、そこで様々な国家の問題に突っ込みたくない足を突っ込み、思いもよらぬ『好意』を得てしまった男の奮闘記である。 注:主人公は女の子が大好きです。それが苦手な方はバックしてください。 *ずいぶん前に、他サイトで公開していた作品の再掲載です。(当時のタイトル「よろず相談サイト」)

高嶺の花宮君

しづ未
BL
幼馴染のイケメンが昔から自分に構ってくる話。

処理中です...