すれ違い夫婦の不幸な結婚

かかし

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本編

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―――初めて君を認識した時から、俺の世界に色が着いたんだ。

あれは俺が高校生の頃。
俺は‪α‬ばかりが通う学校で底辺って訳でもなかったが、なまじ上位に居たもんだから努力する意味が分からずに腐っていた時だった。
不良の真似事で髪を金髪に染めて、制服も着崩して、そういう連中とつるんで遊んで。
それでも気が晴れることはなく、ゲラゲラと笑いながらも何が楽しいんだかと内心バカにしていた。

そんな時だった。
駅のホームで電車を待っていると、心臓を揺さぶるような衝撃を鼻腔に感じた。
甘い、けれど上品な金木犀の香り。
思わず匂いがした方を振り向くと、そこに居たのは同じ歳くらいのフィメールが二人、仲良さそうに手を繋いでそこに居た。
制服からβとΩが通う高校だということは辛うじて分かるその二人は、パッチリとした二重瞼の目が大きくて可愛い子と、その子に反して地味な子だった。
俺が振り向くと同時に、他の連中もそれに釣られて振り向き二重の子に可愛い可愛いと囃し立てだす。
だが俺は、その隣に居る地味な方の子から目が反らせなかった。

そもそも地味だっていっても、一度も染めたことがないだろう黒髪は痛みを知らずに艶やかで綺麗だし化粧をしてない肌は真っ白で………つまり、清楚系ってやつだ。

この香りはあの子からだろうか。
あの子からであって欲しい。
そして、あの子の隣に俺も‪あの子の‪α‬として立ちたい………!

匂いを嗅げば嗅ぐ程、その思考が強くなっていく。
手を繋いでいるもう一人の生徒が邪魔で邪魔で仕方ない。
本能的に分かった。
あの子はΩで、もう一人はβだと。

何故βの分際で俺のΩに触れてるんだ?
何故俺のΩに笑いかけてもらってるんだ?

‪α‬としての本能がもう既にあの子を俺の、俺だけのΩだと叫び出す。
今日初めて目にしたばかりなのに、まだ話し掛けてもないのに。
周りの奴らは、βだというのにもう一人の見た目にだけ騙されている。
滑稽だ。
でも、それでいい。
あの子を見るな、認識するな、俺だけのΩだ。

「うぉっ!義之どうした?」
「………いや、何でもない。」

そう思った瞬間、βが愛しそうにあの子の頬に触れた。
思わず威圧のフェロモンを出せば当然周りのα達が騒ぎ出してしまったので、何でもないと誤魔化しておく。
何でもなくはなかったんだが、こいつらにあの子の良さに気付いて欲しくなかったし、何より俺が威圧していることをあの子に知られたくなかった。
怯えられたり嫌われたりしたら、死ねる自信しかない。

その場では取り繕いながら、タイミング良く来た電車に急いで乗り込めば自然と別の話題へと移る。
別に可愛い子なんていくらでも居る。
だからアイツらの興味なんて一瞬で消えてなくなったようだが、俺の中にはずっとずっとあの香りと共に残り続けた。

あのクソ生意気なβから、どうやって引き剥がして俺のΩにしようか。
俺の頭の中は、そんなドロドロとした感情でいっぱいだった。
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